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『デッドプール』はなぜ日本でも大成功した? 独自のマーケティング手法を読み解く

リアルサウンド 6/13(月) 17:19配信

 主題に入る前に、改めて、そもそもの話をまとめておこう。本作は、マーベル・コミック(『アベンジャーズ』『X-MEN』などのヒーローものを有する)が原作で、2016年2月12日にアメリカで公開され、初週週末興行成績が1億3500万ドルを突破、『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』『アバター』を超える20世紀フォックス映画史上最高のオープニング記録を達成し、R指定ながら、大ヒットを記録している。2010年に“最もセクシーな男”とも評されたが、近年は不遇をかこっていたライアン・レイノルズ(主演)自ら、作品の成立に向けて尽力し、大成功を収めたという美談もまた、本作を盛り上げた所以であると思う。

 しかし、日本の観客にとって、マーベルヒーロー(特にデッドプール)は馴染み深いとは言えず、また、ライアン・レイノルズもハリウッドスターとしての認知度は低いだろう。例えば、2014年公開の『X-MEN:フューチャー&パスト』は、日本での最終興収は10.2億円(国内年間ランキング34位)であり、全世界でのランキング(年間3位)と比べれば大きく劣る。「全米1位!」「世界が泣いた!」などと言われても、観客にとっては、ひとつの指標にはなり得るかもしれないが、決定打ではないのである。

 そんな状況でありながら、日本では6月1日、全国700超スクリーンで始まった本作初日の興行収入は約1.65億円、観客動員数13.5万と記録的な数字になった。平日のたった1日での成績である。なぜ日本でもヒットさせることができたのか、もちろん、そもそも面白いということが大前提ではあるのだが、どう伝えていったのかを考えてみたいと思う。

■デップー、俺ちゃん、そしてラブストーリー…宣伝における世界観の構築

 キムタクでも、松潤でも、シュワちゃんでも、ブリちゃんでも、あえて例を挙げるまでもないが、人物や事件の知名度が上がってくれば、しばしば略称が生まれる。(最近では、「ゲス不倫」なる秀逸?なものまで…)そこで、“デップー”である。よくよく考えれば、これまでのマーベルヒーローでは考えられなかったアプローチではないか。もちろん略しづらい名前も多いのだが、キャプアメ(キャプテン・アメリカ)やファンフォー(ファンタスティック・フォー)などと、発信者自身が積極的に呼称し出す例はなかったのでは。

 翻訳にあたって、英語では「I」と表される自分自身を、日本語では“私”“僕”“俺”など、1人称が多様なために、どう訳すかでキャラクターの印象を決定してしまう可能性がある。そこで、“俺ちゃん”である。日常で自分のことを“俺ちゃん”と呼ぶ人はいないだろうが、意味はわかる。とにかく、ふざけた奴であることは十分に伝わってくる。裏を返せば、堅苦しい映画でないことがよくわかるのだ。

 マーベルヒーローに限らず、ヒーローアクションものは、どうしても観客が男性に偏ってしまうため、人口の約半分である女性客を期待できない。しかも、『デッドプール』は、日本でも“R15”作品である。となれば、いかに女性にも見てもらえるかを真剣に考えなければならないだろう。そのため、既存のヒーローものとはかなり異なるアプローチ、つまり、“親しみやすさ”“やわらかさ”を狙っていることは明白だ。“R15”の過激さとともに、“ラブストーリー”であるとの強い打ち出しも、女性やカップルでも気軽に見られるという点を訴えている。

■本人役のツイッターアカウントで爆発的な人気

 本作のツイッターアカウントは、「俺ちゃん」と自らを呼ぶデッドプール本人がつぶやいているという設定のようである。フォロワー数は、88,315人。現在公開されている主な映画と比較すると、『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』は200,648人、『オオカミ少女と黒王子』は106,970人、「64-ロクヨン-」は9,701人、『スノーホワイト/氷の王国』は4,865人と、若年層に人気の邦画には劣るものの、ツイッターつぶやき数ランキング(参考:映画.com つぶやき数ランキング/2016年6月6日更新)では、つぶやき数136,906ツイートと、2位の『ズートピア』62,910ツイートのダブルスコアである。そのつぶやきの内容は、直接的なプロモーションだけにとどまらず、一般人の相談に乗ることもあれば、チケット転売の注意を促したり、時には8月11日に公開される『X-MEN』シリーズ最新作『X-MEN:アポカリプス』の宣伝まで行うという抜かりのなさだ。適度にリプを返し、こまめにファボりながら、積極的に情報を発信する。「俺ちゃん」は、映画のみならず、SNS空間でも、第4の壁を打ち破りながら、ファンを増やしていると言える。

 インターネットにより、誰もが発信者になれる(個人も媒体たり得る)時代において、個人的体験であるエンタテインメント作品(映画・音楽・小説など)の情報(言い換えれば、期待)をどのように拡散させるか。本作では、作風を踏まえたまっとうなマーケティングと、細やかで奇抜な対策が功を奏していると言えるだろう。今後、そもそも知らないのにいきなり略称で現れるキャラクターや妙な一人称で語るキャラクターが出てくるかもしれない。たぶんそれは『デッドプール』の影響なのだろうが、しかし、かなりリスキーな戦略であろう。賛同してくれる人も多数いると思うが、“俺ちゃん”がサムいかサムくないかは、かなりきわどいセンだからだ。簡単に二匹目のどじょうは狙えない。かように、宣伝は難しいのである。

※フォロワー数は、すべて2016年6月12日執筆時現在

昇大司

最終更新:6/13(月) 17:19

リアルサウンド

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