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『FAKE』はなぜヒットした? 配給会社・東風代表が語る、ドキュメンタリー映画の面白さと難しさ

リアルサウンド 6/19(日) 14:03配信

 佐村河内守のドキュメンタリー映画『FAKE』が、その反響を受けてユーロライブで拡大公開されるなど、非常に好調だ。同作を配給したのは、『平成ジレンマ』や『ヤクザと憲法』といった刺激的なドキュメンタリー映画を多数手がけている合同会社東風。スペースシャワーTVの高根順次プロデューサーによるインタビュー連載「映画業界のキーマン直撃!!」第6回では、同社の代表であり、『FAKE』のプロデューサーとしても名を連ねる木下繁貴氏に、その製作裏話や会社立ち上げの経緯、ドキュメンタリー映画を配給する上での苦労や覚悟について、詳しく話を聞いた。(リアルサウンド映画部)

■「『FAKE』は、ネタバレしたとしても力を失う作品ではない」

高根:『FAKE』では衝撃的なラストシーンが大きな話題となっています。あくまで個人的な感想ですが、結末ありきでドキュメンタリーを組み立てているのかと感じるほど、見事なラストシーンでした。

木下:わたしもプロデューサーとして名前を入れさせていただいていますが、作品の制作に関しては今回、ドキュメンタリージャパンのプロデューサーの橋本佳子さんが主に関わっています。最後にどうすればこの作品を終わらせることができるのかは、かなり迷いながら作っているようでした。2014年の9月から撮影を開始して、弊社が関わり始めたのが2015年の2~3月あたりで、当初は2015年の初夏あたりまでには作品を完成させる予定でした。ただ、映画的には非常に重要なシーンが幾つか撮れていたものの、どうやって作品を完成させるかはなかなか定まらず、結局今年の1月までかかってしまいました。だからラストは、ようやくたどり着いた結末であって、決して予定調和だったわけではありません。あのシーンを観たときは、ようやく作品が完成したんだと思ったので、すごく嬉しかったですね。

高根:宣伝でも、ラスト12分をクローズアップしていますね。その辺りは東風の提案でしょうか?

木下:ええ、『FAKE』はミステリー映画のように観ることもできるので、そこをクローズアップしました。森監督も、ラストを知らないで観てもらった方が楽しめるという考え方なので、こういうかたちで宣伝をしています。ただ、ネタバレしたとしても力を失う作品ではないので、たとえばネットなどで結末を知ってしまったお客さんが「もうわかったからいいや」となってしまうと残念だなと。そういう意味では、リスクのある宣伝の仕方だったと思います。

高根:町山智浩さんが公開前にラジオで、本作について「はっきり言います、ヤラセです」と仰ったときは、どう感じましたか。

木下:まあ、一瞬焦りました(笑)。一般的な“ヤラセ”という言葉のイメージから、いわゆる出来レース的なことが本作で行われていると思われると、あまり良くないなと。ただ、町山さんはその後、森監督が佐村河内さんに何かをやらせる、と言い直してくださったので、ちゃんと作品を後押ししていただいたと思っていますし、そこで盛り上がりもしたので、大変ありがたかったです。

高根:仰るとおり、内容に関して言及しているわけではなかったので、むしろ気になった方が多かったと思います。いずれにせよ、真偽を含めて深読みさせる作品ではあるし、そういう意味でもドキュメンタリーとして強度がある作品だと感じました。最近の日本映画はつまらないとか、世界に通用しないなんて言われることも少なくないですが、本当に面白い作品はたくさんあるなと、本作を観て改めて感じた次第です。

木下:弊社で扱っている作品はニッチなので、日本映画を大局的に語るような立場ではないと考えていますが、当時はまだ弊社はありませんが、森監督の前作にあたる『A』『A2』もすごく内容の濃い作品ですし、面白いものや意義深いものはいっぱいあるんですよね。それをなんとか人に知ってほしいからこそ、この会社をやっているわけで。それに、ドキュメンタリーの話でいうと、日本のことだからこそ身近に感じることが出来て関心が持てたり、面白く感じたりできる部分は絶対にあるはずなんですよ。もちろん、海外のドキュメンタリーにも面白い作品はたくさんありますが、ぜんぜん負けていないと思います。特に今回の『FAKE』については、日本人ならほとんどの人が知っている騒動を題材にしているので、多くの人が興味深く観ることができるはず。

高根:本当に、いろんな意味でドキュメンタリー映画史上に残る作品だと思います。森監督自身は、この後に作品を撮る予定はあるのでしょうか?

木下:しばらくは作りたくないと仰っていました。映画が完成して多くの人に観られるのは、すごく嬉しいみたいですけれど、ドキュメンタリー映画はどうしても現実に干渉する部分もあって、誰かを傷つけてしまうこともありますから、その辛さは、感じていらっしゃると思います。

高根:佐村河内さん本人は、本作をご覧になったのですか?

木下:もちろんです。日本語字幕版を作ったので、それを観ていただきました。作品については、こういう風にしてほしいとのリクエストは一切ありませんでした。決してご本人の主張だけを取り扱っている作品ではないですが、それでも意見したりはありませんでした。本当に、淡々と受け入れている感じで。ただ、ひとつ言えるのは、おそらく安心された部分はあったと思います。ご本人にも責任の一端はありますが、メディアや世間からのバッシングや嘲笑の対象にされてしまい、大変辛い思いもされていたのですが、今回の作品にはそういう意図はなかったので。私も佐村河内さんとはお会いしています。あくまで主観ですが、この映画の本編で描かれているような、腰が低くて丁寧な方なんですよね。奥様も素晴らしい方で。もちろんクリエイターなので、ある種の業はあると思うのですが、決して傲慢な方だとは思いませんでした。佐村河内さんは、ある意味で報道被害者ですし、それで日本中が騒動になったことの背景にはどんな問題があるのか、メディアリテラシーについて考えるうえでも良い作品だと思います。

■「会社を立ち上げた当時は、我慢大会みたいな感じでした」

高根:東風では『FAKE』のほかにも、意欲的なドキュメンタリー映画を数多く世に送り出しています。そもそもどういう経緯でこの会社を立ち上げたのですか?

木下:もともとバイオタイドという映像制作会社の配給宣伝部で働いていたメンバーが独立するかたちで、2009年3月に設立したのが弊社です。当時、バイオタイドで配給する予定だった岩淵弘樹監督の映画『遭難フリーター』が、本編の中で一部、NHKの映像を使用していたんですよ。そこで許諾を取ろうとしたところ、その映像の使用許諾の話ではなく、本編に出てくるNHKのディレクターが撮影の許可をしていないとのことで、内容証明が届いたんです。もちろん、撮影の許諾は取っていたので、説明しに伺ったところ、今度は「撮影の許諾をしていたかもしれませんが、上映の許可をしていません」と公開直前にもう一度内容証明が届いてしまって。当時、NHK問題などにも関わられていた日隅一雄弁護士(故人)に相談したら、映画はそもそも上映を前提に作られるものだから、NHK側の言い分ははねのけることができるとのことだったのですが、会社的にはやはりNHKとは問題を起こしたくないと。それで、上映を中止するか、該当部分をすべてカットして上映するか、もしくは外で勝手にやってくれと言われて、じゃあ外で勝手にやろうと思って東風を立ち上げたんです。上映の2週間前くらいの話で、登記までの期間がなかったため、合同会社というかたちになりました。当時の私はお金もなかったので、資本金は親から借金して工面しました。それから配給権を譲り受けて、NHKには内容証明への返信をして、なんとか上映には間に合ったんです。それでちゃんとお客さんが入れば、ずいぶんかっこいい話になったんでしょうけれど、興行的には散々な結果でした(笑)。だから、最初はいつお金がショートしちゃうかわからない状態で我慢大会みたいな感じでしたが、それから8年間、ドキュメンタリー映画を中心に配給や宣伝をなんとか続けてきました。

高根:ヒット作などに恵まれて、会社としてやっていけそうだと感じたタイミングはありましたか?

木下:いえ、特別に会社が潤うほどのヒット作はありません。しかし、そんなに大ヒットはしないけれど、きちんと興行として成立する作品をコンスタントに出し続けることができたので、お金のやりくりはできるようになっていきました。ドキュメンタリー映画の制作者とは以前より関わりがあり、独立前からすでに決まっていた作品もあったので、ある程度の予定を立てられたのが大きかったと思います。いまも決してそんなに儲かっているわけではなく、社員6名、アルバイト1名の計7名でようやくやっていける状況です。一応はちゃんとスタッフに給料を支払えているのは、代表として喜ばしいことですね。仕事が忙しいのは、別に辛いことではないですし。

高根:年間でどれくらい配給作品があるのですか。

木下:例年、8本から10本ぐらいですね。ニッチなジャンルをやっているので、映画祭で海外作品を買い付けたりすることもあまりないです。『コングレス未来学会議』などは、映画祭では評判になったものの、難解で他社があまり手を出しにくい作品でもあったと思うので、弊社で配給しましたが。基本的には、関係性の深い監督の新作を継続的にやっている感じです。

高根:制作費にもよると思いますが、ドキュメンタリー映画ではどれくらい入れば成功だといえるのでしょう。

木下:一概にいえる話ではないのですが、イメージとしては全国で1万人入ったら、興行的にはまあ良かったといえるのではないかと思います。もちろん、1万人では全く回収の見込みが立たない作品も当然ありますが、ひとまずクリアすべき規模はそれくらいです。

高根:上映会やソフト化、テレビ放送などの収益はありますか?

木下:ドキュメンタリー映画は、残念ながらテレビ放送にあまり向いていませんし、DVDなどのソフトの売れ行きも決して良いとはいえません。セルはともかく、レンタルは本当に厳しい状況です。ただ、社会性の高いテーマを扱う作品も多いため、上映会には向いていて、そこに非常に助けられています。たとえば、『戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)』という沖縄の辺野古のドキュメンタリーがあって、これは平和問題や沖縄基地問題などに関心のある人たちが上映会を開催してくださいますし、『みんなの学校』は、教育問題に関心がある、自治体とか行政も上映会を開催してくださいます。そういう広がりは大きいですね。

高根:確かにレンタルは単価/料率が低いですし、インディペンデント作品が収益を上げるのは非常に難しいと実感してます。一方で最近はNetlixなどのサブスクリプションサービスが増えてきて、中には秀逸なドキュメンタリーも少なくありません。東風としては、こうしたサービスをどう見ていますか。

木下:もちろん、Netflixなどで配信するメリットはあると思いますが、ドキュメンタリーには取材対象者の方との関係性もあるので、難しい部分もあると考えています。DVD化するのでさえ難しい作品もありますから。ただ、多くの人がドキュメンタリーに触れることができる環境が広がるのは、良いことですよね。

■「一番怖いのは、制作者側が表現に萎縮してしまうこと」

高根:先ほどのNHKの話に戻ります。多くの会社組織には、できるだけ他社や世間との摩擦を避ける傾向があると思います。それは制作会社などでも一緒で、たとえば過激な表現や波風が立ちそうなポイントにはすごく敏感になりますよね。その辺りはどう捉えていますか。

木下:NHKが悪いとか、そういう話ではないのですが、我々のように配給宣伝を行って、表現活動を助ける仕事をするものとしては、そういう話が出たときに萎縮してしまってはいけないとは考えています。ただ、当時のバイオタイドからしてみれば、会社全体を守らなければいけないし、そのためにはある程度、長いものに巻かれることも仕方なかったのでしょう。当時の私たちは特に守るものもなかったので、怖いものがなかっただけともいえますし。自分たちスタッフと作品、どちらも守らなければいけませんが、そのときは作品を第一に考えた選択をした、ということだと思います。

高根:最近は、地上波でもコンプライアンスという言葉が独り歩きして、視聴者からの感想のひとつに過ぎない意見を、大きな抗議として捉えてしまう傾向があるように感じます。テレビの現場のプロデューサーなどに話を聞くと、多くの方がそうした風潮に窮屈さを感じているようです。

木下:そうですね。現場の方にもよるとは思いますが、自主規制されている方も非常に多くなっている気はします。世間の声やコンプライアンスも怖いですが、一番怖いのは制作者側がそうした声に萎縮して自らの表現を抑えてしまうことなんじゃないかなと、個人的には考えていますね。

高根:そんな中、東風では『ヤクザと憲法』など、東海テレビが制作した刺激的なドキュメンタリー作品も配給しています。どういう経緯で東海テレビと組むことになったのでしょう。

木下:阿武野勝彦さんというプロデューサーが、地方でしか見ることができないドキュメンタリーをどう全国に広めるか考えたときに、映画化することを思いつき、人づてにお声がけいただいたのがきっかけです。彼は映画とテレビのドキュメンタリーの間にある壁をなんとかしたいとも考えていたようで、そういう意味でも意欲的な試みでした。『平成ジレンマ』という作品が、一番最初でしたね。

高根:東海テレビのドキュメンタリーは僕も大好きなんですけれど、ホームページを見ると視聴者からのかなり厳しい声もちゃんと載せていて、そういうところも素晴らしいと感じています。

木下:東海テレビが他局と少し違うのは、ディレクターを守るべき立場のプロデューサーが、その表現について誰よりも強い覚悟を持っているところだと思います。会社からなにを言われたとしても、プロデューサーが戦うんですね。あそこまで徹底できる方はなかなかいないと思います。阿武野さんと、『平成ジレンマ』を監督した齊藤潤一さん、ふたりがいることで、組織としてもまとまっているところはあるのではないでしょうか。おそらく、風通しも良い会社なのでは。

高根:東海テレビのような姿勢の会社が増えると、業界全体にも良い影響があるのかもしれないと感じていて、僕自身も学ぶことが多いです。もちろん、会社の利益を考えることは大切ですし、できれば敵は作りたくないですが、やっぱり戦うときは戦わないといけないので。ちなみに『ヤクザと憲法』も結構ヒットしたんじゃないですか?

木下:『ヤクザと憲法』は、おかげさまでお客さんが入りました。やっぱりタイトルやテーマに引きがあったのだと思います。怖いもの見たさというか、普段は見ることができないものを見てみたいという気持ちは、多くのひとが持っていると思うので。一方、同じ土方宏史監督の前作『ホームレス理事長』も内容的にはかなり充実していたのですが、興行的にはぜんぜんでした。ドキュメンタリー史上に残る“土下座シーン”もあって、非常に刺激的な作品なのですが、その面白さをどう伝えるかは難しかったです。一見するとキャッチーではないものの、優れた作品の魅力をいかに伝えるかは、配給をするうえで常に大きな課題ですね。

高根:最後にご提案なのですが、『FAKE』を上映した後、佐村河内さんが登場して「最後の12分間」を再現するというイベントやりませんか?

木下:それは凄そうですね(笑)。実現できるかどうかはさておき。今回、無事に『FAKE』の公開が始まり、私たちの想像以上のお客さんが劇場に足を運んでくれていて、受け入れてもらえていることに大変感謝しています。ただ、事前に予測はしていましたが、公開後いろんなところから矢は飛んできていて、褒め殺しなんてのもありました。それでも、私はこの『FAKE』という作品が持つ強度を信じていますし、実際とても強い作品なので、それくらいでは、揺らがないと思っています。ドキュメンタリー映画は現実に干渉しますから、配給をしていると大変な目にもよく合いますが、やっぱり面白いので、やめられないですね。

高根順次

最終更新:6/19(日) 14:03

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