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「安保法制」は戦後日本政治三大業績のひとつ【佐瀬昌盛】

WiLL 2015/7/9(木) 15:29配信 (有料記事)

誤りだった一九八一年の政府見解

昭和二十一年十一月三日に公布された日本国憲法の制定過程をめぐっては、戦後一貫して論争が絶えない。一方にはそれはGHQにより押しつけられたものだとの主張があり、他方には幣原喜重郎前内閣総理大臣ら幾人かとGHQとの一種の共同作品なのだとする声がある。どのみち、戦後日本の憲法論議の中心にあるのは、「第二章 戦争の放棄」を構成する唯一の条たる第九条であった。
 日本国憲法の公布から六十九年後の今日にあっても、この基本的構図には変化が見られない。第九条をめぐる今日の憲法論争の中心にあるのは、たしかにわが国は戦争は放棄したが、日本国憲法より先に誕生した国際連合憲章がその第五十一条において、すべての主権国家につき定めている「個別的又は集団的自衛の固有の権利」がわが国にも備わっているのか否か、そしてもし「然り」ならば、特に集団的自衛権を現行憲法下で行使できるのか否かの問題である。平成二十四年末に政権の座に返り咲いた安倍晋三首相にとっても、この事情は変わるところがない。
 念のために言うと、日本国憲法の誕生は国際連合憲章の制定(署名)より一年五カ月ほど遅い。したがって、後者のほうが先発法規である。憲法九十八条第二項には「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」とあるし、わが国は一九五六年の国連加盟に際して憲章に何の留保もつけなかった。だから、国連憲章と日本国憲法との関係は、敢えてそこに上下関係を付けるとすれば前者が上位、後者が下位に立つということになる。現行憲法が最高法規だとされるのは、あくまでも国内法規としての話である。
 安倍首相はすでにその第一次政権において、国連憲章第五十一条にいう自衛権問題、分けても集団的自衛権問題を重視し、それまでの政府解釈を変更する余地を求めて、まず「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(略称「安保法制懇」)を設置し、メンバーの見解を徴した。
 第二次安倍内閣においても同名の懇談会が設けられ、二度目の報告書が提出された。それを受けて昨平成二十六年七月一日に、この問題に関する「閣議決定」が生まれ、その線に沿って新しい安保法制に係る法律案が作成されて国会審議に供せられている。
 今次国会における与野党の勢力差は大きく、法案の衆参両院通過にはさほどの困難が予想されなかった。ところが蓋を開けてみると、案に相違して安倍政権は苦闘を強いられている。原因は安倍総理の失言、岸田外務大臣、中谷防衛大臣の不適切答弁などだが、その結果、本稿執筆の時点では法案の順調な成立は危ぶまれ、大幅な会期延長は不可避との観測が強まっている始末である。
 いろいろな諺が思い出される。「勝って兜の緒を締めよ」「千里の堤も蟻の穴から」「驕る平家は久しからず」。安倍政権は謙虚に反省する必要があろう。突如として起きたかに見える変調の原因はどこにあるか。順調とみられた道程に危うい個所はなかったのか。今後、注意を要するのは如何なる問題か。
 私は第一次、および第二次の「安保法制懇」の末席を汚した。その経験から、新しい安保法制の成立を目指す現政権に対して、いくつかの注文がある。その第一は、一見、物の役に立たないような書生論的主張についてもこれを軽視するなということである。第二には、国会論戦で政権側が当面の切り抜け策として見えすいた言い逃れに走ることなく、「良薬、口に苦し」の諺を忘れないことであろう。そして第三に、国会で安定多数をもっているからといって政権が世論の動向を軽視してはなるまいという、分かり切った事柄である。本文:17,639文字 この記事の続きをお読みいただくには、WiLLプレミアム on Yahoo!ニュースの購入が必要です。

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佐瀬昌盛(防衛大学校名誉教授)

最終更新:2015/7/9(木) 15:29

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