ここから本文です

なぜボウイは、アラジン・セインを生み出し、ジギー・スターダストを葬り去ったのか

ローリングストーン日本版 6/25(土) 16:00配信

1973年に発表されたアルバム『アラジン・セイン』は、ボウイが彼の華やかな幻想の暗部へと浸るのを目撃した。

デヴィッド・ボウイのファッションは世界をどう変えたか

ジギー・スターダストよ、安らかに眠れ。そしてアラジン・セインよ、永遠なれ。ジギー・スターダストの壮大な物語で世界を魅了してからわずか1年後、ボウイは髪型を変え、顔に稲妻のメイクを施して、新たにジギーより少し暗い、魅力的な人格を生み出した。「1973年のあるとき、すべてが終わることがわかったんだ」とボウイは語る。「一生ジギーのキャラクターにとらわれたくなかった。次の領域に移ろうとしてアラジン・セインを演じたんだと思う。アラジン・セインはジギーのイミテーションだが、彼よりも少し弱々しい二次装置だ。僕の意識の中では『ジギー、ワシントンに行く』という感じだった。アメリカの影響下にあるジギーだったんだ」。

それが邪悪な影響だったのは間違いない。『アラジン・セイン』はジギー・スターダストよりも荒々しく、不快でけばけばしいアルバムだ。ツアー中に書かれた作品であり、アメリカンカルチャーの持つ退廃と不道徳さの洗礼を色濃く受けている。LP盤では、曲名とともに地名が記されている。おそらくそれは曲のインスピレーションを得た場所だろう。『あの男を注意しろ』はニューヨーク、『ドライヴ・インの土曜日』はシアトルとフェニックス、『気のふれた男優』はロサンゼルス、『薄笑いソウルの淑女』はロンドンへと戻る。しかし彼はどこにいても安っぽいセックスとドラッグを目にする。そしてアメリカでスポットライトの中に照らされたとき、ボウイは自分がそれを好ましく思っているのか確信できなかった。

ボウイはこのアルバムにローリング・ストーンズの『夜をぶっとばせ』のカバーも収録

アルバムのトーンを定めているのは『気のふれた男優』だ。この男優は夢見る役者ではない。挫折したハリウッド俳優で、サンセット通りとヴァイン通りの角でジャンキーの若い娼婦を拾う。ボウイは、有名になるという自身の夢が実現した直後に、もう自分がハリウッドのどこかでしおれ、色あせていくところを思い描いていたのである。ミック・ロンソンのギターもハーモニカも大音量だが、この楽曲はそれでも最高の、そして猥褻なグラムロックである。1974年のツアーはBBCのドキュメンタリーフィルム『Cracked Actor』に記録されているが、彼はマントをまといハムレットに扮してこの曲をパフォーマンスしている。人間の頭蓋骨に向かって歌い、それに情熱的にキスをする。

ボウイはこの曲をツアーの狂乱の中で書き上げた。製作中のタイトルは『Love Aladdin Vein』だった(同じ年、彼はルーリードの『トランスフォーマー』をプロデュースし、ザ・ストゥージズの『ロー・パワー』をミックスしている)。楽曲は前衛的なジャズピアニスト、マイク・ガーソンが『スパイダーズ・フロム・マーズ』に加わったことで広がりを見せた。(ちなみにサイエントロジー信者のガーソンはツアーの間、バンドのメンバーたちを宗教に勧誘し、ツアーの混乱をさらに大きくした)。『デトロイトでのパニック』『ジーン・ジニー』『あの男を注意しろ』でロンソンは最高に淫らで派手なギターを大胆に披露している。これらの曲はボウイの人生の中でも最もハードなロックに分類される。そしてガーソンのピアノが『薄笑いソウルの淑女』のような芝居がかったバラードを支えている。

アラジン・セインに比べて、ジギー・スターダストとしての音楽はまったく無垢であり理想主義的である。ヒッピー的だとも言える。しかしアラジン・セインにも『ドライヴ・インの土曜日』のような優しい部分もある。この極めて面白いドゥーワップのバラードが想定するのは核による世界の終末の後のディストピアだ。セックスの仕方を忘れた人は大昔のミック・ジャガーのビデオを見てそれを学ぼうとする。ボウイはこのアルバムにローリング・ストーンズの『夜をぶっとばせ』のカバーも収録し、ジャガーに賛辞を贈る。ただし「My tongue’s getting tied(うまく話せない)」という部分をボウイは「My tongue’s getting tired(舌が疲れたよ)」と歌っている。

『アラジン・セイン』は1973年4月にリリースされた。ロンドンのステージでジギー・スターダストを抹殺する3ヶ月前である。ボウイが登場し、ロックンロールは絶頂期を迎えたばかりだった。しかし彼は立ち止まることなく、アラジン・セインを生み出すことで未知の領域へと足を踏み込んでいったのだった。

Translation by Yoko Nagasaka

Rob Sheffield

最終更新:6/25(土) 16:00

ローリングストーン日本版

記事提供社からのご案内(外部サイト)

RollingStone 2017年WINTER

株式会社パワートゥザピープル

2017年WINTER
12月10日(土)発売

880円(税込)

特集:The Rolling Stones
約11年ぶりの新作インタヴュー
ONE OK ROCK
SUGIZO/TAKURO
浅井健一/西島隆弘 AAA