ここから本文です

忙しい人のために、5分でわかるギリシャの真実

WiLL 2015/8/7(金) 15:04配信

「公務員が多く、ろくに働かない」は大嘘

 2015年7月1日。ギリシャがIMF融資15億ユーロ(約2000億円)の返済不能となり、デフォルトした。7月5日、ギリシャ国民はEUからの支援と引き換えに、増税(付加価値税率アップ)や政府の財政支出削減という緊縮財政を受け入れることについて、国民投票で「NO」を突きつける。
 ところが7月11日、ギリシャ議会がEUや債権団が要求する120億ユーロの緊縮財政を承認。ギリシャ国民は当然ながら激怒し、アテネでは反緊縮財政のデモが続けられている。
 ところで、予想はしていたが、ギリシャ政府のデフォルトを受け、日本国内では相も変わらず出鱈目な報道が相次いでいるので、訂正しておきたい。日本のメディアは、「ギリシャは公務員だらけで怠け者ばかりだから破綻した」といった嘘八百を平気で流している。
 2009年のギリシャ危機勃発前、たしかにギリシャの公務員は多かった。別に、北欧のような福祉大国というわけではないにもかかわらず、公務員対労働人口比率が20%を超えていたのだ。とはいえ、その後のギリシャは緊縮に励み、容赦なく公務員を削減。公務員対労働人口比率は、OECD平均どころか、すでにドイツすら下回っている。
 また、労働者一人当たりの労働時間を比較すると、実はOECD諸国で最長なのがギリシャである。「ギリシャは公務員が多く、ろくに働かない」といったデマに騙されないでほしい。
 ギリシャがデフォルトしたのは、バブル崩壊後のデフレ期であるにもかかわらず緊縮財政を強行し、国民経済(GDP)がひたすら縮小してしまったためだ。GDPが縮小すると、税収が減る。ユーロ加盟国で通貨発行権を持たないギリシャは、税収が減れば対外負債のデフォルトに陥らざるを得ないのである。

ギリシャはユーロの犠牲者!

 それ以前に、ギリシャがEUやユーロに参加する時点で無理があった。理由は、ギリシャの生産性が他の加盟国(特にドイツ)に比べて、著しく低かったためである。そもそも、OECD諸国で労働時間が一番長いという事実は、ギリシャが低生産性国である証だ。
 生産性とは、生産者一人当たりの付加価値(モノ・サービス)の生産を意味する。生産性が高いとは、生産者(企業で言えば従業員)一人当たりの付加価値の生産が大きいという意味になる。生産性を向上させる方法は、実は「投資」だけである。
 投資といっても、株式投資や土地への投資ではない。設備投資、人材投資、技術開発投資、そして公共投資という4つの投資だけが、生産者一人当たりの付加価値の生産を増やす。「根性」や「長時間労働」では、継続的な生産性の向上はできない。
 ギリシャは生産性が低い状況で、EUという統一市場、ユーロという統一通貨に参加した。結果的に、ギリシャは関税や為替レート引き下げという、自国市場を保護する術を失ってしまう。結果、たとえば自動車分野でいえば、ユーロ加盟後に膨大なドイツ製自動車がギリシャ市場に雪崩れ込んだ。
 ドイツが対ギリシャ輸出をどれだけ増やしても、ギリシャ側は関税をかけられず、為替レートの変動もない。自国の市場を外国企業に席巻された状況では、ギリシャ企業の生産性向上は起き得ない。
 また、ギリシャはユーロに参加したことで、国債発行に際してドイツやフランスと競争しなければならなくなった。ユーロの国債市場は、別にギリシャ政府に資金を貸し付ける義務はない。独仏両国政府などとの競争の結果、ギリシャ国債の金利は上昇。金利が高い環境下では、設備投資や人材投資、技術開発投資のために企業が資金を融通することが困難になっていく。しかも、ギリシャはユーロ加盟国であるため、中央銀行が国債を買い取り、金利を抑制することすらできない。
 ギリシャは結局、ドイツに代表される高生産性国に対し、自国市場を「所得を稼ぐ場」として提供しただけだった。ギリシャが「反撃」するためには、関税や為替レートで自国市場を保護し、金利を引き下げ、投資を増やす必要があったのだが、構造的に不可能だった。ギリシャはユーロという「構造問題」により破綻したのだ。

三橋貴明(経済評論家)

最終更新:2015/8/8(土) 2:08

WiLL

記事提供社からのご案内(外部サイト)

WiLL

ワック

2017年1月号
10月26日発売

特別定価800円(税込)

【総力特集】 さぁ、トランプだ 覚悟せよ!
トランプは天才奇術師ですな 渡部昇一
【特集】 自沈するセウォル号国家