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原発訴訟の“ウラ側”から見えてくるもの

Meiji.net 6/21(火) 10:42配信

原発訴訟の“ウラ側”から見えてくるもの
瀬木 比呂志(明治大学 法科大学院 教授)

 今年(2016年)に入り、2つの原発差し止め訴訟で異なる裁判が出されました。ひとつは、3月に大津地裁で出された高浜原発3、4号機の運転差し止めの仮処分。
 もうひとつが、4月に福岡高裁宮崎支部で出された川内原発1、2号機の運転差し止め仮処分却下の決定です。両裁判所の決定の内容をみると、原発の新規制基準に対して真逆の判断をしていることがわかります。なぜ、このようなことが起こるのでしょう。


◇福島原発事故以前の判断枠組みをそのまま踏襲している裁判所

 大津地裁の高浜原発差し止め仮処分では、基準地震動の策定方法に関する問題点や、地震に対する電源確保方法の脆弱性を指摘しています。新規制基準に適合していればそれでOKといった安易な考え方ではありません。
 それに対して川内原発の差し止め仮処分却下決定では、裁判所は原発の新規制基準への適合性を審査すれば良しという判断です。こうした判断は、2015年12月の大飯原発差し止め仮処分却下決定でもなされており、2011年の福島原発事故以前の最高裁判例の判断枠組みをそのまま踏襲しているといえます。

 私たち国民は、福島原発事故までは原発の安全神話を鵜呑みにさせられてきました。しかし、その安全神話が崩れたいま、国民の多くは、裁判所が客観的な第三者として原発の安全性を厳密に審査し、社会における危険制御機能を果たしてくれるものと期待しているはずです。
 そうした観点からすると、福島原発事故以前の判断枠組みをそのまま踏襲しているような裁判のあり方には、大きな疑問を感じます。

 逆に、高浜原発差し止め仮処分の決定を下した大津地裁は、福島原発事故の原因究明は「いまなお道半ば」と言及し、そういった状況で新規制基準を定めた国の原子力規制委員会の姿勢に「非常に不安を覚える」とし、基準地震動策定に関する問題点や、地震に対する電源確保方法の脆弱性を指摘するのみならず、使用済み燃料プールの冷却設備の危険性についても基本設計の範囲に含まれるとして、審査を行っています。福島原発事故後の司法判断のあり方として適切であるといえるでしょう。


◇裁判官はコントロールされている

 たとえば大津地裁の下した判断に対して、「わずか三人の裁判官が政治や行政の大きな方針をくつがえしてよいのか」という意見が出ることがあります。しかし、本来、司法による権力のチェックというのは、そういうものです。
 権力の内部では、厳しく自己を見詰める眼は不足しがちであり、ことに現在の日本では、それがほとんど失われてしまっているのではないかと感じられます。
 だからこそ、裁判官には、独立し、まさに、法の精神と正義の要請と自己の良心にのみ従う第三者の眼をもって、また、国民、市民の代理人として、冷徹に権力の監視を行う姿勢が求められるのです。

 原発に関していえば、司法に求められている役割は、ずばり、最後のフエイルセイフ(危険制御)機関であるといえます。もっとも、裁判は裁判官の価値観や考え方によって決まる部分も大きく、また、裁判官も人間であり、それぞれ価値観や考え方が違うのですから、判断も違ってくるということはあるでしょう。
 しかし、その価値観やものの考え方に大きな影響を及ぼす“工作”があるとしたらどうでしょう。

 一般には知られていませんが、特定の事件類型についての法律問題などを協議する、最高裁判所事務総局主宰の「協議会」というものがありました。協議するテーマは民事局、行政局等の事件局が決め、高裁長官や地家裁所長が、出席する裁判官を決めます。

 協議会は、各協議問題ごとに、まず、出席した裁判官が意見を述べ、議長が発言者を求め、質問するなどした後に、民事局、行政局等の係官が局の検討結果、見解を述べる形で進行します。
 協議会のこうした概要を聞くと、裁判官のための一種の勉強会や研究会のように思えるかもしれません。しかし、協議結果を事務総局がまとめた執務資料中の「局見解」(いわば事務総局の意向をまとめたもの)は、全国の裁判官たちに絶大な影響を及ぼしてきました。

 たとえば、1988年10月の協議会では「原発訴訟については行政庁の専門技術的裁量を尊重し、それに合理性があるか否かという観点から審査をしてゆけば足りる」との局見解が述べられていますが、最近の原発差し止め仮処分却下や取消し決定の判断枠組みも、この局見解に近いといえるでしょう。
 裁判官には、法の精神と正義の要請と自己の良心にのみ従い、第三者の目をもって判断することが求められますが、その要請に近いのは、前記のいずれの方向の裁判かということを考えてみることが必要かと思います。

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最終更新:6/21(火) 10:42

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