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『とと姉ちゃん』十週目で描かれた妹たちとの対立と、常子の複雑な心境

リアルサウンド 6/13(月) 10:23配信

 家族との生活を選ぶのか、星野武蔵(坂口健太郎)と結婚して大阪に行くのか、という常子の葛藤が丁寧に描かれた『とと姉ちゃん』第十週目。小橋常子(高畑充希)がタイピストとして鳥巣商事に入社してから二年半が過ぎた。お給金をもらうようになり、名実ともに小橋家の家長となった常子は父の竹蔵(西島秀俊)が掲げた小橋家の家訓を引き継ぎ、月に一度のお出かけを続けていた。

 一方、大学に進学した鞠子(相楽樹)は文学研究会での活動が忙しく、三女の美子(杉咲花)は、常子に黙って祖母の青柳滝子(大地真央)の裁縫の仕事を手伝っており、家族第一と考える常子のことを鬱陶しく思い始めていた。それぞれの居場所ができたことで、三姉妹の意識は少しずつズレていく。そのズレは、お出掛けの日に美子が常子たちにお勉強会をすると嘘をついて、滝子の縫い物の仕事を手伝っていたことで決定的ものとなる。

 まず、印象に残るのは、先週末から満を持して登場した、美子の成長した姿を演じる杉咲花の演技だ。ドラマ『なぞの転校生』(テレビ東京系)などに出演している演技力に定評のある女優だが、早口で話している時のリズムが気持ちよくて、どんどん画面に引き込まれる。

「約束したのは、とと姉ちゃんでしょ。私は約束なんかしてないもん! 私小さかったから「ととのこと」、もう思い出せないの。だから、「ととが」って言われてもはっきり言ってピンと来ない。それにもし、ととが生きたとしても、今でも家訓を続けたと思う? あの頃と家の状況も、もう違うわけだし、私も、もう子どもじゃない」

 縫い物の仕事のことで口論となり、自分の気持ちを常子にぶちまけてしまう美子。成長して母親になったヒロインが思春期を迎えた娘と対立する姿は朝ドラでは物語後半でよく描かれていたが、少女でありながら、家長として振る舞う常子は、早くも娘のように見ている妹たちとの対立を向かえることになる。

 美子との関係が険悪になり口を利かなくなった頃、大阪の大学の研究室に勤めることになった星野から常子はプロポーズされる。自分にとっての幸せとは何か? 星野のことは好きだが、家族と離れることを思うと迷ってしまう。

 家族を選ぶか男を選ぶのか、という問題を別視点から描いたのが巣鳥商事で起きた諸橋道子(野村麻純)の不倫騒動だ。奥さんが乗り込んできて「泥棒猫!」と言うベタさには流石に笑ってしまったが、その後、諸橋は会社をクビになる。しかし、男の側は、戦争で男性社員が減っていることもあって、お咎めなしとなる。

 早乙女朱美(真野恵里菜)は総務課長の山岸(田口浩正)に抗議するが「書類を清書するだけのタイピストなんて掃いて捨てるほどいるんだ。何を考えてるんだか。女の本分はお国のために子を産み増やすことだ。それを忘れるんじゃないよ」と高圧的に怒鳴りつける。「会社は私たちをクビにすることなんて、なんとも思ってないのよ」と早乙女は言うが、入社当初に常子が目指した男と女がうまくやっていく職場は、まったく夢物語だったことがここで明らかになる。

「私たちは世の女性、憧れの職業婦人なのよ。私はこれからもたくさん稼いで、思う存分オシャレをして、恋だって山ほどするつもり。じゃなきゃ何のために働いているかわからないじゃない」

 80年代のトレンディドラマに出てくる女性のように自由に生きようとした諸橋だが、他の女性社員が時局を気にして日の丸弁当を食べる中、おかずの多いお弁当を食べており、パーマネントもやめようとしない。しかし、変化する時代の犠牲になるかのように、会社と家族に復讐されてしまう。
 一方、見逃せないのは、山岸が言う男性社員が戦争にとられて人手不足だという現実だ。

 徴兵された男たちのことを踏まえると、社会の犠牲になる女たちを描いているように見えるが、社会的役割としての父親を演じる人間が無自覚に抱えこんでしまう暴力性について描いているようにも見える。この問題が国家、会社、家族といった枠組みの中で同時展開されており、女性である常子ですらも、父として振舞うようになれば、男たちと同じことをしてしまうという現実が描かれている。

 悩んだ末に、常子は星野との結婚よりも家族といっしょにいることを選ぶ。常子の出した答えに安心した星野は「僕の好きな常子さんであれば、結婚よりもご家族を選ぶ。そんな気がしていました」と答える。ととの意思を継ぐという使命感からではなく、自分の意思で妹二人の成長を見守りたい。そう常子は思ったのだ。

 最近の『とと姉ちゃん』は、物語の展開が速すぎて、どこか物語に落ち着きがないと思っていたが、今週は複数のエピソードが同時進行しながらも、一つの流れに集約されていたので、まとまりのある完成度の高いものとなっていた。何よりよかったのは、結婚を申し込まれた常子の心情が丁寧なお芝居で描かれていたことだ。歯を磨く場面や星野と別れた後、家まで一人で歩いて帰ってくる場面では、台詞ではなく、高畑充希の表情をじっくりと追っていくことで、常子の複雑な心境を描き出そうとしていた。それはとても贅沢な時間の使い方で、余韻の残る素晴らしいものだった。

成馬零一

最終更新:6/13(月) 10:23

リアルサウンド