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武道館が31棟建つ巨額ムダ事業――公立中学を舞台にした文科省のハコモノ行政の闇

HARBOR BUSINESS Online 7/1(金) 9:10配信

◆武道場整備費に加えて教材費などが必要、総額は2500億円にも 

「連載第3回」までをお読みいただいた方には、中学校武道必修化の実態は、最大限で考えると「建設費4500万円の武道場を全国に5300か所新設する」大規模なハコモノ行政であることがご理解いただけたものと思います。つまり武道場整備100%達成時の整備費総額は、「4500万円×5300か所=2385億円」ということになります。

 しかし、武道必修化には武道場整備費以外にも多額の経費が必要であり、それらを全て合算すると、新国立競技場建設費旧案の2520億円並みになるのです。

 具体的に説明しましょう。武道の授業の実施には、柔道衣、剣道防具、柔道畳などの用具も必要です。この内、柔道衣は3000円前後と比較的安価なので、生徒の個人負担がほとんどのようです(学校が用意するケースもある)。剣道防具は一式5万円、柔道畳は1枚3万円前後と高額なため学校の費用で賄われます。これらの費用は文部科学省の管轄する武道場整備費には含まれず、総務省の手当てする地方交付税の中から教材費として措置されます。

 地方交付税は、何に使うのかは地方の裁量に任されており、用途を限定しない渡し切り金です。そのため文科省は地方が教材として何をいくら購入したのかについては把握していません。

 では、教材費として措置される武道用具の購入金額は全く分からないのでしょうか? そんなことはありません。おおよその見当はつきます。

◆剣道防具と柔道畳の費用総額を解明

 剣道防具は、40人学級として40式購入したら、「5万円×40式=200万円」となります。これを仮に全国で2000校が購入するとすると、これだけで40億円です。

 金額が大きいのは柔道畳です。柔道畳を各校が何枚用意すべきかは文科省から通達されておらず、一律ではありませんが、畳を柔道場に適した正方形にパズルの様に敷き詰めるには、自ずから枚数は決まります。狭い順に「50畳→72畳→98畳→128畳→162畳」の順です。この中では128畳(八間四方の正規の試合場1面分)を敷くというのが過不足ない理想的な広さと思われます。1組2名の稽古に十分な広さは6畳と言われており、40人学級(20組)の生徒が同時に安全に稽古するためには、「20組×6畳=120畳」が必要であり、それに照らし合わせると128畳が理想のスペースと言えます。128畳は212㎡ですので、「連載第2回」に書いた柔道場設置の上限面積250㎡は、この128畳の畳(212㎡)を敷くのに十分な面積として設定されたものと推測されます。

 そうすると、標準的な畳の設置には「畳1枚3万円×128枚+付帯用具=400万円」というのが1つの柔道場当たりに必要な費用となります。柔道畳というのは半永久的に使えるものであると誤解している人がいますが、耐用年数10年前後の消耗品ですので、結構頻繁に入れ替えが必要です。仮に4000校が柔道畳一式を購入したら、「400万円×4000校=160億円」です。

 中学校武道必修化には、この他にも授業や指導者の質を向上させるための実践研究や研修などを行う武道等教育推進事業費なども発生します。ですので、「武道場整備費+教材費+その他費用」の合計は最大限で考えると新国立競技場旧案2520億円並みの巨額費用になるのです。

◆国立代々木競技場なら20棟、日本武道館なら31棟建つ巨額費用

 2500億円といえば、例えば前回1964年の東京五輪の最大のレガシーである国立代々木競技場なら20棟(当時31億円、建設工事費デフレーターによる現在の時価換算では約124億円)、日本武道館なら31棟(当時20億円、現在の時価換算では約80億円)が建つ計算となります。このような巨費を使って全国の中学校に武道場を作ることに合理的な理由はあるのでしょうか。

 長年、武道界の悲願であった日本武道館は、正力松太郎の尽力などにより、国費に加えて民間の寄付を集めて、さらには昭和天皇の恩賜を受けて、当時の武道関係者が血の汗を流して建設したものです。その努力と比べて、中学校の武道場建設の理由は安直すぎないでしょうか。

◆授業だから文科省が負担せよは安直、工夫して既存施設の有効活用を

 武道関係者の多くは「学校に授業用の実験室や工作室、調理室があるように、武道の授業がある以上、武道場を建てるのは当たり前。これは武道界の問題ではなく、文科省の責任」と思っているのかもしれませんが、武道場は校舎内の教室に設置するわけにはいきませんので、別の広い場所に建てなければならず、費用の桁が違います。

 今世紀は学校体育から社会体育へと体育教育の場は広がりつつあります。社会体育では費用を掛けずに既存の公共施設を有効活用することが当たり前と考えられているのに、何で学校体育においてはこのような巨額費用を武道場整備のために注ぎ込まなければならないのでしょうか。

 体育館に畳を敷くのは確かに面倒で時間の無駄という考えもあるでしょう。でもそれは工夫できます。例えば武道の授業は午後の時間帯に集中的に編成して、昼休み終了10分前から有志を集めて一気に畳を敷いて、放課後の部活動の前に全員で一気に外すとか何らかの方策が考えられます。授業を午前集中編成として朝始業前に畳を敷いて、昼休みに外すのでも良いでしょう。このような共同作業にも教育的な意義があるのではないでしょうか。

◆必修開始前も武道選択85%、男子の履修状況には大きな変化はない

 武道授業は必修化が決まってから急に行われるようになったと勘違いしている人が多いですが、必修化開始以前にも選択科目として約85%の中学校で行われていました(全国455校のサンプル調査による=北村尚浩ほか,鹿屋体育大学,2010年3月)。選択科目時代は体育館で畳の上げ下げをして授業を行っていたのに、必修科目になったら急に「武道場を作れ!」と騒ぎ出すのは変ではありませんか?

 2011年度までの学習指導要領の旧課程では、中学1年生は武道かダンスを選択し、2・3年生は武道、ダンス、球技の3つの中から2選択でした。そこで実際にどういう選択が行われていたのかは、探した限りでは明確な統計資料は残されていないようですが、1年生は男子は武道、女子はダンスを選択し、2・3年生は男子は武道と球技、女子はダンスと球技を選ぶという男女別学が典型的なモデルケースであったという話を教育関係者に聞いたことがあります。もしそうであったとするなら、2012年度の武道必修化以降、女子の武道履修者は格段に人数を増やしていることになりますが、男子の武道履修者の人数はそれほど大幅には増えていないことになります。

◆武道必修化が決まっても同じ土俵に乗っただけ、特別待遇されるのは間違い

 そもそも、中学1・2年生で武道が必修化された(3年生は武道と球技から選択)といっても、今までの「陸上、水泳、器械運動、球技」の4つの必修単元に、選択科目であった「武道とダンス」を必修に格上げさせて、6つの必修単元として横並びにしただけです。これは文科省が保健体育科の授業では発達段階に応じた指導を行うという方針のもと、中学1・2年生を「多くの領域の学習を経験する時期」と定めたことによるものです。ですから武道は陸上や水泳などと共に「必修の同じ土俵に乗っただけ」であり、本来は何ら特権的な地位を与えられたものではないのです。

 にもかかわらず、武道界には武道必修化によって「中学校への武道場の整備促進」や「中学校教員への大学武道学科学生の新卒採用」などの特別待遇が当然取り計らわれるべきものと思い込んでいる関係者が非常に多いのです。

 次回は武道必修化の教育の費用対効果がいかに悪いかについて検証します

<取材・文/磯部晃人(フジテレビ) 写真/Tony Tseng>

【中学校武道必修化の是非を問う 連載第4回】

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:7/1(金) 15:57

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