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シリア拘束中の安田純平さんを救出するカギ

HARBOR BUSINESS Online 6/18(土) 9:10配信

 5月30日早朝、シリアで行方不明となっていたジャーナリストの安田純平氏の写真が公開された。

 オレンジ色のTシャツを着て、「助けてください これが最後のチャンスです 安田純平」と書かれた白い紙を持つ安田さんの姿が写されていた。

 安田さんを拘束しているのは、シリア反体制派の主要組織でアルカイダ系武装勢力の「ヌスラ戦線」だとされている。安田さんが6月22日にシリアに入国してからもうすぐ1年が経とうとしているが、安田さんの正確な居場所に関する情報はない。

 今年3月16日の安田さんの誕生日に公開された動画では、安田さんは黒いセーターとマフラーを身につけ、落ち着いた雰囲気で話しているのが印象的だった。

 本来のヌスラ戦線は、拘束している人質がスパイであるという証拠がなければ、拷問をすることも、殺すことも決してしないグループだ。

 相手が人質でも、食事を与え、服や日用品も提供する。安田さんの動画は、まさにそんなヌスラ戦線らしさを感じさせるものだった。

 だが今回公開された写真では、安田さんは怒りに満ちた顔でカメラを向いている。服装も前回と異なり、ISの処刑動画で使われる囚人服を想起させるオレンジ色のTシャツが着せられていた。

 さらに写真を公開したヌスラ戦線の交渉人によれば、1か月以内に身代金として1000万ドル(約11億円)を支払わなければ、ヌスラ戦線は安田さんをイスラム国(IS)に引き渡す可能性が高いという。

◆「ヌスラ戦線らしくない」

 そこで疑問なのが、敵であるISにどうして捕虜を渡すのか、どうして彼らの真似をするのかという点だ。

 ヌスラ戦線は現在、ISと深く対立し、戦闘で銃を向け合うライバルだ。シリア北部のアレッポに住むヌスラ戦線の戦闘員に聞いても、今回の安田さんの写真は「どう見てもヌスラ戦線らしくない」とのことだった。

「捕虜同士の交換、で安田さんを引き渡すことはあり得るのか」と聞くと、「少なくともISとはそんな取引はしない。これだけは確信がある」と断言した。

 もちろん、地域や基地による違いはあるため、一概に「ヌスラ戦線はISと捕虜交換をしない」とは言い切れない。だが、残虐的なイメージを強めてきたISとは一線を隠してきたヌスラ戦線が、この場に及んで彼らの真似をするのは、非常に不可解である。

 ヌスラはこれまで、外国人の人質を殺した過去がない。

 一時期安田さんと同じ場所で拘束されていたスペイン人ジャーナリストも、5月初めにヌスラ戦線から解放されたばかりだ。ただ、最近は、地元シリア人でさえもヌスラ戦線に拘束され、人身売買される事例が発生しているとも地元シリア人や海外メディア関係者らから聞く。

 ヌスラ戦線だから殺さない、とは言い切れない。組織としての統制がとれているわけではないからだ。現に私が取材したヌスラ戦線の戦士たちは誰も、「ヌスラ戦線が安田さんを拘束している」という事実を知らなかった。

◆交渉人らの言葉は慎重に捉えよ

 拘束する側は、人質がどんな人物なのかをまず知りたがるだろう。

 実際、安田さんがシリアに入る直前に私とフェイスブックのメッセージアプリでやり取りをしたメッセージは、ずっと「未読」のままだったが、今年4月に確認したところ、そのやり取りが閲覧されたことを意味する「既読マーク」が残されていた。安田さん本人が閲覧しているとは考えにくいので、拘束犯の関係者などが見ている可能性が高い。犯人側は、安田さんのSNSやメールに一通り目を通し、容疑を裏付ける証拠がないか調査しているのかもしれない。同時に、日本国民や政府の動きなどもSNSなどを通して確認していることだろう。

 交渉人らの情報によれば、安田さん救出の期限は写真が公開されてから1か月。今月の30日頃までとなる。ただ、こちらから強引に交渉に走ったところで事態が好転するわけではない。というのも、3月に公開された動画でも今回の画像でも、拘束犯側からの要求は一切ない。「1か月」、「身代金」などの言葉は交渉人側からの情報に過ぎず、ヌスラ戦線側が安田さんにそれらの言葉を発信させたわけではない。

 日本政府が昨年、後藤さんと湯川さん救出のために身代金を支払わなかったことは周知だ。もしISに引き渡すという情報が本当だとすれば、ISは何の利益にもならないような日本人人質をヌスラ戦線から買い取るか、もしくは自分たちが持つ捕虜と交換することになる。利益が見込めないような取引を敢えてするだろうか。

 今後何かしらの動きが見られても、交渉人らから発せられた言葉は慎重に捉える必要がある。彼らが本当にヌスラ戦線の言葉を代弁しているかどうかさえも確かめることができていない。自称交渉人らの発言を政府に身代金の支払いを要求する日本人ジャーナリストもいるが、我々が騒ぎたてるほど犯人側を刺激してしまい、安田さんの身は危険に追いやられるばかりだ。交渉人を通さず、直接犯人側と対等な立場で話し、安田さんの無実を証明すること、そして身代金以外の別の方法を探ることが、安田さん救出のために重要だと私は考えている。

<取材・文/鈴木美優 Twitter ID:@lailasuzuki>

‘90年生まれ。大学在学中の’13年​夏に初めてシリアを取材。卒業後の’14年春にはヌスラ戦線に密着取材するなど、独自のコネクションを築き中東情報を発信している。

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:6/18(土) 9:10

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