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経済から見る東京五輪のドラマ 『この日のために』(上・下) (幸田真音 著)

本の話WEB 6/16(木) 12:00配信

『あきんど 絹屋半兵衛』や『天佑なり 高橋是清・100年前の日本国債』など傑出した歴史経済小説を執筆してきた幸田さん。最新刊では、初の東京オリンピック誘致に奮闘する人びとの熱いドラマを描いた。

「1964年の東京五輪をテーマに選んだのは新聞小説の担当者からの依頼がきっかけでした。とはいえ、当時のオリンピックは戦後の復興を経て日本人が自信を取り戻す一大プロジェクトで、関連事業を含め費用は総額9600億円にも上ったほどです。いざ取材を始めると各分野にヒーローがいて、誰を主軸に据えるか大変迷いました」

 経済・財政から歴史を読み解くという著者ならではの視点で主人公に選んだのは、政治家・池田勇人と朝日新聞政治部記者でオリンピック組織委員会初代事務総長を務めた田畑政治の2人。裕福な造り酒屋の家に生まれた池田は大蔵省に入省するも、難病にかかり休職を余儀なくされる。一方、田畑も幼少期から熱中していた水泳を病気により断念し、政治記者をしながら選手育成に尽力する。数多の挫折を乗り越えて、2人の男の運命はオリンピックに引き寄せられていく。

「私も今回の執筆中、何かに導かれるような出会いを経験しました。実は以前からの知り合いが池田さんのお孫さんだと初めて分かり、ご家族ならではのエピソードを教えていただいたのです。池田さんには3人のお嬢さんがいらしたのですが、総理就任後は訪問客が殺到して大混乱。台所と応接間を結ぶ廊下に信号機をつけてほしいと姉妹で嘆きあったそうです。また、就任記念に新しい着物をプレゼントしてくれたとばかり思って畳紙を開けたら喪服が入っていたとも。政治家暗殺が続く時代、池田首相の覚悟を感じますよね」

 東京での開催が目前に迫ってもなお、田畑や池田の前には、障壁が立ちはだかる。田畑は私怨から策略にはまり、組織委員会事務総長を辞任させられてしまう。また、所得倍増計画など経済成長の勢いを駆っていた池田にも病魔がしのびよる。

「今回の五輪開催にあたって、新国立競技場の建築計画やエンブレムのデザインなど様々な問題が報道されています。でもそれは今回に限ったことではなく前回も同じ。新幹線建設に強固に反対した人もいたんですからね。日本人はとかく新しい物事に対して冷ややかです。でも、人工知能の台頭やマイナス金利など、これまでの大前提が大きく崩れようとしている社会で、2020年の東京オリンピックが、日本の魅力を皆が再発見するような機会になればいいなと願っています」

幸田真音(こうだまいん)

1951年滋賀県生まれ。95年『小説ヘッジファンド』でデビュー。2014年『天佑なり 高橋是清・百年前の日本国債』で新田次郎文学賞を受賞。

聞き手:「オール讀物」編集部

最終更新:6/16(木) 12:00

本の話WEB

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