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英国のEU離脱。次に続く可能性がある国は?

HARBOR BUSINESS Online 6/26(日) 16:20配信

「党内における個人的な問題を解決する為に英国そしてヨーロッパの総合的な関心を危険にさらした政治家としてデイビット・キャメロンは歴史に残る」と述べたのはスペインのフェリペ・ゴンサレス元首相だ。

 同氏はBrexitの勝利に因み、スペイン代表紙『El Pais』に寄稿した文章の中でそれを言及した。

 ゴンサレス元首相はスペイン社会労働党党首として1982年から1996年まで4期政権を維持してスペインの今日あるインフラを築いた指導者だ。また、首相時にはコール独首相そしてミッテラン仏大統領の二人からは全幅の信頼を得ていた政治家でもあった。特に、コール首相はEUに関する重要な問題は必ずゴンサレス氏に相談したという。

 そのゴンサレス氏は、同寄稿文の中でさらに次のように言及している。

〈「英国はEU統合を進めるにはいつも抵抗を示していた。英国人は(取引きの)自由地域を求めるだけで、統合された組織体には反対してきた。マーガレット・サッチャーはこの姿勢の明確な提案者だった。しかし、彼女は『私は規模の大きな統合には反対です。しかし、ヨーロッパの列車から降りることは絶対にやりません』と語った」〉という。

 ところが、キャメロン首相は正にこのヨーロッパの列車から下車したのだ。そしてゴンサレス元首相は〈「この離脱したあとの代替プランをもっていない者が勝利した。それはネガティブな感情による勝利だ。キャメロンの役目は尽きた。彼が国家を導いた結果は無効となった」〉と述べた。また〈ヨーロッパに未来を託した若者が負けた。そして未来をもっていない者が(英国の)未来を決めることになった」〉とも指摘している。

 ゴンサレス元首相と同様の指摘をするのは、ロンドンに在住のイタリア人ジャーナリストのアナリサ・ピラス氏だ。彼は、『El Mundo』の中で〈「彼は歴史的に無責任や過ちを犯した。Brexit派が勝利するとは当初予想しておらず、自らの政党内部の政治問題が動機で軽率に国民投票の実施を決めた」〉と述べている。

◆EUが恐れる「次なる離脱」

 EU離脱を決定した英国であるが、離脱派は離脱の為のリスボン条約50条に従って離脱申請をじっくり行ないたいという姿勢だ。一方のEU委員会は早急に離脱の為の交渉を始めたいとしている。離脱の交渉期間は2年とされているが、離脱の申請が行なわれてから2年ということで、その申請が遅くなればその分、離脱の時期も遅くなるということになる。

 EU委員会が懸念しているのは、その間に他の加盟国の間でも同様に離脱の為の国民投票を実施しようとする動きが強まることである。逆に、離脱派のリーダーのボリス・ジョンソン(ロンドン前市長)やナイジェル・ファラージ(独立党党首)は他の国でも離脱派が増えることを望んでいる。彼らが望んでいるのはEU解体である。

 今後の離脱の動きの急先鋒にあるのがフランスの国民戦線を率いるルペン党首とオランダの自由党のウィルダース党首である。

 オランダの離脱をNexit、フランスのそれをFrexitと呼ぶが、それがこれからメディアでも盛んに取り上げられるようになる可能性がある。この2か国に続いて、スウェーデンとデンマークがそれに追随する可能性がある。これらを離脱推進派の第1グループとするなら、そのあとに続く国としてポルトガル、イタリア、ギリシャ、ベルギーが控えている。

◆「離脱候補国」に波及する英国の決断

 フランスはこれまでもEU懐疑派の多い国として知られて来た。その数は〈フランス人の61%を占める〉という。(参照:『El Confidencial』 )

 フランスは歴史的にも常にヨーロッパの基軸として存在して来た。しかし、最近の同国の経済低迷とテロリストからの脅威があり、それらと移民受け入れを結びつけて考える人々がいて、これらの問題の発端がEU加盟にあるという結論に結びつけようとする傾向にある。それをルペン党首の国民戦線が上手く捉えて国民からの支持を集めているのだ。

 オランダの自由党は英国の離脱派が勢いをつける以前からEUに懐疑的であった。ウィルダース党首はEU委員会がオランダの政治を左右していることに反対して、彼は常々〈「我々自身が我々の国、我々のお金、我々の国境そして移民への取り組みを担うべきだ。私が首相になれば、EUから離脱することについての国民投票を実施する。オランダ国民にその決定を任す」〉と発言しているように、今回の英国のEU離脱は彼にとって大きは弾みとなっている。しかも、彼が首相になる可能性も浮上している。(参照:『El Confidencial』)

 次に、スウェーデンはスカンジナビアにおける英国という位置にある。即ち、EU加盟はしているが、ユーロ通貨は採用していないということだ。今回の英国のEU離脱はスウェーデンの今後の政治を大きく左右することになると思われる。EUの移民対策に従って移民を多く受け入れたが、それを快く思わない人々の支持を受けて極右派が力をつけて来ているのだ。

 デンマークも、スウェーデンと同様に移民問題によって長年築き上げた社会保障システムが壊れる可能性が生まれている。さらに、デンマークは英国と政治的体質が似ており、これまでEU内における交渉で英国を頼りに共同歩調を良く取って来た国である。その英国がパートナーとしていなくなると強力な味方をなくしたことになる。

 イタリアの北部同盟は今回の英国の離脱に強い感謝を表明している。これでイタリア国内で国民投票を実施出来る動機が出来たとしている。

 ベルギーとポルトガルは共に英国と経済的に強い絆をもっている国である。特にポルトガルは地中海の国というよりも大西洋の国という意識が強く、フランスとスペインがポルトガル征服に動いた時には英国が常にポルトガルの味方になった。

 一方、スペインにはジブラルタルという英国植民地が隣接している。観光と金融で栄えるジブラルタルの国民は9割がEU残留を望んだ。スペインはジブラルタルがEU加盟国の英国領ということからシェンゲン協定に基づいて人の移動の自由が保障されていた。しかし英国がEUから離脱すると、ジブラルタルもその特権を失うことになり、スペインはジブラルタルとの間に国境を設けることが可能となる。これも今後のスペイン、英国そしてジブラルタルの3者交渉が必要になってくる課題として浮上してくるはずだ。

 以上の列挙した国々から窺えるように、英国はこれらの国々に強い影響力をもっているのである。それ故に、英国のEU離脱派がEUの解体を狙っているというのも空想話しではないのである。

◆英国の離脱を惜しむメルケル

 一方の、EUの2大リーダー国であるドイツとフランスの動きを見ることにしよう。英国のEU離脱が他の加盟国にマイナス影響を与えないようにドイツとフランスは断固たる姿勢を取る必要があるだろう。まずは、英国が抜けたEUの3大国、ドイツ、フランス、イタリアの首脳会談は6月27日に予定されている。

 メルケル首相は英国の離脱を非常に惜しんでいる。メルケル首相がEU内で難しい政策を提案せねばならない時に、キャメロン首相は常に強力な味方になった。ドイツの考えがフランスと対立する時には英国は常にドイツに味方した。またメルケル首相が英国を加盟国として維持することに強い関心をもっていたのは英国がコモンウエルスの盟主であるということであった。メルケル首相はこの英国が歴史的に築いたこれらの国々との将来的な発展に英国の力を借りたいと望んでいたからである。

 ドイツは、移民問題がEU加盟国同士の絆をより強めることになると考えていたようである。しかし、結果はその逆となった。メルケル首相は英国がEU離脱が決定したあとの記者会見で〈この反応に焦ることなく冷静さを求めた。それがバイタルであるとした〉、更に〈27か国がどのような反応を示すかは、この突風によって更にEUに分断が生じることがないように努めることだ〉と述べた。(参照『El Pais』)

 フランスのオランド大統領は、次期大統領候補のひとりとされている国民戦線のルペン党首がEU離脱を訴えていることを意識して、英国の早い離脱を要望した。そして、大統領は〈ヨーロッパの根底からの再建をリードしたい〉と望み、英国の離脱が決まった数時間後にエリゼー宮殿からの大統領のメッセージとして〈「ヨーロッパの中心に位置するフランスは特別な責任を背負っている。他の国々をリード出来るヨーロッパ大陸の将来を保障する国になる」〉と述べて国民にフランスが担うべき役目を伝えた。(参照「El Pais』)

 中東やアフリカからの移民問題がヨーロッパで深刻な政治経済そして社会問題に発展するに及んで、これまでのグローバル化は大きな障害になっている。これからもEUが加盟国の、特に金融財政面で独立性を尊重せずにグローバル化を更に強化しようとして行けば行くほど、ユーロ市民の中に不満が募り、それを利用する勢力が出てくるはずだ。

 EUはひとつの重要な局面を迎えている。

<文/白石和幸>

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営する生活。バレンシアには領事館がないため、緊急時などはバルセロナの日本総領事館の代理業務もこなす。

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最終更新:6/26(日) 16:35

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