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学校教育をめぐる誤解と謎(13)――通う学校を選べる 「学校選択制」の知られざる一面

教員養成セミナー 6/21(火) 11:01配信

■「選ぶ自由」は近代社会の基本原則?

 私たちは、自らの人生において「選ぶ自由」を有しています。どのような事を学び、どのような職業に就くかは、憲法が「学問の自由」や「職業選択の自由」として保障しています。居住する地域、着る服、食べる物なども、概ね自由に選べます。こうした権利の享受は、近代民主主義国家の基本原則とも言えるでしょう。

 しかしながら、世界にはそうした自由が保障されていない国も少なからずあります。その昔は、日本も例外ではありませんでした。江戸時代は職業を選ぶことも、結婚相手を選ぶこともままなりませんでしたし、明治期以降も、個人の意思より家族や地域社会の事情が優先されることは、珍しくありませんでした。

「いや、今だってすべてが自由じゃない。」

 そう指摘する人もいるでしょう。確かに、現代社会においても家庭の事情等により、本意ではない人生選択を強いられることはあるでしょう。しかし、その制約は、戦前や明治期の日本社会とは、比べ物にならないほど緩やかです。

 もちろん、すべてが「自由」というわけではありません。「公共の福祉」に反する行動は制限されますし、学校に通うこと、税金を収めること、働くことなど、国民としてやらねばならない義務も課されています。

 また、義務教育段階の学校に関しては、私立を除けば原則として選ぶことができません。子供たちが通う学校は、居住地に基づき、市町村教育委員会が指定することになっています。

 しかし、10数年ほど前から、このルールも崩れ始めてきました。通う小中学校を自由に選べる「学校選択制」が、各地で導入され始めたのです。


■学校選択制にはさまざまなタイプがある

 学校選択制は、国レベルの制度ではなく、各自治体レベルで独自に実施されている取り組みです。最初に導入したのは三重県の紀宝町で、1998 年のことでした。その2年後、東京都品川区が導入したことを契機に広く知られるようになり、少しずつ導入する自治体が増えていきました。2012 年に文部科学省が実施した調査によると、学校選択制を導入している自治体は小学校で15.9%、中学校で16.3%となっています。

 一言に学校選択制と言っても、実施の形態はさまざまです。具体的には、以下のようなタイプがあります。

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【自由選択制】
居住する市町村内であれば、どの学校でも自由に選択可能

【ブロック選択制】
市町村内すべてではないが、一定範囲(ブロック)内からであれば自由に選択可能

【隣接区域選択制】
居住地の学区に隣接する学区ならば選択可能

【特認校制】
通学区の学校の他に、市町村が指定する特定の学校のみ選択可能

【特定地域選択制】
特定の地域に住んでいる者のみ、市町村内の学校を自由に選択可能
………………………………………………………

 「学校選択制」という語感からすると、多くの人は「自由選択制」をイメージするでしょう。しかし、これを導入している自治体は少なく、小学校で1.9%、中学校で4.9%にとどまっています。

 すなわち、全国の大半の自治体では、子供や保護者が自由に学校を選べる状況にはないと言えます。

 「学校が自由に選べる」という話は、子供たちや保護者には魅力的に聞こえます。導入すれば、その自治体に住みたいと思う人も出てくることでしょう。それなのに、全国的な普及状況が今一つなのはなぜなのでしょうか。


■「自由選択制」が普及しない背景

 各自治体が「自由選択制」の導入に踏み切れない理由は、幾つかあります。1つ目は、子供の通学距離が長くなりすぎること。東京都の品川区のように面積が狭く、公共交通機関が発達した自治体ならどの学校を選んでも支障はないでしょうが、一般的な自治体で遠隔地の学校を選べば、子供は数十分~数時間の通学時間を強いられることになります。

 2つ目は、「地域との一体感が薄れる」ことです。昨今の学校は、地域や保護者と密接に連携を取りながら、教育活動を進めることが求められています。地域住民が学校運営に参画する「コミュニティ・スクール」の設置が進み、小学校の「まち探検」や中学校の「職場体験」なども、地域との密接な連携の下で行われています。もし、「自由選択制」が導入され、「学校の子供=地域の子供」という関係性が崩れれば、学校地域間連携にも少なからず影響が出ることでしょう。

 そして3つ目は、「学校間格差が生じる」ことです。実際、「自由選択制」を導入した自治体の中には、一部の人気校に入学者が殺到し、他の学校の入学者が激減した所もあります。その結果、ある学校では1学年の学級数が3→1となり、行事運営等をはじめ、教育活動に多大な影響が出ました。

 一方で、格差が生まれることを肯定的に捉える人もいます。各学校が1人でも多くの入学者を集めようと競い合い、質の高い教育・授業を目指せば、全体の底上げにつながるという理由からです。

 しかし、公教育の基本原則は、「全国のどこの学校に通っても、一定水準の教育を受けられる」というものです。公立学校間の競争は、その基本原則を崩すことになりかねません。加えて、各学校には施設的なキャパシティがあります。「自由選択制」が導入されても、全員が必ず希望校へ通える保障はなく、運悪く本意でない学校へ通うことになれば、保護者や子供は不公平感を覚えるでしょう。

 こうした理由により、最近では学校選択制を廃止したり、選択の範囲を縮小したりする自治体も出てきています。近代社会は“選ぶ”権利が拡大し続けてきた感がありますが、こと公立学校に関して言えば、そうは問屋が卸さなかった、ということでしょうか。

佐藤 明彦(『教員養成セミナー』編集長)

最終更新:6/21(火) 11:01

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