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新国立に匹敵する巨額事業――中学武道必修化でなぜ2500億円が必要なのか?

HARBOR BUSINESS Online 6/9(木) 9:10配信

【中学校武道必修化の是非を問う 連載第1回】

◆必修化国民の61%同意も、「新国立競技場並み」の費用と誰も認識せず

 2012年(平成24年)4月に完全実施された「中学校武道必修化」は、2006年に自民党・第一次安倍政権下で約60年ぶりに改正された教育基本法に「伝統と文化の尊重」という一文が盛り込まれたことを受けて、2008年の新・学習指導要領改訂により実施されることが決まりました。

 2012年4月に産経新聞が実施したeアンケートでは、必修化に賛成という意見が61%を占め、国民には概ね好意的に受け止められていたように思います。

 ですが、このアンケートはトレードオフの視点が欠落しています。武道必修化にかかる全体的な費用が明示されていないのです。それでは現在、以下のようなアンケートの設問を投げかけたら、国民は一体どのように回答するでしょうか?

「中学校武道必修化には、新国立競技場建設費旧案2520億円並みの費用がかかる可能性がありますが、あなたは必修化に賛成ですか?」……国の借金が1000兆円を超えると言われ、政治とカネの問題が政権の足元を揺るがしている今日、国民の賛同を得ることはおそらく難しいでしょう。

 この「新国立競技場建設費旧案2520億円並みの費用がかかる可能性がある」というのは「仮説」ではありますが、実はあながち有り得ない話ではないのです。本稿では誰もが知らなかった中学校武道必修化の費用総額を解明していきます。

◆「安い」と思い込み費用の実態を認識していない武道関係者

 武道必修化の費用総額は、武道関係者さえもきちんと把握している人はほとんどいないように思います。私は柔道関係者と話す機会が多いのですが、その多くが武道必修化全体の費用を目先の用具の費用に矮小化して捉えている傾向があるように思います。即ち彼らは「剣道は防具が高額だが、柔道では生徒は柔道衣だけ、学校は畳だけ用意すればいいので安上がり」という論理を展開しがちです。武道専門誌で柔道関係者が授業で柔道の選択が多い理由について、「柔道衣の購入(安価)と、学校にある畳で授業が成立することが一因」と書いています(月刊武道 2015年8月号)。また、文部科学省のホームページ上でも「費用がかからないという理由からか、多くの学校が柔道を選択している」と説明されています。

 お察しの方もいるかと思いますが、中学校武道必修化の実態は典型的な「ハコモノ行政」であり、費用の大部分は武道場整備費です。武道場を全国各地の中学校に建設する費用が「安い」わけがありません。

 昨年、新国立競技場建設費問題が社会的に大揉めになった頃、講道館の機関誌に以下の記事がありました。新国立競技場の膨大な費用について、「国の借金が1000兆円(国民1人あたり800万円)もある我が国において、そのような設定が許されるのか、との疑問は当初からあった」と件の「1000兆円借金話」を引用し、論った後の文末で、武道場を「1日も早く全ての中学校に完備するよう、政治や行政には更なる努力を切望したい」と締めくくったのです(雑誌柔道 2015年9月号)。この記事を書いた方は、よもや新国立競技場建設費旧案2520億円と、全ての中学校に武道場が完備された場合の武道必修化の費用総額がほぼ同額になる可能性があることには気付いていないようです。

 ちなみに剣道関係者からも「体育館の方が武道場より怪我が多く、武道場の設置が必要」と主張する声はあるものの、剣道は体育館の床で実施することに大きな支障はなく、武道場の設置はほぼ柔道の都合であることが明白です。

◆費用総額を隠蔽し、国民の質問にも答えない文科省

 それでは、何故武道必修化の費用は誰にも知られていないのでしょうか。それは簡単なことで、文部科学省が総額を公表していないからです。文科省は、毎年9月にホームページ上で概算要求資料を公開しているのみです。そこには当年度予算と、次年度予算として財務省に要求する概算要求額が記載されていますので、単年ベースでは文科省予算は把握できます。さらにスポーツ関連予算の内訳として、武道関連費(武道場整備費など)の明細金額が確認できます。しかし将来を見越した累計の費用は全く公表されていません。

 さらには文科省は武道必修化について国民にきちんと情報提供しようという考えは希薄なようです。一方的に断片的な情報を伝えるのみで、質問や取材に誠意をもって答えようという意志が感じられません。

 例えば、民主党政権時代に当時野党だった自民党の馳浩衆院議員(現・文科相)が中学校武道必修化について2度も質問主意書を提出していますが、民主党は答弁書の回答をはぐらかしています。基本的な認識を問う質問には答えているものの、状況や対応を問う質問には「把握していない」「承知していない」「学校の設置者が判断すべきこと」とほとんど答えになっていません。

 それでは与党と野党が入れ替わった現在、民進党が質問主意書を提出したら、馳浩文科相はきちんと答えるでしょうか?それも望み薄です。与野党が入れ替わろうと実際に答弁書を書くのは同じ文科省の役人なのですから……。

 こんなこともありました。武道専門誌が武道必修化を特集した際に文科省を取材した時も、表層的な話しか答えず、何度かのやり取りの後、「一商業誌に特別な対応はできない」と取材を打ち切られた(月刊秘伝 2011年9月号)という話が伝わってきています。

◆エビデンスに基づく推論で中学校武道必修化の費用総額を検証

 本稿のテーマである「中学校武道必修化の費用総額」について、文科省に聞いたところで答えははぐらかされるでしょうが、信頼できる情報を紡ぎ合わせることで仮説を導き出し、さらにその仮説を検証する手法で核心に迫ろうと思います。エビデンスに基づく推論を展開していきます。

 元外務省主任分析官で「諜報のプロ」の作家・佐藤優さんは、機密情報の「95~98%は、新聞、雑誌書籍、政府機関のHPなど誰でもアクセスできる公開情報から得られる」と言っています(新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方 池上彰、佐藤優,文春新書,2014年11月)。情報を取捨選択するリテラシーさえあれば、真実の答えは得られるものと確信しています。

 次回は中学校武道必修化費用総額が、新国立競技場建設費旧案2520億円とほぼ同額になる可能性があるという「仮説」の基礎となる「武道場1棟当たりの整備費」を検証します。

<取材・文/磯部晃人(フジテレビ) 写真/克年三沢>

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最終更新:6/9(木) 9:10

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