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憲法学者の間違った「憲法論」

WiLL 2015/7/1(水) 17:13配信 (有料記事)

筋が通らない野党、平和主義者の主張

 安全保障関連法案審議のために平成二十七年六月五日に開かれた衆議院憲法審査会において、自民・公明両党推薦の長谷部恭男早大教授、民主党推薦の小林節慶大名誉教授、および維新の党推薦の笹田栄司早大教授の三人が参考人として出席した。参考人質疑において、なんと与党推薦の長谷部氏を含めた三人全員が「安全保障関連法案は憲法違反である」と批判した。
 野党は鬼の首でも取ったように勢いづいてしまって、違憲の法案は撤回するようにと要求する始末。平和安全特別委員会は紛糾してしまったので、当初予定していた会期中に法案を通過させることは難しくなったと考えざるを得ない。
 菅義偉官房長官が談話で「合憲と考える憲法学者もいる」と述べたが、辻元清美委員から言葉尻を捉えられて「それは誰か、何人か」と迫られた。「西修駒澤大名誉教授、百地章日大教授、長尾一紘中央大名誉教授」と答えたが、「たったの三人か」と逆襲された。菅官房長官は「数ではない」と苦しい答弁をした。くだらないやり取りだが、一般の国民は政府に不信感を持ったであろう。
 自民党の佐藤勉国会対策委員長はこの人選ミスに激怒して、同党の船田元審査会筆頭幹事に「参考人の人選には十分配慮してほしい」と申し入れた。単なるミスでは済まされない、全くお粗末な一幕であった。
 与党が推薦した長谷部氏は筋金入りの護憲派で、もともと集団的自衛権には反対なのだから、この発言は予想できたはずだ。氏は、宮沢俊義から芦部信喜と続くエスタブリッシュメント憲法学者ラインの中心である。芦部氏の葬儀の折には、長谷部氏が葬儀委員長を務めたほどである。
 長谷部氏は宮沢・芦部両氏の憲法論を若干修正して、次項に述べる憲法の性格や自然法との関連についても詳しく論じている。しかし、いざ現実への応用のための条文解釈になると、一般法(民法、刑法、商法などの実定法)の解釈論から一歩も出ていない。憲法九条の条文と現実との整合性に捉われてしまっているのだ。
 長谷部氏は、立憲主義と絶対平和主義は両立し得ないとまで言って、「国民全員が無抵抗で殺されてでも九条を護れ」などという絶対平和主義に対しては厳しく批判をしている。かつて『構造と力』を著して、ニュー・アカデミズムの代表とまでいわれた浅田彰京都造形芸術大学教授が若かった京都大学準教授時代に、「(九条は)侵略があれば全滅してもよいという覚悟を語っているのだから、平和憲法はラディカルだ」といったことを思い出させる。
 野党やいわゆる平和主義者が、「他国から侵略されたら殺されてもよい」と覚悟をしているのなら筋が通っている。彼らが覚悟をするのは勝手だが、それを他人に押し付けないでほしい。もし覚悟がないのなら筋が通らないので、主張がメチャクチャだ。
 長谷部氏は以前から、現行憲法でも個別的自衛権で武力は行使できると解釈すべきであるとの意見表明をしていたので、自民党の人選担当者が間違ってしまったものだろう。しかし、制限的な武力行使は専守防衛に行き着くから、決して勝ってはいけないことを法律で定めるに等しい。
 敵は撃退されてもその都度、体制を整え直して何度でも安全に攻めてくることができるから、日本は決して勝つことができない。負けて殺されてしまうわけだから、長谷部氏の平和主義批判は中途半端で貫徹できないことになる。殺されたくないのであれば、憲法に何と書いてあろうとも、自衛隊には「歯止め」なしに全力で抵抗してもらわなければならないのだ。
 長谷部氏は、個別的自衛権までは容認するにしても、集団的自衛権には反対だった。本法案を「従来の政府見解の基本的な論理の枠内では説明がつかない」と批判し、「どこまで武力行使が新たに許容されるのかはっきりしていない」と述べた。要は「歯止め不十分論」である。
 審査会で長谷部氏の発言を引き出した民主党の中川正春元文部科学相は、党代議士会で「憲法審査会で久しぶりに痛快な思いをした」と満足げに語ったという。日本が滅びてしまったら、もっと満足なのだろうか。本文:15,349文字 この記事の続きをお読みいただくには、WiLLプレミアム on Yahoo!ニュースの購入が必要です。

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青柳武彦(国際大学グローコム客員教授(元教授)学術博士)

最終更新:2015/7/1(水) 17:49

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