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イギリスの自動車工場を見てきた社労士が考える、英国のEU離脱と移民労働者の関係。(榊裕葵 社会保険労務士)

シェアーズカフェ・オンライン 6/27(月) 5:17配信

英国の国民投票でEU離脱が決定した。

■EU離脱を支持した労働者階級の想い
様々な思惑が複雑に絡み合った結果の結論であり、離脱派の勝因を軽々に論じることはできないが、私は、社会保険労務士として、労働者階級にEU離脱支持者が多かったということが印象に残った。

これは、「行き過ぎたグローバリズムに対して、働く人がNoを突き付けた」という象徴的な出来事であったのではないかと私は受け止めている。

■私が英国の自動車工場を見学して感じたこと
私は、サラリーマン時代には自動車業界に身を置いていたので、英国へ出張したことが何度かある。英国は、日系自動車メーカーの欧州における一大生産拠点だからだ。トヨタ、ホンダ、日産の日系大手三社は英国に生産拠点を有している。その他にも、ジャガーランドローバー、GM、MINIなど、欧米系のいくつかのメーカーも英国に生産拠点を置いている。

そして、英国の自動車産業は、多くの移民を雇用することで成り立っているという事実も目の当たりにした。

私が勤務していた会社の現地法人の工場においても10か国以上の国籍の方が働いていて、工場内に足を踏み入れると、ヘルメットのかわりにターバンを頭に巻いている人なんかもいたことが印象に残っている。

現地法人の責任者の方に話を伺うと、工場で働いてもらう労働者を求人しても、英国人の方の応募は少なく、多くの部分を、移民や出稼ぎの外国人労働者の方に頼らざるを得ないということであった。

また、英国人の方は、肉体的にきつい工場労働を好まない、という話も聞いたことがあり、一概に移民が英国人の仕事を奪っているのではなく、英国人が仕事を選んでいるという側面も皆無ではなさそうである。

だが、確かにそういう一面はあるにせよ、より大きな問題は、賃金などの雇用条件ではないかと思われる。

EUでは加盟国の間で人の移動が原則自由であるが、所得水準の低い東欧諸国がEUに加盟したことがこの問題を大きくした。

東欧出身の移民や出稼ぎ労働者の方は、英国の最低賃金で働いたとしても、母国で働くよりも何倍も高い収入を得られるのだから、英国の最低賃金であったとしても、喜んで働くわけである。

そのため、英国の製造業では、幹部社員はともかくとして、製造現場で働くワーカークラスの賃金は上昇の圧力が働きにくい構造になっているのである。

仮に、労働市場に英国人しかおらず、英国人の労働者を雇用しなければ自動車の生産ができないという条件制約があれば、経済学の基本である「需要」と「供給」のリバランスが働き、賃金が上昇する方向に動くはずであろう。

さらに、EU内では人だけでなく、物の移動の自由もあるので、自動車を組み立てるにあたっては、英国内の部品を使わずに、南欧や東欧のようなコストの安い国から部品調達をする動きも広がっている。

そうなると、完成車メーカーは利益率が上がって儲かるが、英国内の下請け工場は仕事を失わないために身を削って価格を下げるか、それが無理ならば廃業するしかなくなってしまう。

以上は、自動車産業から見た英国労働市場の一例であるが、このように、グローバリズムは経済的強者にはメリットとなるが、弱者には厳しい結果となる側面があるのだ。

したがって、グローバリズムによって恩恵を受ける側の富裕層がEU離脱に反対したのも当然のことであろう。

なお、EUを離脱し、移民を制限した後、EU離脱を支持した労働者階級がハッピーになれるかどうかは別問題である。

英国の自動車産業は英国の内需よりも、他のEU諸国への輸出によって成り立っている部分が大きいので、労務費の上昇や関税の復活により、英国で生産された自動車の競争力が失われた場合、英国の自動車産業そのものが立ち行かなくなってしまうリスクがある。

したがって、EUから離脱することで生じる上記のようなデメリットを乗り越え、産業の維持発展と労働者の生活向上を両立させていくかが、今後の英国の重要な課題となっていくであろう

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最終更新:6/27(月) 5:17

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