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タイの国鉄が日本の鉄道好きには胸熱な理由

HARBOR BUSINESS Online 7/3(日) 9:10配信

 日本でいうところの東京駅に当たるタイのバンコク駅、通称ホアランポーン駅が今年6月25日に今の場所に移転してちょうど100年になった。

 ホアランポーン駅は、タイ国有鉄道(SRT)の駅だが、このSRTはタイにおいては驚くほど人気がない。日本では鉄道ファンがいて、乗るだけでなく、写真を撮ったり、駅舎を好む人など細分化されているほどだが、タイにはそんなマニアはほとんど存在しないのだ。

 この人気の無さにはちょっとした背景もある。

 そもそも、SRTは周辺諸国が欧米列強国の支配下に置かれ、突きつけられるシビアな条件を飲んだり飲まなかったりといった駆け引きの中で敷設調査が進められ、路線が決定されたのだ。そんな駆け引きの中で敷設された線路は、今でも創業当時からほとんど変わらない。北本線、東北本線、東本線、南本線を中心とし、ごくわずかに支線がいくつかある程度で、日本のように路線網が発達していないのである。しかも、このご時世に至ってもなお90%以上が単線のため遅延は当たり前で、終着駅に5時間遅れは驚きに値しない。これはすなわち「不便」でしかないということになる。そのため、SRTは戦前こそは大量高速輸送の手段であったものの、道路と自動車の発達で完全に不人気になってしまったわけだ。

◆日本人鉄道ファンを魅了するタイ国鉄

 しかし、常に財政難に喘ぐSRTは逆に外国人、特に日本人には人気がある。例えば日本人の鉄道ファンからすると「まるで古き良き時代の日本国鉄の雰囲気がそのまま残っている」のだそうだ。

 旧態依然とした運行システムで走るので、日本人からは「まるで昭和30年代」とさえ言われ、ホアランポーン駅は往年の上野駅を彷彿とさせるものがあるという。

 日本人鉄道ファンがSRTに魅了されるほかの理由に、かつての日本の車両が現役で走っていることも挙げられる。戦前はドイツの機関車がよく使われていたようだが、戦後、タイ米を地方からバンコクへと大量に輸送するため、連合国側に接収した日本の機関車がタイへと譲渡された。このときに輸送された米の多くが敗戦後の日本の食糧難に充てられたという。その後、日本の機関車を気に入ったタイはタイ米と引き換えに日本の蒸気機関車を1948年と50年にそれぞれ50両ずつ注文したという。

 この戦前戦後にタイで活躍した蒸気機関車のC56やパシフィック型などが、今もしっかりと整備され、何両かは走行可能な状態にあり、 毎年、国王陛下や女王陛下の誕生日、3月26日のタイ鉄道の日など年4回、ホアランポーン駅から特別列車としてアユタヤなどを往復するのだ。

◆あのブルートレインも現役で夜行列車として稼働中

 歴史ある蒸気機関車もさることながら、タイで活躍する日本の車両で、日本人鉄道ファンが最も喜び、誇りに思っているのがブルートレインかもしれない。JR西日本から譲渡された車両がバンコク-チェンマイ間を往復それぞれ1本ずつ夜行で走っている。

 ブルートレインの料金は、上段ベッドで791バーツ(約2470円)、下が881バーツ(約2750円)。さらに個室もあって、かなり広いベッドで1953バーツ(約6100円)となる。

 タイは格安航空会社が発達しているので、特に人気路線のチェンマイは便数が多い。飛行時間もたった1時間程度。最もメジャーな「エアアジア」だと安いときで587バーツ(約1830円)となる。バンコク-チェンマイの北本線はSRTで最も複線化が進んでおり、比較的遅延が少ない。それでも時刻通りで所要13時間、実際には14~15時間程度にもなってしまう。

 高い上に時間もかかるとなると、SRTにはいいところはなにもないように見えるが、そういったことは承知で日本のノスタルジーをタイの車窓で楽しむのがオツなのだと、日本人タイ鉄道ファンは言う。

 また、北部往復の寝台車以外ではVIP車両としても利用されている車両もある。

 車内を改装して会議をしながら移動できるようにしたり、VIPそのものといった高級な内装にした車両もある。近年はタイも自転車がブームで、サイクリストたちが集団で移動する際に自転車と一緒に乗れるようにした車両もある。これもブルートレインを改造している。これら特別車両は貸し切り専用のため、タイムテーブルには運行状況は記載されていない。

◆鉄道ファンから唯一漏れる不満

 外国人鉄道ファンからはいろいろな意味で注目されるSRTだが、ひとつだけ難があると多くの鉄道ファンが口を揃える。というのは、SRTは鉄道管区内において一切の飲酒を禁じている。違反すると懲役6ヶ月以下か、1万バーツ(約31250円)以下の罰金、もしくはその両方が科せられる。ビールを飲みながら、タイの焼き鳥などをつまみに旅が楽しめないと鉄道ファンたちは残念がっているようだ。

 なぜこの条例に不満の声が出るのか。それはこの法が施行された事情にある。2014年7月に南本線で13歳の少女が車内で強姦され、投げ捨てられて殺害されるという痛ましい事件があったからだ。犯人は酒に酔っていたとされ、それによりこの法ができた。こんな事情であれば多少納得はいくが、その犯人はなんと酒と覚醒剤で酔っ払ったSRTの職員だった。かねてからタイの列車には必ず鉄道警察官が同乗し、運行中は乗客の安全や車内の治安を守っている。それにも関わらず発生したのはあくまで身内の問題で、なんで乗客が損をしなければならないのかとファンたちは怒っているのだ。

 しかし、酒は飲めなくともタイの鉄道の魅力、ブルートレインに乗る楽しみについては変わりはない。チェンマイの夜行は夕方に始発駅を出て、翌日朝に到着する。移動費は高くても、ホテルで寝ることを考えれば案外損はない。実際、チェンマイ在住の日本人ビジネスマンはバンコクで会議がある際はブルートレインの個室で寝るまで仕事をし、広いベッドで快適に寝て、朝は駅からそのまま会議場に行くのだそうだ。発想を変えれば、時間の節約にもなるのがタイを走るブルートレインの正しい使い方でもあるようだ。

<取材・文・撮影/高田胤臣(Twitter ID:@NaturalNENEAM)>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:7/3(日) 9:10

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