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熊本震災で「町の財政を支える観光施設」がピンチに!

HARBOR BUSINESS Online 6/22(水) 16:20配信

 熊本地震は、地震の直接的被害が少なかった自治体の財政をも揺るがしている。

 全国的に有名な温泉地・由布市湯布院町に隣接する大分県九重町(ここのえまち)。

 人口約1万1000人たらずの山間に囲まれた温泉地であるこの町は、古くからの景勝地として知られており、その美しさは川端康成の小説「波千鳥」にも綴られている。風光明媚なこの町の財政を支える観光施設「九重“夢”大吊橋」が、地震による客足の減少でピンチとなっているのだ。

◆町民の“夢”を乗せた吊り橋

 九重町を代表する景勝地「鳴子川渓谷」の標高777m地点に架かる巨大な吊り橋「九重“夢”大吊橋」。

 この橋は2006年10月に開通した歩行者専用橋で、長さは390m、川床からの高さは173m。総工費は約20億円で、九重町の総事業費は約8億円。通行料金は1人往復500円となっている。

 鳴子川渓谷は紅葉の名所である「九酔渓」と日本の滝百選の1つ「震動の滝」が一緒に見られる場所であり、ここに観光橋をかける計画は1950年代からあったが、架橋は長年「夢物語」だと言われてきた。それが名称の由来にもなったという。

◆「無駄」と言われるも大盛況、町民生活支える人気施設

 平成の大合併の中で合併をせず「自律のまち」を掲げた小さな温泉町にとって、観光の目玉として建設した「九重“夢”大吊橋」に懸けた思いは大きかった。一方で、一部の在京マスコミはこの吊り橋を「無駄な公共事業の象徴」として大々的に批判、嘲笑の的としたことで、町民の間には不安が広がったという。

 しかし、その不安は全く以て杞憂であった。

 皮肉にもマスコミからの批判も知名度アップにつながり、九重“夢”大吊橋は2006年10月の開通直後から多くの客が詰めかけ、周辺の道路は大渋滞。紅葉の美しさも口コミで広まり、なんと開通24日後には年間集客目標を達成する。

 初年度の最終的な集客数は年間目標の約8倍である約230万人。2年目も集客力は衰えず、九重町は開通から僅か2年で吊り橋の建設のために国から借りた地域再生事業債7億3000万円を完済してしまった。

 2007年に大銀経済研究所(大分銀行)が大分大学と共同で行った調査によると、大吊橋が及ぼした経済効果は356億円にも達すると推定されるという。

 この吊り橋人気は観光活性化のみならず、町の財政を潤す結果となった。橋の通行料収入によって財政が豊かになった九重町では、町内在住の中学生以下の医療費が無料化され、町営ケーブルテレビやブロードバンド網の整備が行われるなど、吊り橋は町民に“夢”を与えたとともに、町民の生活を支える観光施設となっていた。

◆通行客激減で、捨て身の覚悟の「無料化」へ

 九重“夢”大吊橋の周辺では観光客の増加を受け、地元の特産品である牛肉と野菜を使った「九重“夢”バーガー」を開発、新たな名物とするとともに地元産品のPRに繋げたほか、様々なイベントを行ったりインバウンド需要にも対応することで集客を維持してきた。近年の来客数は1日平均千数百人ほどで推移、開通10周年となる2016年内には来客数1000万人を達成する見込みとなっていた。

 しかし、4月14日の熊本地震後からは状況が一変する。

 吊り橋に被害はなく、九重町内でも地震の被害を受けた住宅は2軒に留まるなど直接的な被害は少なかったものの、九重町を訪れる観光客は激減。

 九重“夢”大吊橋では、昨年の4月は42,283人の客が訪れたのに対し、今年4月は半減近い23,650人で、特に地震後は殆ど集客することができず、西日本新聞の報道によると、4月21日の通行客数は過去最低の2人。九重町内の宿泊者数も、地震後は昨年比僅か16パーセントほどにまで減ってしまったという。

 そこで、九重町では観光の起爆剤として期間限定で九重“夢”大吊橋の無料化を行うことお決定した。九重“夢”大吊橋の無料化は開業以来初となる。無料で通行できるのは、2016年6月1日から7月31日までの2か月間。

 町の財政を大きく支えてきた吊り橋の通行料収入であったが、九重町ではこの収入を捨ててでも、橋の無料化により周辺観光地に客を呼ぶことで、観光復興の起爆剤としたい考えだ。

 開業当時は在京マスコミによる「批判報道」が話題となり集客に繋がった九重“夢”大吊橋。地元では、今回の無料化が話題を呼ぶことで再び賑わう温泉地に戻れればと奮闘している。

◆いまだに観光客減少が深刻な九州

 観光客の減少は九州内各地で未だに深刻だ。

 九州経済調査協会の試算によると、地震による2016年度の九州内総生産の減少額は2,600億円~3,600億円にも上ると見込まれ、そのうちの1割以上、約360億円が観光消費の減少によるものだと推計されている。

 長崎県佐世保市のテーマパーク「ハウステンボス」1施設だけを見ても、地震の被害が全く無かったにもかかわらず、5月中旬までに宿泊客15,000人、団体入場客26,000人が予約をキャンセルしたという。

 また、日本一の温泉地である大分県別府市では、大型連休中の観光客数が昨年比で約45パーセントも減少。別府市では、観光施設や飲食店などの経営破綻を防ぐために緊急経済対策を実施することを決定している。

 九州全体の復興までにはまだまだ時間がかかりそうだ。

※九重町の写真は被災前のものです。

参考文献:大銀経済経営研究所(2008):九重“夢”大吊橋の地域経済効果.おおいたの経済と経営 (210),pp.1-9.

<取材・文・写真/都市商業研究所>

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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最終更新:6/22(水) 16:20

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