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新海誠作品の劇伴は「環境音による補佐」がポイント? 『言の葉の庭』から読み解く

リアルサウンド 6/23(木) 17:27配信

 新海誠監督による3年ぶりのアニメーション映画『君の名は。』が、 2016年8月に公開することが決定した。そのストーリーはもちろん、アニメーションを彩る劇伴をRADWIMPSが担当したというアナウンスが注目を集めている。今回はこのタイミングにあわせ、新海誠監督前作にして最大のヒット作(2016年6月現在)であり、新海作品に多く登場するKASHIWA Daisuke氏が劇伴を手掛けた2013年公開のアニメーション映画『言の葉の庭』の劇伴表現について考察したい。

・アコースティック・ピアノと「雨」の共通性

 本映像作品は、大部分が雨のシーンで構成されている。また、主人公の高校生・秋月孝雄が雨の日の午前中だけ授業を休んで向かう庭園で、ヒロイン・雪野百香里と出会い、2人の交流が始まるという物語の軸にも「雨」が関わってくる。

 ここで注目すべき点は、作品の劇伴全曲で、アコースティック・ピアノ(以後「ピアノ」で統一する)が使用されているということ。ピアノの音色は「水を連想しやすい要素」として劇伴で使用されることが多いのだ。実際の使用例として、以前にこのリアルサウンドの記事でも例をあげて記述した、高校水泳部を描いた青春アニメ『Free!』の劇伴の一部では、うっすらとしたパッドの背景と共に、ピアノの高音に比較的ゆっくりなディレイをかけた音を使うことで、水の中の透き通った世界を非常に上手く表現している例が見られる。『言の葉の庭』においては、劇伴全曲で使用されたピアノの音色が水を連想させ、ストーリー全体のキーとなる「雨」との共通性が感じられる。

・ピアノで劇伴を構成していく難しさ

 本作では物語の終盤、ピアノと他楽器のアンサンブルによる劇伴が登場するが、それまでは全てピアノソロでの劇伴が使用されている。しかし、劇伴を純粋なピアノだけの編成で構成していくことは意外と難しい。なぜなら、ほとんど音色の変化をつけられないためだ。もちろん、「演奏法」や「打ち込みのテクニック」で音色に変化をつけることは可能ではあるが、それはあくまでも「ピアノが出せる音色の中での変化」となる。しかし、本作では変化を最小限にとどめつつ、視聴者に倦怠感を感じさせない劇伴として成立している。

 その理由として考えられるのは以下の2点だろう。

1、ピアノソロによる劇伴の即興的要素の強さ
2、環境音を多く使用した音声表現による聴覚的な補佐

 特に注目すべきは「環境音」を多く使用した、音声表現による聴覚的な補佐だ。この作品では、開始4分間は劇伴が使用されずに「雨の音」「鳥の声」「雷の音」などといった環境音と映像のみで進行していくほか、物語全体を通してみても、それらの環境音に加えて「風の音」「セミの鳴き声」「携帯電話のブザー(生活音)」などといった劇伴以外の「状況内音声」が一般的な映像作品より非常に多く登場する傾向にある。これらにより、劇伴のみならず映像作品に登場する様々な「音」も含めた音声表現による聴覚的な補佐が期待でき、視聴者が倦怠感を感じにくくなっているとも考えられる。

・どの音声を中心に聴かせるか

 また、別の観点で『言の葉の庭』における劇伴及び音声表現の特徴を挙げるとすると、「音楽を主体で聴かせるシーン」「環境音を主体で聴かせるシーン」などが明確になっているということだ。数ある具体的なシーンからいくつか例を挙げると、梅雨が明けてから新学期が始まるまで秋月孝雄と雪野百香里が会えなくなった時期を描いたシーンでは、切ない音楽を主体に聴かせ、生活感溢れる様々な場面を映し出すことにより、2人の距離を感じることができた。さらに、開始4分間などの「映像で自然などを美しく魅せているシーン」では、それに伴い環境音を主体で聴かせているシーンも確認できる。これらは、劇伴が一度使われ始めたら長く使われ、劇伴を使わないシーンではハッキリと使わない時間が長い、ということによるメリハリの明確さが大きく関与しているからこそ、効果的に取り入れることができているのだろう。

 本作品のように環境音を多く取り入れたり、劇伴に環境音を連想させる要素を取り入れることは、映像表現、映像音楽表現において非常に重要な点であり、高い技術を必要とするものだ。そしてこれらは、本作品のように自然風景も含めて細かく美しく表現された映像とのコラボレーションだからこそ、魅力的に響くのだろう。新海氏の得意とする儚さを含んだ映像描写は、RADWIMPSの手によってどのように表現されるのか。『君の名は。』の公開を楽しみに待ちたい。

高野裕也

最終更新:6/23(木) 17:27

リアルサウンド