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空港を兵士が巡回! 沖合に巡視艇! カンヌ国際映画祭は異例の厳戒態勢

CREA WEB 6/18(土) 12:01配信

パリとブリュッセルで起きたテロの影響は?

 カンヌよいとこ、一度はおいで。

 てなわけで、13度目のカンヌに行ってきた。2016年5月11日から22日まで行われた第69回カンヌ国際映画祭。もうね、おカンヌはミーの実家ザンス、って鼻歌が出ちゃうくらい通い続けているマダムだが、華やかながらも今年のカンヌは雰囲気が少し違っていた。パリ、ブリュッセルで起きた大規模テロの影響で、非常に厳重な警戒態勢がしかれていたのだ。

 映画祭開幕前日の5月10日、空からの玄関口であるニース・コートダジュール空港に降り立つと、迷彩服を着たフランス軍兵士が小銃を携えて巡回していた。海外では珍しいことではないが、やはり浮かれ気分が引き締まる。

 さらにメイン会場のパレ・デ・フェスティバルに入り、プレスパスをもらったとたんに警報と「すぐに会場を出てください」のアナウンスが。あわてて外へ飛び出した。会場係員たちが落ちついていたので、避難訓練だったようなのだが、それでも緊張する。

 さらに驚いたのは、レッドカーペットの目の前の海に、豪華客船やクルーザーに交じって、フランス海軍の巡視艇が浮かんでいたこと。ちょっとかわいいジョーズ風の顔が描かれているのが、フランスらしいが。

 パレの中に入るのは以前から警備が厳しかったのだが、今年はさらにチェックが厳しくなり、空港のようにバッグの中身を調べ、チョコレートや水も取り上げられたりする。でもこれが、担当者によって基準が違うあたり、やはりカンヌって感じだ。厳戒態勢とはいえ、どこかのんびりしているという。

 それでもテロを警戒して、プレスの数も心なしか少ない。というか、中華系作品がメイン部門になかったので、中国メディアの数が去年より減ったことの影響の方が大きかったかもしれない。

最高賞は英国のあの名匠の作品が獲得

 とはいえ、今年もジュリア・ロバーツやジョージ・クルーニーのアマル夫人が初めてカンヌのレッドカーペットに登場したり(なんだかジョージはすっかり脂が抜けきっていた。目の前にいたのに、気づかなかったくらいだよ! 結婚とは、そんなに男を変えるものなのか? )、開幕作品はウディ・アレンだったり、セレブやゴシップ、そしてもちろん面白い映画がたくさんあって楽しめた。

 つまんない映画も中にはあるが、それもまた映画祭の醍醐味。自分とまったく違う価値観、文化の中で作られている映画を目にすると、世の中は広いなあ、と実感する。まあ、使い古された表現だけど、まさに『未知との遭遇』、なのだ。スピルバーグも来てたな、そういえば。

 今年の最高賞パルムドールを受賞したのは、英国のケン・ローチの『I, Daniel Blake』。心臓病で失業してしまった59歳の職人ダニエルの姿を通して、英国が抱える貧困問題と社会保障システムの矛盾を描きつつ、ユーモアも忘れない素晴らしい映画だった。普通の人が、あっという間にホームレスになってしまうのは、こういうことなのかと思い知らされる。まったく他人事じゃない。

 現在、経済問題、移民問題で揺れる英国は、EU離脱か残留かの国民投票が6月23日に控えている。ケン・ローチはEU離脱には反対だと言っていた。ローチにインタビューした際、「どちらも厳しい選択だが、もしEUから離脱したら極右勢力がさらに力を増す。そうしたら弱者はさらに弱者となってしまう。だったらEUに残る方がまだましだ。貧困問題などの状況を変えるためには、民主的な社会主義を目指すべきだ」とはっきり語っていた。

 ケン・ローチは2006年の『麦の穂を揺らす風』以来、2度目のパルムドール。その後もほぼ1年置きにカンヌに出品し、2012年には『天使の分け前』で審査員賞も受賞。79歳になってもまったくクオリティを落とさぬ名匠の文句なしの傑作にうなりつつ、新しい才能にも光をあててほしいなあと思いもする。早い話、マダムアヤコの一押しだった映画が無冠に終わったというわけですが。審査員団の評価は意外なもので、この辺の話は次の回に。

 ちなみにケン・ローチが2012年に審査員賞を受賞した『天使の分け前』はスコットランドなまりがきつく、英語字幕をつけてほしいという声が英語ネイティブからもあがっていた。カンヌでは英語圏の作品にはフランス語字幕が、フランス語作品には英語、それ以外の作品には英語とフランス語の2つの字幕がつく。今回の『I, Daniel Blake』は英国でも最もなまりがきついと言われる北東部ニューキャッスルが舞台だったので、ついに英語字幕もつけられた。おかげで、ちゃんと笑うべきところで、笑えたよ。

石津文子 (いしづあやこ)
a.k.a. マダムアヤコ。映画評論家。足立区出身。洋画配給会社に勤務後、ニューヨーク大学で映画製作を学ぶ。映画と旅と食を愛し、各地の映画祭を追いかける日々。執筆以外にトークショーや番組出演も。好きな監督は、クリント・イーストウッド、ジョニー・トー、ホン・サンス、ウェス・アンダーソンら。趣味は俳句。俳号は栗人。「もっと笑いを!」がモットー。

石津文子

最終更新:6/18(土) 12:01

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