ここから本文です

島国が島国であることの意味 英国はEUから離脱するか その1

Japan In-depth 6/12(日) 10:11配信

手元に『Just Say No』というタイトルの本がある。おそらく未邦訳だと思われるが、強いて邦題をつけるなら『ダメなものはダメ』とでもなるだろうか。

サブタイトルに『ユーロ(加盟)に反対する100の理由』とあり、著者は保守党の下院議員を長く務め、反EUの急先鋒として知られるジョン・レッドウッド氏。これでおそらく、読者諸賢には,論旨についておおよその察しがついたのではあるまいか。

そう。この本は、統一通貨ユーロをはじめ、今世紀に入ってから劇的に進展したヨーロッパ統合の動きに反対する、英国の伝統的なナショナリズムを、理論的に正当化したものなのである。もう10年ほども前の話になってしまうが、私はこの著者と、ロンドンで会っている。

こんな問答をした。

ーーあなたは反EU派の論客として有名ですが、私の記憶が確かならば、第二次大戦後、ヨーロッパ合衆国という構想を最初に打ち出したのは、あなた方(保守党政治家)の偉大な先輩である、サー・ウィンストン・チャーチルではありませんでしたか?

「ええ。たしかに彼は、そう呼びかけました。しかしそれは、ヨーロッパ諸国が二度と戦争の悲劇を繰り返すことがないように、との主旨でして、わが国がその中に含まれることなど、想定していませんでした。あなたは彼の、もうひとつの演説をご存じですかな?」

ーーもうひとつと言いますと、鉄のカーテン演説のことでしょうか。

「おっしゃる通りです」

チャーチルの「鉄のカーテン演説」については、ここで長々と引用する余裕はないが、要するに第二次大戦後の世界における、ソ連の脅威をこのような比喩で語ったものだ。

レッドウッド氏の論旨もいわばこれと二重写しで、ヨーロッパ合衆国などというものは、ソ連と対峙するためにヨーロッパ大陸諸国がひとつにまとまっていることには意義があったが、英国がその「合衆国」に組み込まれる必要などない、という。その理由なら100でも並べられるぞ、というのが、著作の主旨でもある。

英国の伝統的なナショナリズムというのも、端的に述べれば、「ヨーロッパと共にあるが、ヨーロッパの一部ではない」という言葉に象徴される。

日本では、島国根性という表現が、しばしば自虐的に用いられるが、英国ではそうではない。ヨーロッパ大陸と海で隔てられているが故に、ナポレオンにもヒトラーにも屈することがなかった、という歴史もあり、島国という地政学的条件をむしろ誇りにしているのだ。

げんに前出のレッドウッド氏も、ナポレオン戦争やヒトラーとの戦いを引き合いに出し、「ヨーロッパ大陸の問題に深く関与すると、犠牲ばかり大きいということを、我々は歴史から学んでいるのです」と語った。

ちなみにレッドウッド氏はじめ英国の政治家やジャーナリスト、経済学者へのインタビューも含め、統一通貨ユーロやEUという「国境なき国家連合」の成立過程から諸問題まで、私は『国が解けて行く ヨーロッパ統合の真実』(電子版配信中)という一編にまとめてあるので、できればご参照いただきたい。

この「国が解けて行く」というタイトルも、実を言うとレッドウッド氏との問答から想を得たものなのだ。ご承知のように、今月23日には、英国がEUから離脱すべきか否かを問う国民投票が実施される。

英国では、国政選挙などは、伝統的に木曜日が投票日に選ばれる。

日本のマスコミでは、ギリシャ危機以降、EUもユーロも失敗であり、英国はいち早く泥舟から逃げだそうとしている、といった見方をする人が多いようだが、私に言わせれば、皮相にもほどがある。

この問題は、歴史や文化も含めて多角的に捉える必要があり、また、そうすることで、日本とアジア諸国との関係にも、大いに参考になるのだ。

林信吾(作家・ジャーナリスト)

最終更新:6/12(日) 10:11

Japan In-depth

Japan In-depthの前後の記事

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。