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最後から二番目の補遺――オマケが楽しい文庫巻末情報

本の話WEB 7/3(日) 12:00配信

【問】以下の小説に共通するものは何でしょう?

 モンゴメリの『赤毛のアン』
 コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ
 ロバート・B・パーカーの私立探偵スペンサー
 池波正太郎の『鬼平犯科帳』

 正解は「作中に登場する料理のレシピ本が出ている」こと。別に料理小説ってわけでもないのに、料理の描写が妙に細かかったりやたらと美味しそうだったりって作品、あるよね。話は忘れちゃっても、出てきた料理だけはやけにはっきり覚えてたりとか。

 そういった料理の詳しい紹介やレシピが一冊にまとまってるわけで、これは実に楽しい。『赤毛のアン』のレシピ本は何冊も出てるが、おすすめは『赤毛のアン レシピ・ノート』(東洋書林)。鵞鳥料理は羽を毟るところから始まるぜワイルドだろぉ? 『シャーロック・ホームズ家の料理読本』(朝日文庫)はホームズの下宿の料理人・ハドソン夫人が綴ったという楽しい趣向で、パスティーシュ小説の趣も。

 池波正太郎に至っては、登場する料理は美味しそうなのに作中にレシピらしいレシピは殆ど書かれていないため、プロの料理人が工夫して再現した『鬼平舌つづみ』(文春文庫)や季節ごとの登場料理を解説した佐藤隆介編『池波正太郎・鬼平料理帳』(文春文庫)が参考になる。他に藤枝梅安シリーズからは『梅安料理ごよみ』(講談社文庫)、剣客商売シリーズからは『剣客商売 庖丁ごよみ』(新潮文庫)と、あるわあるわ。

 まだあるぞ、「検屍官」シリーズ(講談社文庫)の『パトリシア・コーンウェルの食卓』(講談社)、村上春樹作品に出てくる料理をまとめた『厳選 村上レシピ』(青春文庫)、ポワロも食べたキドニーパイが載ってる『アガサ・クリスティーの晩餐会』(早川書房)、開拓時代の食文化がわかる『大草原の小さな家の料理の本』(文化出版局)とか……え? 時代小説のコラムなのに大事なレシピ本を忘れてるって?

レシピ本だけじゃない、文庫巻末レシピ集

 安心してください、忘れてませんよ! 時代小説に料理ブームを巻き起こした高田郁「みをつくし料理帖」シリーズ(ハルキ文庫)から生まれた『みをつくし献立帖』(同)だよね。ただ、前述した作品群がどれも「小説の本筋に関係ないのに料理が印象的」だったのに対し、こちらはもう最初っから料理が売りなので、レシピ本が出るのも自然な流れだ。

「みをつくし料理帖」シリーズを前述のグループに加えなかった理由はもうひとつあって、これはレシピ本が出る前に、文庫の各巻末にレシピが掲載されていたというところにご注目いただきたい。その巻に出てくる料理を、一冊読み終わったところにまとめてくれている。はい、今回のコラムの主眼はここですよ。

 これは実は「みをつくし料理帖」オリジナルではなく、翻訳ミステリの世界では極めてよくある方式なのだ。バージニア・リッチ『料理上手は殺しの名人』(講談社,1988)が日本初上陸のレシピ付きミステリ。その後、ケータラーが主人公のダイアン・デヴィッドソン「クッキング・ママ」シリーズ(集英社文庫,1994~)で一気に広まったこの方式は、今やコージーミステリ(残虐な場面のない気軽に読めるミステリ。近年では食品関係の仕事を持つヒロインのシリーズが多い)のお家芸だ。レシピの載ってないシリーズを探すのが難しいくらい。

 日本でこれを取り入れたのが坂木司「ひきこもり探偵」シリーズ(創元推理文庫、最終巻のみ)で、文庫書き下ろし時代小説で最初にやったのが「みをつくし料理帖」ということになる。ただ、これは「私が思い出した範囲では」という条件つきなので、もしかしたら過去に単発で載せた作品があるかもしれない。ご存知の方はお知らせください。

 こういった巻末レシピは、ちょっとしたオマケというか付録がついているようなものでお得気分も味わえるし、作中の情報がより具体的になって本編の解説としても意味がある。時代小説のシリーズで「みをつくし~」以外に広まらないのが不思議なくらいなんだが、ここで料理じゃない意外なもので巻末情報をつけたシリーズが出てきたから面白い。

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最終更新:7/3(日) 12:00

本の話WEB

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