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映画『パンドラの約束』から何を学ぶべきか

WiLL 2014/4/8(火) 1:50配信

原発反対の環境保護派が原発支持に転換

 原子力発電に反対してきた環境保護派の人々が原発支持に転換する動きを追ったドキュメンタリー映画『パンドラの約束』(ロバート・ストーン監督)が、四月から全国各地で一般公開される。
 私がこの映画で一番関心を持ったのは、ここで紹介されている固有安全性を持った原子炉の話である。統合型高速炉(IFR)と呼ばれる原子炉で、発電用原子炉に使用済み燃料の再処理施設が組み込まれているタイプだ。
 安全性の確保というだけでなく、燃料処理、高い核不拡散性を含めた課題に対する答えを示している点で統合型という表現が適当だと思う。  
 米国のアルゴンヌ国立研究所で開発が進められたもので、現在の原発技術のランク付けでも「第四世代炉」に位置づけられる先端的な技術が生かされている。
 映画には、一九八六年に米国でこの原子炉を使った過酷事故実験の場面が登場する。福島事故の原因となった「全電源喪失」状態を起こしたが、人の手を全く借りることなく、原子炉は完全に停止。固有安全性を実際に証明している様子が紹介されている。すでに、三十年近く前にこのような技術が存在していたというのは驚きであった。
 さらに、IFRは、放射性廃棄物を約三百年で天然ウラン並みに無害化する特性もあり、廃棄物の質量も大幅に少なくできるという。私の調べでは、ちょうどそのころに旧ソ連のチェルノブイリ原発事故があり、その騒ぎの影響もあって、この原子炉は世間の注目を集めることなく、当時の米民主党政権が開発中止を決めてしまったようだ。もっと注目をあびていれば、安全な原子炉の切り札となっていた可能性があったと思う。残念でならない。

日本の責務

 福島事故を機に、日本では原発の安全性確保や使用済み燃料の処理、さらには核不拡散問題と正面から向き合わなければならなくなっている。この問題を克服するために、IFR実用化は重要なポイントになると考えられる。その点を、映画が示しているのではないか。
 短期的な取り組みとしては、安全性を高めた国内既存原発の再稼働を進めていくべきである。中東問題をはじめ日本で原発が稼働していない現実は極めて大きなリスクだ。日本の電力供給確保のために、老朽火力発電所をかろうじて動かしてしのいでいるわけだから、こうした火力がいつ止まるかわからないし、イラン危機も残されたままだ。
 ただし、中長期的にはIFRなどの第四世代炉開発、使用済み燃料の根本的解決策を含めた新たなパラダイムを示さないと原子力に対する国民の理解は前進しないのではないか。世界的な原子力に対する取り組み、動きにも十分に目を向け、国際連携も含めてパラダイムを構築する必要がある。
 映画でも紹介されているように、再生可能エネルギーの限界や世界人口の増加、新興国・途上国による急激なエネルギー需要の増加は、かなりの人々が認識しつつある気がする。
 日本は現段階においては世界トップレベルの原子力技術を持っている。日本の原子炉輸出に期待している国々も多く、日本からの原子力技術協力が大きいのも現実だ。こうした動きも含めて、日本の中長期的な対応を真摯な姿勢で確立していく大切さを忘れてはならない。
 『パンドラの約束』から、多くの事実を学び、それを世界に広め、課題に取り組んでいく責務が日本にはある。それが、同時に世界の多くの科学者が指摘している地球温暖化問題解決の回答にもなるだろう。
 そういう論理を中長期的にもしっかりと形成しなければ、日本のエネルギー論議は前に進まない。そういう大きな絵を、この映画は見せてくれているのではないか。

田中伸男(前国際エネルギー機関事務局長)

最終更新:2014/4/8(火) 10:39

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