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オーバーランに速度超過。頻発する軽微な鉄道トラブル、その背景は?

HARBOR BUSINESS Online 7/5(火) 9:10配信

 このところ、鉄道絡みのトラブルが相次いでいる。死傷者が出るような事故こそないものの、オーバーランや速度超過のような軽微なトラブルの報道を目にしない日はないといってもいい。

・運転士が「考え事」 200メートルオーバーラン JR八積駅(千葉日報)

・JR西国立駅でオーバーラン 踏切またぎ、乗客降ろせず(朝日新聞)

・運転士、意識低下で速度超過 JR武蔵野線けが人はなし(朝日新聞)

 そんな状況を受けて「鉄道会社は安全意識が希薄」「たるんでいるのではないか」といった批判も目につくようになった。

 果たしてこれらの批判は当たっているのか。ある大手鉄道事業者の関係者は次のように話す。

「確かにタガが緩んでいる部分があるのは事実かもしれません。でも、むしろ最近は過敏になりすぎている気がします。もともと多少のオーバーランや停車駅を誤って通過するようなトラブル・ミスは昔から結構あった。それが最近は逐一メディアに取り上げられ、批判にさらされているというのが正確なところではないでしょうか」

 近年はツイッターなどのSNSの普及に伴い、たまたま駅などでオーバーランなどのトラブルに遭遇した人がその状況をつぶやくとすぐに拡散されてニュースとして取り上げられる傾向があるというのだ。

◆厳しくなるメディア・利用者の目線

「JR北海道の不祥事をはじめ、多くの鉄道事業者で批判されて当然のようなトラブルが相次いだため、メディアや利用者が批判的な目線で見ることが増えたのも事実でしょう。例えば、6月16日にはJR北海道苗穂駅で200メートルほどのオーバーランがあった。運転士が通過駅と勘違いしたのが原因で、200mというのはオーバーランとしてはかなり多いし、問題はあります。しかし、遅れも10分程度で大きな影響が出なかったため、JR北海道は公表しませんでした。このトラブルに対して、日経新聞は『オーバーラン公表せず』という見出しで報じている。明らかに批判的な立場からの報道です」(前出の関係者)

 確かに、事故などに繋がりにくく、比較的頻繁に発生するトラブルまで逐一取り上げて批判していてはキリがないというのも事実だろう。

 しかし、5年ほど前まで運転士を務めていた男性は、また違った原因もあるのではと指摘する。

◆運転士の技量低下を指摘する声も

 増える微細な鉄道トラブルだが、その背景に「運転士をはじめとする関係者の技量が下がっているのも一因では?」と指摘するのは元運転士の男性だ。

「最近は技術が進歩したおかげで、運転士にはあまり技量が求められなくなっている。信号を見落としたり速度超過したら保安装置が働いて自動的に修正をかけてくれます。さらに都市部を走っているような最新型の車両では、混雑率や天候などを計算して力行(アクセル)・ブレーキの強さを勝手に調整してくれるものもある。それでは運転士はただのオペレーターと変わりません。そんな環境で運転をしていたら、『少しのミスで大事故に繋がるかもしれない』という緊張感が薄れるのも当然です。これは運転士にかぎらず、鉄道の現場全体で起きていることだと思います」

 かつては運転士をはじめとする現場の鉄道員たちの技量によって守られていた鉄道の安全が、技術の進歩によってかなり自動化が進んでいる。それがかえって職員たちの安全意識を薄くすることにつながっているというのだ。

「全体的に安全意識が薄れているのは間違いない。少子化、人口減少時代の中で鉄道事業者は経営の軸足を鉄道事業から関連事業へと移しています。もちろん鉄道事業で大事故を起こせば会社の存続に関わる事態にもなりかねないですし、会社の顔でもあるので手を抜くことはないでしょう。でも、優秀な人材は関連事業に優先的に配属されがちなのも事実です」(鉄道専門誌記者)

◆不足する「中核となる人材」

 また、国鉄末期には採用を控えていたこともあり、現場には中核となるべき40代の職員が非常に少ないのも問題とされている。

「鉄道の現場は、運転士も車掌も含めて“師匠から弟子へ”技術を伝えていく独特の風土があります。それが国鉄末期の職員採用ゼロによって途絶えている部分がある。JR北海道の不祥事にもこうした事情が背景にあると言われていますが、それはJR全社に共通する問題です。今、入社数年と思しき若い社員が運転士などを務めている姿をよく目にしますが、彼らに技量を教えるベテランも少ない。つまり、技術の継承が正しくなされていないし、『絶対に事故を起こさない』『軽微なトラブルも起こさない』という鉄道員のプライドも継承されなくなっているのではないでしょうか」(前出の記者)

 いかなる事情があっても利用者が安心して乗ることができる鉄道であることは、公共交通機関であるかぎり最低限の条件だ。職員のアンバランスさや技術面の進歩などの理由はあれど、安全意識が希薄になることはあってはならない。いかなる関連事業も“鉄道の安全・安定”あってこそということを、鉄道事業者各社は再認識すべきだろう。

<取材・文/境正雄>

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:7/5(火) 9:10

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