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文科省が推進する総額2500億円のムダ事業――チリも積もれば山、の典型

HARBOR BUSINESS Online 6/23(木) 9:10配信

◆費用総額を「頭を使ってわからないようにしている」文科省

 文部科学省が中学校武道必修化をどう考えているのか解せないのは、最終的に何棟の武道場を新設したら整備が打ち止めなのか、最終目標を明確にしていないことです。これでは費用総額が分かりません。

 そういえば、建築エコノミストの森山高至さんが、新国立競技場費用問題の際に、「(文科省はこの問題について)頭を使ってわからないようにしているんです。だから(自分が)頭を使ってわかるようにしてやろうと」と雑誌の取材で語っておられました(ゴング格闘技 2015年10月号)が、大変おこがましいですが、現在の私の心境は森山さんと全く同じ気持ちです。

 最終目標を明らかにせず、誰にも費用総額を気付かれず、国民の批判を浴びることなく、いつの間にか多額の税金を使って、最終目標を達成するというのが文科省にとっての一番賢いやり方なのでしょう。

◆闇に包まれた武道場整備の交渉の経緯と詳細

 当然ながら文科省と財務省の間では、武道場設置数の最終目標は話し合われているとは思いますが、それを公表することは、財務省が予算の裏付けを公に認めることにもなってしまうという事情もあり、情報が秘匿されているのかもしれません。

 文科省のみならず、武道界を代表して議員武道連盟も財務省と直接折衝を行っています。議員武道連盟事務局長の北川知克衆院議員の2008年12月3日の活動報告によると、武道議員連盟会長で前外務大臣・高村正彦(現自民党副総裁)と元文部大臣・島村宜伸の両衆院議員が北川議員と3名で当時の中川昭一財務大臣に対して武道場整備の予算要望を行ったとのことです。このように中学校武道必修化は極めて政治的な色彩が濃いものですが、交渉の経緯と詳細は一切明らかになっていません。

◆武道場2300校整備で合計1040億円の費用までは判明

 文科省が武道場を何棟作るか明言したのは、2009年度から2013年度の「緊急5か年」の計画で、2008年度時点の公立中学校の武道場整備率である47%から70%まで「+23%」の引き上げを目指すと公表したのが最初で最後です。つまり「全国公立中学校約1万校の23%にあたる2300校の武道場を新築する」ことまでは明確に表明しているわけです。ここまでにかかる費用総額が1040億円であることは、先の「連載第2回」に書いた通りです。

 この70%とは、何を基準に定められた目標値なのでしょうか? これについて文科省は、「緊急5か年」の計画では、「6学級以下の小規模校を除く」中学校で武道場整備を行うとしています。2007年度データを調べると、全国の公立中学校10150校中2795校(27.5%)が6学級以下の小規模校でした。なるほど、小規模校を除くと72.5%となり、とりあえず小規模校は除いて整備を進めて70%のラインで整備すれば、効率的に安全で円滑な授業を行うためのベースが築けるという計算なのです。

◆「教育の機会均等」には施設の整備の平等も含まれるとする解釈

 それでは、整備率70%を達成した後は、武道場整備はそこで打ち止めなのでしょうか?それとも更に継続して、100%達成を目指して行くのでしょうか? 2008年度時点の公立中学校の武道場整備率は47%でしたので、100%達成となれば「+53%」、つまり5300校の武道場を新築するということになりますが、文科省はそれについては何も説明していません。

 ただ文科省は「70%で整備は打ち止めです」とは対外的には言えないはずです。教育基本法第3条に規定される「教育の機会均等」には施設などの外的教育条件の整備も含まれると解釈されるからです。「この学校には武道場があるけど、この学校にはない」という状況が文科省によって意図的に作り出されるとしたら不平等であり、教育の機会均等に反すると見なされる可能性があるのです。そもそも整備率70%を目指す際に「緊急5か年」の計画と謳っており、「緊急」と言う以上、「取り急ぎの目標は70%だけど、将来的には100%を目指す」と行間を読むのが自然でしょう。

◆東日本大震災後の学校施設耐震化優先により武道場整備に遅れ

 ところで、現在(2016年)は「緊急5か年」の最終年である2013年度終了から2年以上過ぎていますので、計画通りであるならば、既に武道場整備率は70%をとっくに達成している計算になります。ところが、日本武道学会の昨年の公表によると、整備率は未だ61%に止まっているとのことです。この整備の遅れの理由は何なのでしょうか?

 実はこれについては、当時の文科省・布村幸彦スポーツ青少年局長が理由を述べています。曰く「耐震化などが優先されたため」とのことです(櫻井美子,神奈川大学,2013年3月)。東日本大震災以降、体育館や屋内運動場など学校施設の避難所としての重要性が再認識され、補強による耐震化や危険な天井材の撤去、落下防止ネット等の設置対策が講じられました。これらの対応費用が優先されたことが、武道場整備の遅れに結びついたと考えられます。武道場整備の遅れには以上の明確な理由がありますので、文科省は整備を意図的に遅らせているわけでも、断念したわけでもありません。

 ですが「連載第2回」で書いた「武道場整備費の国庫補助率の嵩上げ措置(整備費の1/2を国が負担)は2013年度限りで終了しました。2014年度以降は国の補助率が2008年度までの1/3に戻ったこともあり、財政難の地方公共団体では武道場整備の速度は確かに鈍化しているようです。今後も緩やかなスピードで整備が進んでいくものと思われます。

◆次の学習指導要領に武道必修を継続的に盛り込むのは既定路線

 さて、文科省は次の学習指導要領を東京五輪の開催される2020年度に小学校から順次実施することを表明しました(中学校は2021年度から)。これにより次回の学習指導要領は2016年度中(来年3月まで)にも改定内容が答申される見込みとなりました(産経新聞 2015年8月6日付)。

 中学校武道必修について中央教育審議会(中教審)は次の答申に継続的に盛り込んでくることは確実です。何故なら武道必修は中教審自身が世に送り出した教育政策であり、その中教審が現状の教育を否定するはずがないからです。そうでなくとも第一次安倍政権肝煎りの政策が、現・安倍政権下で否定されるはずがありません。武道場整備は遅れが目立ちますが、整備率100%達成は次の学習指導要領が実施された以降の長期的な課題として引き継がれていくものと思われます。

 ですので、学習指導要領が改訂され、武道場整備促進の継続が既成事実化する前に、少しでも早く、中学校武道必修化の費用総額を明らかにした上で世論を喚起し、その是非を問いたいというのが本稿連載執筆のひとつの大きな理由となりました。

 次回は武道場整備費が2500億円に及ぶ最終的な根拠と、いかに高額で無駄な費用であるかについて言及します。

<取材・文/磯部晃人(フジテレビ)>

【中学校武道必修化の是非を問う 連載第3回】

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:6/23(木) 9:10

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北朝鮮からの脱出
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