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「ふつうが一番」が一番むずかしい 『藤沢周平 父の周辺』 (遠藤展子 著)

本の話WEB 6/21(火) 12:00配信

没後19年経つ今なお、多くの読者に愛されている作家・藤沢周平。 一人娘・遠藤展子さんが綴ったエッセイ『藤沢周平 父の周辺』(文春文庫)、『父・藤沢周平との暮し』(新潮文庫)がこの夏、ドラマ化される。ドラマ「ふつうが一番 -作家・藤沢周平 父の一言-」の中で母の役を演じた松たか子さんと語り合う「いろいろな家族のかたち」、そして「父と娘の関係」。

遠藤 今日はお目にかかれてうれしいです。『藤沢周平 父の周辺』は、1997年に父が亡くなって、その哀しみがまだ癒えていない頃に、父の担当編集者だった方からのアドバイスをいただきながら、一生懸命書いたものなんです。

 刊行してから10年経って、まさかドラマになるなんて、夢にも思いませんでした。

松 私は2004年に、藤沢さん原作の映画「隠し剣 鬼の爪」に出させていただいたんです。今度は、その作品を書いた人に着目したドラマに出る、というのがとても新鮮でしたね。

遠藤 プロデューサーの石井ふく子さんが「ドラマにしたい」と言ってくださったのが3年前。石井さんは昔、東芝日曜劇場で4本、父の作品をドラマにしてくれていて、直接父と会ってもいるんです。

 しかも父(藤沢周平=小菅留治)を東山紀之さん、母(小菅和子)を松さんが演じてくださる。お二人とも父の映画に出て下さっていたから、本当に不思議な縁を感じました。

松 東山さんとの共演は、今回がはじめてなんです。緊張する一方で、すごくワクワクもして。撮影現場も本当に、終始なごやかでしたね。

遠藤 85歳になる母は、配役のことを話していたのですが、ピンときていなかったようで。この前テレビの宣伝で見て、はじめて「本当に松さんがやるのね」と。ちゃんと言っていたんですけどね。

 とまどいつつも、すごく喜んでくれています。

松 よかった(笑)。

 最後の方の撮影で、留治さんが直木賞受賞の知らせを聞いて、「外の空気吸ってくる」と家を出て、喜びを噛みしめるように橋の上に佇んでいるシーンがあったんです。私、それを見ながら、ああ、本当に幸せだなぁと感動してしまって……。

 台詞も少ない、何気ないようなシーンでしたが、印象的な場面でした。

遠藤 うちは私が生まれてすぐに、実の母が病気で亡くなって。5歳のときに、父がいまの母と再婚したんです。それ以来、母は原稿の誤字脱字をチェックしたり編集者の応対をしたり、仕事でも家庭でも父のことをずっと支えてきた。直木賞受賞は、母にとっても本当にうれしかった出来事だったと思います。

 松さんが役の上でも、そういうふうに感じてくださったの、すごくうれしいです。

 でも、実在の人物を演じる、しかも突然5歳の子の親になるって、難しかったんじゃないですか。

松 演じるまえに、まず、「展子ちゃん」を生んだ、最初の奥様のことを、頭の隅に置いたんですね。なぜかは分からないけれど、自然にそうしていた。

 それから、あんまり“いい奥さん”をやらないようにしよう、ちぐはぐなところがあっても、結果として家族に見えてくればいい、と思いましたね。

遠藤 私は生んでくれた母はもちろんだけれど、育ててくれたいまの母にも、すごく感謝してるんです。反抗期もあって、結構バトルもしたし。

 小学2年生の私がお母さんと喧嘩して、家を出て行ってしまい、父と母が近所をさんざん探し回っても見つからず、困り果てて家に帰ってきたら、外で泣き声がして、あわてて雨戸をあけると、縁側に私が座っていたという場面、あれは本当のことなんです。でもそういうことって、私が心から母に甘えていたから出来たんだなぁと、思いますね。

 どちらの母も大切な存在。だから松さんが亡くなった母のことも考えて、演じてくださった、といま聞いて、またまたうれしくなりました。

松 和子さんを“いい奥さん”として演じようと思えばできてしまうんですが、それで本当にいいのかな、と。我慢が足りなくて、ときどきいらいらしたり、爆発しちゃったり……そういうのを繰り返して、留治さん・展子ちゃんとだんだん家族になっていく。そういうドラマなんじゃないかなぁと、思ったんです。

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最終更新:6/21(火) 12:00

本の話WEB