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「うどんって中華ですかぁ?」から気鋭の分類学者へ

JBpress 6/21(火) 6:00配信

 (文:柴藤 亮介)

 「テヅルモヅル」という生物をご存知だろうか。体の中心から五本の腕を伸ばし、その各々の腕を枝分かれさせ、まるで触手のようにうねうねと動かしながら海水中のプランクトンを捕獲し、それらを栄養源として生息している動物だ。

 腕を広げると、大きなものでは1メートルを超える圧倒的な存在感を持つモヅルもいるようだ。その様子にちなんで、一部の種は学名にギリシャ神話の「ゴルゴン」を冠している。

 見た目・形ともに異彩を放つこのテヅルモヅルだが、研究者の数が限られていることもあり、いまだ生殖発生や生活史などの基本的な生態すら明らかにされていない。

 本書『深海生物テヅルモヅルの謎を追え!』は、そんな謎多きテヅルモヅルを研究する茨城大学の岡西政典助教が綴る研究日誌である。

 珍しい生き物の研究者と聞くと、中高生時代からマニアックな知識を持ちピンポイントで研究室を選んだ人というイメージを持つかもしれないが、著者はそうではなかった。大学初年度はバイトとサークルに明け暮れ、試験前には友達同士で教え合いながら、低空飛行で定期試験を乗り越えていた。また卒業研究の時には、うどんを作り続けて30年の師匠に「うどんって中華ですかぁ?」と尋ねるに等しい質問を、恩師の先生にしていたそうだ。

 しかし現在、著者は15報近くの論文発表や、学会における多数の受賞歴など輝かしい実績を残す。分類学という学問に心酔した10年前の著者は、どのような過程を経て研究者へと変貌したのだろうか。

■ 大航海時代を皮切りに生物の名前がどんどん複雑化

 私たちはさまざまな「分類」のなかに暮らしている。花金の日には、仕事後に居酒屋へ向かい、友人と楽しいひと時を過ごす人もいるだろう。店に入り、メニューを眺め、飲みもの欄からビールを、前菜欄からオニオンサラダを、揚げもの欄から軟骨の唐揚げをそれぞれ選び、注文をする。当たり前の光景だが、私たちが手際良くオーダーできるのは、料理が「分類」され、「系統」立てられてメニューが作られているからである。アボカドサラダ、イワシの唐揚げ、オニオンサラダ、軟骨の唐揚げなどというように、品目がアイウエオ順に並んだメニューが置かれていることは考えにくい。全てのものは、その特性に基づいて体系的に整理されていないと、活用することが難しいのである。

 生物でも同じことが言える。大航海時代を皮切りに世界中の生物が行き来するようになると、生物の名前が複雑化してしまう問題が生じた。

 たとえば、昆虫のような種数の多いものでは、” Apis pubescens, thorace subgriseo, abdominale fusco, pedibus posticis glabris utrinque martine ciliatis” というように、とてつもなく長い名前が付けられていたようだ。ちなみにこれは、今でいう「ミツバチ」に相当する。こんなにも長い名前を持つ生物が出てくるようになっては、迂闊にミツバチ談義すらできない。

 また、生物が増えることで、生物の整理が困難化する問題も生じていた。飲みもの欄、前菜欄というように、生物たちも何かしらの方法で整理しなければならない。そこで登場したのが、分類学だ。

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最終更新:6/21(火) 6:00

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