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ケイコ・フジモリの勝利はなぜ直前で覆ったのか?

HARBOR BUSINESS Online 6/14(火) 9:10配信

 ペルー大統領選が終わった。

 ケイコ・フジモリが敗北宣言をしたのは投票日から5日経過してからであった。

 敗北を認めるまで長くかかった理由は対立候補のペドロ・クチンスキーとの獲得票差が余りに僅差であったが故に、ペルーの山奥やゲリラ組織センデロ・ルミノッソが根城としている地域などからの票がまだ届いておらず、その開票結果を待っていたからだった。

 というのも、これらの地域ではフジモリ票が多数を占めるということが明白であったからである。また外国に在住のペルー人の投票では、クチンスキーが僅差で勝利しているが、日本だけは〈フジモリ8231票がクチンスキー1792票〉を大きく上回った。(参照「RPP」)

 6月5日の投票日から5日経過した6月10日午後3時30分に、選挙管理委員会は正式にクチンスキーの勝利認めた。クチンスキー50.12%に対しフジモリ49.88%、その票差は4万1112票であった。(参照「El Comercio」)

◆直前まで確実視されていたフジモリはなぜ覆った?

 投票日の2週間前までフジモリの勝利は確実だとされていた。それが何故、覆されたのか?

 その要因は、フジモリが率いる政党フエルサ・ポプラルの書記長をしていたホアキン・ラミレスが、ケイコ・フジモリから2011年の大統領選挙資金として用意されていた1500万ドル(1億6800万円)を洗浄するようにと渡されたという発言を、米国の麻薬取締局(DEA)に協力していたヘスス・バスケスが2014年に盗聴。それがDEAの調査に回り、折しも選挙キャンペーンが大詰めに迫った時にペルーでそれがメディアで取り上げられたのである。

 2014年に盗聴されてDEAが調査していたことが今頃になって公になることは偶然の出来事とは思えない。ただ、それに対するフジモリの対応が、それを否定するだけで、もう一歩踏み込んだスキャンダル解明の為の協力する姿勢を打ち出せなかったことと、副大統領候補のホセ・クリンペールがその盗聴をラミレスを守る為に操作した疑いがもたれたことであった。

 この一連の出来事によって、多くのペルー国民はアルベルト・フジモリの参謀だったモンテシノスが、汚職の一貫として議員を買収する為に盗聴していた行為や、アルベルト・フジモリが6億ドル(672億円)の公的資金を横領したという容疑で告訴されたことなどを思い出し、ケイコ・フジモリも父親と同類ではないかという疑いを持たせるようになったことである。

◆疑惑を契機に反フジモリ派が結束

 このスキャンダルを反フジモリ派は上手く利用した。中でも、最初の投票で16.57%の支持を集めて3位になったベロニカ・メンドサがクチンスキー支持を表明したのはかなりの影響力を与えたと言われている。

 特にフジモリは、クチンスキーの牙城であるリマ市の切り崩しに成功していたのだが、このスキャンダルで後退することになった。その結果、リマ市ではクチンスキー51.4%:フジモリ48.6%という成績で終わった。(参照:「La Republica」)

 クチンスキーは、1回目の投票では24.25%の支持しか集められなかった。それが決戦投票で50.12%を獲得。およそ25%の支持率の上昇は、反フジモリ派の票の大半がクチンスキーに行ったとされている。一方のフジモリは1回目は39.18%で決戦投票で39.88%と僅かに10%の伸びだけであった。

 クチンスキーはテクノクラートで政治家ではない。それが選挙キャンペーンが進むにつれて歴然となっていた。クチンスキーに信頼性はあるが、国家指導者としては物足りないというのが一般の見方であった。

 また、今回の選挙は彼の功績での勝利ではなく、反フジモリ派の票が彼に投票したことがその勝利の要因だとされている。そしてそれを決定づけたのが、投票日から2週間前に起きたフジモリにまつわるスキャンダルと、彼女が迅速かつ適切な対応をしなかったことで反フジモリ派を煽る結果となった。

◆クチンスキー大統領の前途

 クチンスキーが大統領になって、この先ペルーはどうなるのだろうか?

 経済については、昨年は経済に落ち込みがあって3.4%の成長に留まったが、2002-2013年のペルーは6-7%の成長をして来た。また貧困層も2001年の55%から2014年には22.7%まで減少するなど、上向きになっている。(参照:「Nuevatribuna」)

 また、輸出の鉱物資源である金が銀の価格は安定している。クチンスキーもフジモリも右派で経済政策には余りに違いは存在していない。その点で、経済政策はフジモリだろうがクチンスキーだろうが大きな差はなく安定していくかもしれない。

 しかし、クチンスキーの大統領としての前途は容易ではない。

 最大の課題は、治安問題の重要度が増していることだ。クチンスキーにとっては、これから治安問題の解決が重要となってくる。しかし、一院制の130議席の議会でフジモリ派が73議席を有しているのだ。クチンスキーが率いる政党は僅かに18議席でしかない。つまり、クチンスキーはフジモリ派の支持なくしては如何なる法案も議会で可決出来なくなるという困難を伴う政権の運営が必要とされているのだ。

<文/白石和幸>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。

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最終更新:6/14(火) 9:10

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