ここから本文です

ついに発射成功か 北朝鮮の中距離弾道ミサイル「ムスダン」、その実力とは

HARBOR BUSINESS Online 6/28(火) 9:10配信

 北朝鮮は6月22日、同国東岸の元山付近から、中距離弾道ミサイル「ムスダン」(米国によるコードネーム。北朝鮮発表によれば「火星10号」だという)とみられるミサイル2発を、北東方向に相次いで発射した。

 この発射は米軍、韓国軍、そして自衛隊が探知し、5時56分(日本時間、以下同)に発射された1発目は、約150kmほどの距離を飛行し、日本海上に落下。飛行距離が短かったことから、失敗だったとみられている。

 しかし、続く8時3分に発射された2発目は、高度1000kmを超える高さにまで上昇し、約400kmほどの距離を飛行した後、日本海上に落下した。この結果を受け、防衛省は同日「中距離弾道ミサイルとしての一定の機能が示されたことは、我が国の安全保障に対する深刻な懸念であると考える」と発表。成功とまではいわないまでも、それに近い結果であったことを示している。

 そして翌23日には、北朝鮮の朝鮮中央通信が「戦略弾道ミサイル『火星10』の発射実験に成功した」と発表し、発射台を兼ねたトラックから発射されるムスダンと、それを満面の笑みで視察する金正恩氏の写真が公表された(火星10はムスダンの北朝鮮における正式名称)。

 今回の発射試験による日米韓などへの政治的な影響や、ミサイル防衛システムによる迎撃の可否については、すでにさまざまなところで論じられているため、本稿ではムスダンそのものの技術や性能について分析したい。

◆2発目は「ロフテッド・トラジェクトリー」で発射された

 この日発射された2発のうち、1発目は完全な失敗と考えられているが、2発目に関しては北朝鮮のみならず、防衛省や米国のシンクタンクなどでも、成功とまでは言わないまでもそれなりの成果があったものと評価されている。

 中距離弾道ミサイルというと、その飛行距離は2500~3000kmを超えるため、たった400kmで落下したということは失敗したようにも思える。しかし、日米の専門家が一定の評価をしている理由は、この2発目が高度1000kmを超える高さにまで到達したことにある。

 ムスダンの最大射程は4000kmほどと考えられている。つまり普通に発射すると、日本の上空をゆうに超え、太平洋のグアムにまで到達できる。北朝鮮にとっては、このミサイルを最大能力で発射して性能を確かめる必要があり、またその威力を他国に知らしめたいとの考えもあるだろう。しかし、実戦ならまだしも、試験の段階で日本を飛び越えたり、米国の地に実際に着弾させることはもっての他である。

 そこで、わざと高い角度で打ち上げることで、高度と引き換えに飛行距離を短く抑えたのでは、と見られているのである。このような飛行経路のことを「ロフテッド・トラジェクトリー」という。ちょうどボールを投げるのと同じで、遠くへ飛ばしたいなら斜め30~45度ほどで全力で飛ばすが、同じように全力で、しかし真上に向けて飛ばすと、ボールは高く上がる一方で飛距離は出ない。

 今回のムスダンも、全力で飛ばしつつも飛距離を出さないことを目的に飛ばしたのであれば、高度1000km超(北朝鮮の発表では1413.6km)、飛行距離400kmというのは妥当な数字であり、北朝鮮が成功と発表し、日米の専門家が一定の評価と懸念を示したのもうなづける。

◆ソ連の潜水艦発射式弾道ミサイルを改造した「ムスダン」

 ムスダンは北朝鮮が開発した中距離弾道ミサイルで、ソヴィエト連邦で開発された「R-27」という潜水艦発射型の弾道ミサイルが原型になっているといわれる。

 R-27は1960年代の末、当時のロケット技術の粋を集めて開発されたミサイルで、たとえばエンジンは高い性能が出せる複雑な仕組みを採用する一方、弾道ミサイルとしていつでも撃てるように、メンテナンス・フリーを実現している。さらに、潜水艦に搭載するために全長を短く抑える必要があったことから、ロケット・エンジンを燃料タンクに沈み込ませるという、きわめて複雑な構造も採用している。

 ソ連では1988年までにすべて退役しているが、その後1990年代に、ソ連崩壊の混乱に乗じて、北朝鮮がR-27の技術を手に入れたといわれている。ただ、たとえば実機を手に入れたのか、エンジンなどの部品のみ手に入れたのか、開発や生産に関わったロシアの技術者からどのような指導があったのかなど、その程度についてははっきりしない。

 その後、2006年以降の軍事パレードなどで披露されることはあったが、実際に発射されることはなかった(イランへ持ち込まれ試射されたという話はある)。しかし、今年4月15日になり、北朝鮮で初の発射試験が実施された。だが発射から数秒後に爆発して失敗に終わったとされる。4月28日にも再度発射を試み、計2発が発射されたものの、やはり失敗。さらに5月31日にも1発が発射されるも、これも失敗に終わったことが確認されている。今回も1発目の失敗を経て、通算6発目にしてようやく一応の成功を見たことになる。

 1990年代に技術を手に入れ、約20年経った2016年になってようやく1発が成功したというのは、R-27の技術がそれだけ複雑で、北朝鮮が自らのものとするのに相当手を焼いたということである。ただ逆に言えば、R-27の技術にそれだけの手間と時間をかけるだけの価値があると、北朝鮮が認識しているということでもあろう。

 6月23日に朝鮮中央通信や労働新聞が公表したムスダンの写真を見ると、ムスダンはR-27と瓜二つである。エンジン部分の構造や、エンジンから出る炎の色などもR-27と同じで、手が加えられた形跡は見当たらない。つまり北朝鮮は、R-27の複雑なエンジン技術を、そっくりそのまま手に入れたということを示唆している。

 一方、R-27とは異なる点もある。たとえばムスダンはR-27より約2mほど全長が伸びていることがわかっている。これは過去の軍事パレードでお披露目された際にすでにわかっていたことで、推進剤の搭載量を増やし、飛行距離を伸ばすための改良と見られている。

 今回の発射成功時の写真で初めて判明したのは、機体の後部に8枚のグリッド(格子状)フィンが装備されていることである。このようなフィンはオリジナルのR-27には無く、そればかりか過去の軍事パレードに登場したムスダンにも無かった。理由は不明だが、おそらく全長を伸ばしたことや、北朝鮮製の弾頭や部品を装着したことでR-27とは特性が変わり、そのままでは機体が安定しなくなったため、その対策として装備する必要が生じたのではと考えられる。

 もう少し憶測を進めれば、もともとは軍事パレードに登場した機体のようにフィンは付けていなかったものの、今年4月から5月にかけて行われた発射試験での相次ぐ失敗を受け、問題点を認識し、その結果装着するようになったとも考えられる。

◆再突入試験は成功したのか?

 今回のムスダンの(一応の)成功でもう一つ注目すべきは、爆薬や核兵器、化学兵器などが搭載される、ミサイルの弾頭部分の再突入試験を行ったらしいという点だろう。

 これまで、北朝鮮の弾道ミサイル技術が未熟だと見なされていた理由の一つに、再突入技術が無い、あるいは実証されていない、ということがあった。再突入とは、いったん宇宙空間にまで上昇したミサイルの弾頭が大気圏に再度突入することを指す。このとき、大気による空力加熱によって高温にさらされるため、弾頭はその熱に耐えられるような仕組みをもっていなければならない。この技術がなければ、核兵器も化学兵器も熱で使い物にならなくなるか、あるいは正常に動作できなくなる。

 再突入技術を完全に習得するには、地上で試験を行うのは当然ながら、実際に打ち上げて試験する他なく、北朝鮮はこれまで、そうした試験を行った形跡がなかった。

 ただ、今年3月には弾頭(再突入体)をロケット・エンジンの炎で炙ることで、大気圏再突入を模した試験を行ったことが発表されている。そして今回発射されたムスダンの先端には、この試験で使われたものと同じ形の弾頭が装備されていることが写真で確認でき、さらに23日付けの朝鮮中央通信では、「再突入での弾頭部の耐熱特性と飛行安全性が検証された」と報じられていることからも、今回の発射試験で弾頭の再突入の試験も行われた可能性が高い。

 さらに、今回のムスダンは北朝鮮の海岸線に沿うように、北東へ向けて飛んでいる。あらかじめ船などを出して待機しておけば、回収も不可能ではない。あるいは、弾頭内に搭載された温度や加速度センサーのデータを電波で飛ばし、それを地上や船で受信する形で試験した可能性もあろう

 今回の飛行で実際に再突入試験が行われたのか、そしてそれが成功したのかどうかを、第三者が確かめることは難しいが、少なくとも今後、「北朝鮮に再突入技術が無い」とは言いづらくなったのは事実であろう。

◆北朝鮮は曲がりなりにもミサイル技術を蓄えつつある

 ムスダンは今回の発射こそ一応の成功を見せたが、これまで6発中5発が失敗していることから、兵器として完成したとは言いがたい。また、成功した6発目と失敗した5発目は同じ22日に行われており、それ以前の4発の発射も、今年4月から5月にかけてのきわめて短期間に連続して行われ、そして失敗している。この失敗の原因が、機体の設計そのものにあったのか、それとも部品の品質にあるのかといったことは不明だが、どちらにせよこの短時間では、失敗のたびに十分な原因究明が行われたとは考えにくく、技術開発の進め方としては邪道と言わざるをえない。

 しかし、今回の一応の発射成功によって、ムスダンが曲がりなりにも飛べること、そして中距離弾道ミサイルとして一定の性能をもっていることは実証された。今後も試験を重ねる中で成功率が上がれば、日米にとって大きな脅威となろう。

 とくにR-27の技術は、現在北朝鮮がすでに保有している「ノドン」や「テポドン」といったミサイルと比べると数段上であり、この技術をものにし、さらに発展させれば、ミサイルの性能や能力を大きく向上させることができる。

 北朝鮮はすでに、「銀河3号」というロケットを使い、人工衛星の打ち上げに2度成功している。周知のとおり、このロケットは大陸間弾道ミサイルとしても使用可能で、日米などは「テポドン2」、もしくは「テポドン2改」と呼んでいる。しかし、テポドン2は打ち上げまでの準備に時間がかかる上に、発射台も固定式で外に露出しているため、打ち上げまでの準備状況が偵察衛星から丸見えであり、ミサイルとしての利用価値はほとんどない。またエンジンの性能なども低いため、図体も大きい。

 しかし、北朝鮮はすでに、新型の大陸間弾道ミサイルを、少なくとも2種類開発していることが知られている。これらのミサイルは暫定的に「KN-08」と「KN-14」と呼ばれており、ムスダンと同じく移動式発射台からの発射が可能で、また機体も小型であるため、発射の兆候が掴みづらい(もっとも日米韓は、今回のムスダンの発射をすでに前日のうちに察知していた)。

 そして、このKN-08やKN-14のエンジンは、ムスダン(R-27)のエンジンを2基束ねていると推測されている。実際、今年4月に北朝鮮は「大陸間弾道ミサイル用のハイパワーな新型エンジン」と称するエンジンの試験を行っているが、その映像と今回のムスダンの写真とを比べると、それが正しい可能性が高い。

 KN-08やKN-14はまだ一度も発射されたことはないが、本当にエンジンが共通しているのであれば、今回のムスダンの成功によって、KN-08とKN-14の最初の発射とミサイルの完成も近付きつつあるということを意味している。

 今回の発射試験によって、ムスダンがおそらくは中距離弾道ミサイルとして十分な飛行距離をもっていることがほぼ実証されたことで、米国にとってはグアムへの攻撃が現実のものになりつつある。そしてムスダンの技術が新型の大陸間弾道ミサイルへつながれば、米国の本土への攻撃という可能性も現実味を帯びてくる。また、再突入試験に成功していれば、すでにノドンの射程に入っている日本にとっても大きな脅威となる上に、ロフテッド・トラジェクトリーによって、ムスダンによる日本への攻撃の可能性もありうるということになる。

 北朝鮮にはまだ核兵器の小型化などの課題もあるが、いずれにせよ今回のムスダンの一応の成功は、ここ数年における北朝鮮のミサイル関連の出来事としてはとくに重大なことであり、大きな脅威として受け止めるべきであろう。

<文/鳥嶋真也 画像/경애하는 김정은동지께서 지상대지상중장거리전략탄도로케트 《화성-10》시험발사를 현지에서 지도하시였다(YouTube)>

とりしま・しんや●宇宙作家クラブ会員。国内外の宇宙開発に関するニュースや論考などを書いている。

Webサイト: http://kosmograd.info/

【参考】

・防衛省・自衛隊:北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(http://www.mod.go.jp/j/press/news/2016/06/22c.html)

・防衛省・自衛隊:北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(http://www.mod.go.jp/j/press/news/2016/06/22d.html)

・A Partial Success for the Musudan | 38 North: Informed Analysis of North Korea(http://38north.org/2016/06/jschilling062316/)

・North Korean HS-10 missile(http://www.b14643.de/Spacerockets/Diverse/Musudan/index.htm)

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:6/28(火) 10:24

HARBOR BUSINESS Online