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ソニーはなぜ「レコードプレイヤー」の新製品を発売したのか?

HARBOR BUSINESS Online 6/24(金) 9:10配信

 音楽はデータ化して持ち運ぶのが近年の常識。たとえCDを買わずとも、音楽データをダウンロードして手軽に聴ける時代である。にもかかわらず、レコード店でアナログレコードが陳列されている光景は、もはや珍しくなくなった。レコードの全盛期を知らない20代前後の若者でも「レコードで音楽を聴く・聴きたい」というほど、再評価の動きが高まっているのだ。(参照:「もはやブームは終了?アナログレコードの復活は本物だった」2015年05月15日付HBO)

 こうした流れを受け、大手AV機器メーカーのソニーは、2016年4月にステレオレコードプレイヤーの新商品『PS-HX500』を発売した。しかしデジタル音源が主流の時代に、なぜアナログレコードプレイヤーを改めて発売するのか?

◆きっかけは「ハイレゾ」の普及!?

「ハイレゾリューション・オーディオ(ハイレゾ)機器の普及が発売を後押ししました」と語るのは、ソニー広報・CSR部の増田桂三氏。ちなみにハイレゾとは、CDやDAT(Digital Audio Tape)を越える情報量を持つデジタル記憶技術(後述のDSDなど)で録音された、高音質な音源のことだ。

「たとえば国内外のアーティストが、新曲をCDに加え、最初からハイレゾ音源やアナログレコードでも発売することが増えました。これはハイレゾならではの音質を届ける環境が整っているからでしょう。臨場感、空気感があり、アーティストの思いを直接届けられる魅力があるハイレゾ音源がある一方、レコードは、“まるい”、“あたたかい”音などと表現されます。また、レコードは再生する曲順が固定されていることがあり、ライブの様にアルバム全体を通したストーリーの表現ができるという声もあります。さらに、大きなジャケットのデザインにこだわれるという面もあります。音質が良く取り扱いの便利なCD、より高音質で臨場感のあるハイレゾ、多様な魅力があるアナログレコードと、アーティスト側も媒体を選んで、より自由な表現ができるようになったというわけです。さらに、ハイレゾ再生機器の普及も進む中で、ハイレゾの世界とアナログレコードの間をつなぐものとして、この『PS-HX500』を企画しました。」(増田氏)

 ハイレゾとアナログを繋ぐもの……とはいったいどういうことで、『PS-HX500』にはどのような機能が搭載されているのだろうか。

◆鍵は「ハイレゾ音質」による録音

「アナログレコードの高品位な再生はもちろんのこと、世界初(2016年3月16日広報発表時点)、Direct Stream Digital(DSD)によるハイレゾ・ファイルフォーマットでのPCへの録音・保存が可能です」

 そう話してくれたのは、ソニーマーケティング広報グループ・細田良子氏だ。DSDとは、ソニーが開発した、原音に極めて近い録音が可能なデジタル記録技術である。

「DSDをはじめとしたハイレゾ・フォーマットで録音するには、専用のアプリケーションをインストールしたお手持ちのPCとプレイヤーを接続するだけ。通常、アナログレコードの音は、外部からの振動の影響を受けてしまいます。スピーカーから出る音の振動も悪影響になってしまうのです。しかし『PS-HX500』なら、PCとプレイヤーを接続するだけなので、スピーカーから音を出す必要がありません。つまり、レコード本来の音を損なうことなく録音することが可能です。これで昔のアナログレコードの音源もハイレゾ再生対応のウォークマンやハードディスクオーディオプレイヤーなどでお楽しみいただけます」(細田氏)

 音質と利便性を両立させることで、デジタル時代の消費者のニーズにも訴求。過去にほとんど廃れたといっても過言ではないアナログレコードに、ただ回帰するのではなく、デジタル音源として持ち歩けるといった現代的な進化を遂げているのだという。

 しかし、いくらアナログ再評価の機運があるといっても、いままでレコードに触れる機会のなかった若い世代が急にアナログレコードに手を付けるとは考えにくい。プレイヤーをはじめとした周辺機器のみならず、そもそもアナログレコード自体を持っていない人からすると、「興味はあるけど一歩踏み出せない」というのが本音だろう。

◆安価なモデルと共存し市場拡大を目指す

「最近は1万円前後で購入できるレコードプレイヤーが、各メーカーから発売されています。機能・性能でいえば必要最低限ではありますが、初めてレコードで音楽を聴く方の入門編としてはありうる選択肢だと思います。まずはシンプルで扱いやすく、安価なプレイヤーから入りレコードの魅力に触れ、さらに、レコードならではの音をもっと深く味わいたい、大切なレコードの楽曲をハイレゾ録音して屋外に持ちだし手軽に高音質で楽しみたい、という方にはより高品質な製品をお買い求めいただく。その最初の間口を広げるという意味では、お求めやすいプレイヤーが数多く出回って、音楽市場が活性化するのであれば業界全体としてもよいことだと思います」(増田氏)

 2000年頃から、音楽はネットワーク・デジタル音源の時代へ移り、それまでのCDと比べ格段に手軽に、さまざまなジャンルの楽曲に触れられるようになった。以降、月額いくらで契約し、好きな楽曲をダウンロードするといった販売形態が広まり、CDの売り上げは右肩下がりだと聞く。そんな中、旧世代のアナログレコード市場が盛り上がってきている。落ち込み気味の音楽業界の状況を打開する一手として定着するか、注目したいところだ。

<取材・文/上原純(OfficeTi)>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:6/24(金) 9:10

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