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玄冬の門をくぐったあとは、「単独死、結構じゃないの」と思うのです

BEST TIMES 6/18(土) 18:00配信

五木寛之氏の最新刊『玄冬の門』から、「元気に老いる」ために7つのすすめを紹介するシリーズ最終回の今日は、6「楽しみとしての宗教のすすめ」と7「単独死のすすめ」を、本書から抜粋してご紹介します。

6.楽しみとしての宗教のすすめ

《宗教というのは、大袈裟に構えて、自分の信念を賭けてどうとかするなどと考える必要はありません。老後の楽しみの一つと思えばいいわけです。お寺に行ってみる、教会に行ってみる。あるいは、バイブルを読んでみる。般若心経の写経をしてみる。仏教の入門書を読んでみる。これは死と、生きるという「死生」に関することだから、非常に身近に感じられると思います。
 ですから、老後の楽しみの一つと思うぐらいの気持ちで、宗教に接する必要があると思いますね。人生において自分の心を切り換えるとか、大悟一番とか回心(えしん)とかの大袈裟なことじゃなくて、そういう好奇心で宗教に向き合うことも、私は良いことだと思います。もっとカジュアルに宗教に向き合ったほうがよい。深刻に向き合うから、カルト的なものに陥ってしまうわけです。「生きる知恵」と思って宗教に向き合う。
 いま全世界で伸びているのはイスラム教だけでしょう。ものすごい勢いで伸びていると言うけれども、あんなややこしい、一日に何度も座ったり立ったりして礼拝しなければいけないのに、よく伸びると思います。
 宗教というのは、いま大問題です。宗教を信じている人の数がものすごく増えつつある。宗教が、世界の動乱や戦争、政治的対立の根底に大きく関連しているということは、最近は佐藤優さんやいろいろな人たちが言っています。
 ですから私は、叱られるかもしれませんが、宗教とか、宗教について関心をもつということを、そんな大層なことと考えずに、俳句や川柳に関心をもつのと同じぐらいの気持ちで、そういうものと向き合ってみたらどうかと提案します。》

7.単独死のすすめ

《3・11の東日本の大災害のあと「絆」ということが盛んに叫ばれましたが、私は、絆という言葉にはある種の抵抗感があります。もともとの言葉の意味は、「家畜や動物を逃げないようにつなぎとめておくための綱」という意味でした。我々、戦後に青年期を送った人間は、家族の絆とか、血縁の絆とか、地縁の絆とか、そういうものから逃れて自由な個人として生きるということが一つの夢だった。ですから絆というのは、自分を縛る鬱陶しいものという感覚が強かったのです。いまになって「絆」なんて言われても、という気分がある。そういうことではなくて、私は、これからの人は孤立しても元気に生きていくという道を考えるべきだと思うのです。
 単独死、孤独死というものが、非常にさびしい、弱々しいことではなくて、「単独死、結構じゃないか」という方向に切り替えたほうがいい、と考えるべきではないか。
 (……)
 とにかく、単独死とか孤独死とかいうものが、非常に惨めでさびしいように言われていますが、まわりを孫や親戚に囲まれて、「おじいちゃん」とか、涙ながらに見送られても、本人はもうほとんど意識がありません。死ぬときは独りですから。本人はもうわかっていないでしょう。最近は、病院でガラス窓越しに見ていて、心電図の波形がフラットになったのを確認して、「残念ながらご臨終です」と医者が宣告して終わるという例が多い。
 (……)
 普段から、独りでいることのレッスンというか、トレーニングというか、孤独のレッスンをやっておく必要がある。前にも言ったように、晩年になるにしたがって、友達で先に逝く人もいるし、離れていく人もいるし、少なくなっていくけれども、それをきちんと意識的にやっていけばいいのです。年賀状が去年の半分になり、来年はさらにその半分になる。最後は年賀状などというものも来なくなって、自分も世を去るのが理想ですよね。
 だけど、いまは、人とのコミュニケーションの輪を広げようとすることばかりが強調されています。高齢者になると、何かのボランティアに入ったり、いろいろ勉強事をみんなでやりましょうというようなすすめがあるでしょう。そうではなくて、どんどん独りになっていくべきだというのが私の説です。それで、やはり人間は、最後は独りで物をじっくり考えたり、感じたりしながら、自然の移ろいの中で穏やかに去っていくべきだと思います。
「孤独死のすすめ」「単独死のすすめ」です。》      (終)

 

文/五木寛之

最終更新:6/22(水) 13:03

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