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利根川は本当に「渇水」しているのか?

HARBOR BUSINESS Online 7/1(金) 9:10配信

 国土交通省と1都5県(千葉、茨城、栃木、群馬、埼玉)は6月16日、利根川水系ダムからの10%の取水制限を始めたと発表した。そして、貯水率が11%となって水位の下がった矢木沢ダム(群馬県)を公開し、テレビや新聞は一斉に「利根川渇水」を報道している。

⇒【画像】利根川水系ダム貯水量の水位

◆国交省による「水収支」の計算が間違っている!?

 しかし、そんな報道を横目に「(渇水報道は)ダムの必要性をアピールするためのもの」と見ているのが、高度成長期に東京都職員として工場の節水対策に成果を上げ、退職後も住民訴訟で「八ッ場ダムは不要だ」と証言を行ってきた嶋津暉之氏だ。

「利根川水系ダムは国土交通省が決めたルールで放流が行われていますが、そのルールそのものが過剰な放流を促しています」(嶋津氏)

 上流で雨雪を集めて形づくられた川は、農業用水や都市用水のための取水と、支流からの流入を繰り返して、最終的には海へと流れ出る。利根川水系では、国交省がその「水収支」を計算し、上流の8ダムからの放流量を決める。例えば、4~9月は中流の栗橋地点(埼玉県)で毎秒120トンが流れるようにする。この120トンは、鬼怒川など支流からの流入量も計算に入れ、最下流の利根川河口堰(千葉県)で毎秒30トンが流れるように、逆算で定めたものだ。

 しかし、嶋津氏が利根川水系の8ダムの貯水量が急減した5月の河口堰放流量を調べてみると、毎秒平均80トン程度が海へ流れ出ていたという。

「50トンも余分に流れているのは、つまり逆算が間違っているということ。これは鬼怒川など支川からの流入量を過小評価し、農業用水や都市用水の取水量が過大評価されているためだと思われます」(嶋津氏)

◆ダム放流が5月半ばから増えたのは「農業用水のため」?

 これに対し、国交省関東地方整備局河川環境課の斎藤充則・建設専門官は「そんなことはありません」と反論する。

「ただ単に、河口から30トンが流れ出ればいいというわけではありません。ダムから下流までまんべんなく行き渡らせようとして、結果的に80トンになっているということです。その過程が要らないというわけではない。今年は冬期の雪が少なかったので一生懸命ダムの水を貯めて、4月20日に上流の5ダムを満水にしました。ダムの放流量が5月半ばから増えたのは農業用水のためなんです。毎日、(農水省)関東農政局と連絡し合って、農業用水の一つひとつの堰の開け閉めを決めています」

 しかし、関東農政局の農村振興課水理計画官に聞くと「水を多く使う田んぼの『代掻き』が利根川水系の地域で始まるのは、早ければ千葉県で4月中旬。一番多いのが、4月末から始まるゴールデンウィーク。遅ければ麦との二毛作をする群馬県で7月」だという。

 ということは、5月半ばからの急減が「農業用水のため」という国交省の説明は、必ずしも当てはまらないのではないか? さらに「7月からの洪水調節期に備えてダムの水位を下げ始めるのは、通常6月後半から」(嶋津氏)なのだという。

◆利根川が渇水でも東京都にはバックアップのダムがある

 必要以上の「過剰放流」が疑われる背景には別の理由もある。東京都が公開している利根川水系と多摩川水系の年間平均貯水量を比較してみると、利根川水系では貯水率が38%(6月28日現在、平年比で55%)だが、多摩川では80%(6月17日現在、平年比で103%)を維持し、多摩川水系の貯水量にはなんの心配もない。

 実は「利根川は渇水、多摩川はたっぷり」という傾向はいつものこと。東京都は多摩川に確保した小河内(おごうち)ダムの水を温存し、先に利根川の水を使っているのだ。

 そのことは「小河内ダムも貯める一辺倒ではなく、使うときは使っているが、基本的には先に利根川水系の水を使う」と、東京都水道局も認めている。その「使うとき」とは、利根川水系の渇水や水質事故が生じた時だけのことで、いわば、利根川水系8ダムのバックアップとなる存在が小河内ダムなのだ。

 その利水容量は、たった一つで洪水期(梅雨や台風の時期など降水量が多く治水容量が増える時期)でも1億7987万立方メートあり、東京都の独占水源となっている。

 一方、利根川水系8ダムの利水容量は全部足しても3億4349万立方メートル(洪水期)で、これを1都5県で分け合う。だから「利根川水系渇水対策連絡協議会」が設置され東京都もメンバーに名を連ねてはいるが、実は小河内ダムがある東京都だけは「渇水」などどこ吹く風だというのが実情だ。

 そんな中、さらなる利水容量を確保するために4600億円の税金を使って本体工事にかかっている八ッ場ダム(群馬県)の利水容量は、わずか2500万立方メートル(洪水期)。また、水資源機構が1800億円で栃木県に計画中の南摩ダム(現在ダム検証中)の利水容量も4500万立方メートル(洪水期)にすぎない。二つを足しても小河内ダム一つの4割にも満たない。小河内ダムを東京都がより有効活用すれば、いかようにも融通が可能だといえる。

「渇水」がアピールされる一方で、川の水が海に余分に流されている。そして、税金もムダに流されているのだ。

<取材・文/まさのあつこ>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:7/1(金) 9:10

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