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中学武道必修化で税金2500億円!――文科省の計画のカラクリを追う

HARBOR BUSINESS Online 6/16(木) 9:10配信

◆費用総額を知らない武道関係者が授業内容を軽視する無責任発言

 前回、巨額の税金が投入されると指摘した中学校武道必修化問題。私は、武道必修化それ自体は良いことだと思っており、むしろ賛成です。問題は武道場整備費が非常に高額であることと、その費用がどの位かかっているのかについて全く無自覚な武道関係者が、授業の質を極端に低下させる無責任な言動を行っていることだと思っています。

 例えば、柔道界には重大事故の危険性を懸念するあまり、柔道授業を「礼儀と教えだけで良い」とか「受け身を覚えるだけで良い」とか、わざわざ武道場を作らなくともできる内容の指導で十分と主張する教育関係者が沢山います。

 莫大な税金を使って武道場を建てておいて、授業の内容を教室でも教えられる礼儀や板の間に畳を敷けば教えられる受け身で十分などと発言するのは、世間の納税者への配慮に欠けるのではないでしょうか。ですので、まずは、武道関係者に1棟当たりの武道場整備費がどれほど高額なものかをしっかりと知ってもらう必要があると思っています。

 スポーツマーケティングの第一人者である広瀬一郎さんはこう言っています。「学校体育として開始するスポーツはほとんどの人にとって元から『金のかからないもの』として認識される。このコスト意識も変える必要があるだろう」(『新スポーツマーケティング』 広瀬一郎 創文企画 2002年11月)と。武道関係者の中には、このように中学校武道必修化を「金のかからないもの」と思い込んでいるコスト意識の低い人々が多く見受けられるのです。

◆文科省は1棟当たりの整備費の情報公開をほとんどせず

 文部科学省は武道場1棟当たりの整備費がいくらであるかの情報を公開していません。文科省がこれまで国民に向けて自ら発信した断片的な情報は以下の2つだけです。

 1つ目は中学校武道必修化に向けた実質的な対応初年度である2009年度予算で「215校分の武道場整備費として約48億円を概算要求する」と武道場1棟当たりの単価計算が可能な内訳を明記したこと(次年度以降は何校分という内訳は1度も表記していません)。

 2つ目は2009年度予算以降「武道場整備費の国の補助率を従来の1/3から1/2に嵩上げする(残りの1/2は地方公共団体の負担)」とする国と地方の費用案分を明記したことです。

 文科省は終始一貫、国が補助する分の武道場整備費の金額しか表示していません。文科省のスタンスはあくまでも地方への「補助」であり、武道場建設の事業主体は地方(市立中学校なら「市」)なので、整備費の総額表示はしないということなのだと思います。そのため、国の補助率が1/2ということは、国の負担分を2倍した金額が費用総額ということになります。

 上記の215校の武道場の整備費が全棟均等な金額であると仮定すると、「48億円÷215校」の約2250万円が文科省の補助する1棟当たりの武道場整備費で、地方も同額を負担するので、その2倍の約4500万円が武道場1棟当たりの整備費ということになります。

◆建設業界紙と無駄ゼロ会議議事録で武道場1棟4500万円と判明

 これを裏付ける証拠はないかと探したところ2つ見つかりました。

 1つ目は文科省が地方公共団体及び建設業界に向けて提示した武道場整備費1棟当たりの発注条件で、柔剣道場(柔道場と剣道場を併設した武道場)は450㎡までの面積に平米単価99,400円(毎年建設費指数により変動)を掛け合わせた金額とする旨が示されています(建設通信新聞 2009年1月19日付)。これにより柔剣道場1棟の整備費は「450㎡×99,400円」ということになり、約4500万円であることが分かります。(※注)

 2つ目は2008年9月に内閣官房長官が招集した行政支出総点検会議(通称:無駄ゼロ会議)の議事録です。文科省は2012年度から始まる中学校武道必修授業を安全かつ円滑に進めるために2009年度から2013年度の制度移行期間の「緊急5か年」で、2008年度時点の公立中学校の武道場整備率47%を70%まで「+23%」引き上げることを目指すと発表しました。2008年度時点の全国の公立中学校は10150校ですので、その23%といえば2300校強です。この無駄ゼロ会議の議事録では「緊急5か年」の文科省負担分の武道場整備費を520億円と記載しています。

 4500万円の武道場を2300校余り建設すると1040億円となりますが、文科省の補助する武道場整備費はその半額となりますので520億円となり、議事録と金額がピタリと符合します。この会議には財務省から文科省担当主計官や予算執行調査室長も出席しており、「緊急5か年」の目標達成時の武道場整備費は国520億円、地方520億円の総額1040億円であることが「公」に明示されたわけです。

 ここまでの検証で、武道場1棟当たりの整備費は4500万円であることがほぼ裏付けられました。

◆柔道場なら2500万円、剣道場なら3000万円で建てられるが…

 異論もあると思います。この4500万円は柔剣道場の整備費ですが、柔道場、剣道場をそれぞれ単体で建てた場合には整備費は安くなるのではないかという疑問です。確かに各校で選択した武道の単体の武道場(柔道選択なら柔道場、剣道選択なら剣道場)を作れば整備費は安くなります。文科省は補助の対象となる上限の面積として柔道場は250㎡、剣道場は300㎡と定めていますので、前述の平米単価99,400円と掛け合わせると柔道場は2500万円、剣道場は3000万円で建てられるということになります。

 ですが、どの武道を選択するかに関わらず、武道場の設置の際には柔剣道場を建てるというのが原則としてあるようです。柔道を選択しても、校長が転任するなどして学校の方針が変わり、剣道に鞍替えするというケースもあるでしょうし、少なくとも柔剣道場を設置しておかないと将来的に柔軟に武道教育に対応できないという言い分なのだと思います。柔剣道場であれば、他の武道(空手、合気道、少林寺拳法、なぎなた、銃剣道など)にも対応が可能だということです。

◆授業でどの武道を選択するかに関わらず建てられるのは柔剣道場 

 中学校武道必修化を推進した日本武道協議会には武道9団体が加盟しており、武道必修化で選択されている種目は柔道64.8%、剣道34.4%、相撲3.2%、空手道1.9%と大きな偏りが見られる(月刊武道 2015年12月号)とはいえ、選択率の低い少数派の武道団体に対する配慮も必要なのでしょう。そのため武道場を建てる際には少数派の武道の稽古にも適合するように総合武道場(柔剣道場)が設置されるのではないかと推測します。

 昨年初めて公表された全国武道場実態調査でも既存の学校関係武道館12539館の55%が総合武道場(柔剣道場)であり、柔道場単体は14.5%、剣道場単体は13%でした(月刊武道 2015年6月号)。このデータからも、昔から学校施設の武道場は柔剣道場の設置が原則であったことが伺えます。

 以上の理由で武道場とは、原則的に柔剣道場を指し、文科省が通常、予算を立てる際には武道場の建設単価を4500万円と見積もっているということが分かりました。

 次回は文科省が全国にいくつ武道場を作ろうとしているかを探ります。これが分かれば「連載第1回」で述べた「中学校武道必修化費用総額が新国立競技場建設費旧案2520億円並み」という仮説の信憑性が格段に高まります。

(※注)2009年当時の平米単価99,400円は現在では建設費指数の変動により若干低下しています。450㎡の柔剣道場1棟の整備費は約4500万円より幾分安くなっていますが、本稿連載では便宜上、金額に変動がないものとしてシミュレートしています。尚、地方が450㎡を超える面積の柔剣道場を設置した場合には、超過した分の面積の費用は地方が全額負担し、国は450㎡分の整備費に対して補助を行います。

<取材・文/磯部晃人(フジテレビ) 写真/Tony Tseng>

【中学校武道必修化の是非を問う 連載第2回】

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最終更新:6/16(木) 15:54

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