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100人の男達が漂着した島、住居跡で発見したこと

JBpress 7/5(火) 6:10配信

 (文:野坂 美帆)

 ロビンソン・クルーソーのモデル、スコットランドの船乗りアレクサンダー・セルカーク。南太平洋の無人島に漂着した彼は、4年4カ月を1人きりで生き延びた。彼が漂着した島はチリにあり、現在ではロビンソン・クルーソー島と名付けられている。

 『漂流の島 江戸時代の鳥島漂流民たちを追う』の著者・高橋大輔氏は、広告代理店の職を辞してセルカーク住居跡の発掘プロジェクトを推し進め、13年かけて遂にそれを発見した。そんな高橋氏が日本のロビンソンに興味を持つのは必然だったのかもしれない。

 伊豆諸島の南端、小笠原諸島の手前に「鳥島」という無人島がある。直径2.7キロメートルほどの火山島で、面積は約4.6平方キロメートル。周囲を断崖絶壁に囲まれた小さな島だ。開拓の手が入ったこともあったが今では昭和に設置された気象観測所の廃墟が残るだけの島である。アホウドリの繁殖地として有名で、島全体が天然記念物(天然保護区域)として指定され、一般人の上陸が禁じられている。そんな島だ。

 鳥島はしかし、「漂流の島」でもある。ここには記録に残るだけで17世紀後半から幕末にかけて累計約100人もの男たちが漂着している。練馬区の10分の1ほどの面積しかない小さな火山島に、繰り返しこれだけの数の漂着民がいる――。しかも記録に残っているということは、何人もの生還者がいるということでもある。航路から外れ、水さえない無人島で、彼らがいかにして生き延び、どのような方法で帰還したのか。そのサバイバルを思えば、著者のような探検家でなくとも心に沸き立つものがある。

 無人島漂流は、児童教育や気象学、海事史、日本史諸分野での研究が進められてきたが、世に広めた貢献者と言われれば文学作家たちだ。鳥島の漂流民を題材に書かれた文学作品に井伏鱒二「ジョン万次郎漂流記」(『さざなみ軍記・ジョン万次郎漂流記』新潮文庫)、吉村昭『漂流』(新潮文庫)、織田作之助「漂流」がある。(余談だが、鳥島での気象観測を題材に新田次郎は「孤島」『火の島』を書いている)

 高橋氏は思った。

 “無人島漂流。そのテーマに真っ向から挑んでいるのは文学だ。ただしどんなに史実に忠実な作品だとしても小説である以上、鳥島や漂流者たちは文学的な存在にとどまったままなのだ。現地に出かけ、事実として検証する試みが行われて初めて、埋もれた史実に現実の空間と時間軸が与えられる ”

 「現場から見つめること。探検して事実を掘り起こすこと。」漂流民が小説の題材として以上の存在意義を示すことができる可能性と、その社会的な価値を信じて、高橋氏は鳥島漂流民の跡を追い始める。

■ 不屈の粘り強さで調査を実施

 漂流民の謎を追うにあたって、氏がこだわったのは住居跡である。彼らの生活を知る手がかりは住居に残されているということを、ロビンソンのモデル・セルカーク住居跡を発見した経験から知っていた。しかも、史料を紐解くに、鳥島には奇妙な洞窟が存在していたことがわかった。鳥島の洞窟では、生活用具を受け継ぎ、木板に書置きを残すなどして、後から来るかもしれない次なる漂流民を支えられるような心配りが代々受け継がれていた。漂流が繰り返されることで、漂着者の歴史が形成されているのだ。

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最終更新:7/6(水) 10:30

JBpress

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