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長瀬智也と神木隆之介ーー主演ふたりの15年史から紐解く『TOO YOUNG TO DIE!』の魅力

リアルサウンド 7/6(水) 18:35配信

 宮藤官九郎による脚本、監督作『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』が大ヒット中である。稀代のクリエイターとして常に観る者の度肝を抜く設定、キャラクター、ストーリーを紡ぎ続ける彼。今回はその世界観も破格だ。“現世”をはるかに超越し、主演の長瀬智也をして「こんなに振り切れている宮藤さんを見たのは初めて」と言わしめるほどハイテンションなカオス状態が広がる。

 だが描き方の手法はいつもと変わらないのかもしれない。特殊な世界、コミュニティを唐突に観客へと突きつけ、そこからにじみ出る人間模様やしきたりを異色な笑いを交えてみっちりと描きこむ。そうしているうちに観客もまた住人としてのめりこみ、あわよくば「住みたい!」とすら感じてしまう。たとえそこが地獄であったとしても。それが宮藤流。

 しかしここでは宮藤の偉大さをあえて脇に置いておこう。むしろ注目したいのは、「地獄」と言う世界観が、俳優として生きる長瀬や神木隆之介にとって意外と親和性の高いものだったのではないかということだ。

 彼ら俳優というものは、職業として、さだめとして、幾千もの人生を生きぬいては、もう一度、もう一度と転生を繰り返す。無念な主人公の思いを引きずりながら次の役柄へ生まれ変わる時もあれば、これ以上ないハッピーエンドで幕を閉じる時もあるだろう。そんな同じ業界内でぐるぐると転生を繰り返してきたふたりが、閻魔大王の判決に従うかのようにこの人生、この1作にて巡り会う。これも何かの宿命なのだ。そうに決まっている。

■作品に魂をもたらす長瀬という存在

 ご存知のように、長瀬も神木も宮藤作品は初めてではない。長瀬に関してはちょうど『TOO YOUNG TO DIE!』の製作から15年前にあたる2000年、ドラマ史に名を残す『池袋ウエストゲートパーク』にて初のコラボが実現した。ここで長瀬は、過去の『白線流し』などで培われたイメージを払拭し、俳優としての階段を一気に駆け上がる。有象無象が集結するこの街で、“誰からも一目置かれる”という主人公を見事に成立させた彼。それは長瀬が、最大の持ち味となる人間的な迫力、求心力、男くさいまでの情熱を明確なまでに獲得した瞬間だった。

 その後も『タイガー&ドラゴン』や『うぬぼれ刑事』、映画『真夜中の弥次さん喜多さん』にて宮藤とのコラボレーションは続くが、長年にわたる信頼関係はいつしか宮藤に「長瀬くん主演で暑苦しいロック映画を」という着想をもたらし、そしてついに前人未到のヘヴィメタルな川岸に向けて皆で漕ぎ出していくことを決意させた。

 『池袋ウエストゲートパーク』から15年の月日を経て、ますますその人間的な懐深さが増した長瀬智也という存在は、今回もまた宮藤の作り出した荒唐無稽な世界観に荒ぶる魂をもたらす原動力となっている。役柄としては全く別物とはいえども、そこには宮藤とこれまで織りなしてきた作品群、さらにはデビュー作の『ツインズ教師』以来、これまで演じたあらゆる役柄の輪廻転生が集約されているとみていい。そうやって赤鬼“キラーK”という役柄は見事に結実したのだ。

■進化し続ける神木という存在

 ところで、長瀬が覚醒した『池袋ウエストゲートパーク』はTBSの金曜ドラマ枠にて21時からの放送だったが、ちょうど同じクールでそれに続く22時から放送されていたのがミステリードラマ『QUIZ』だ。前年放送された『ケイゾク』を彷彿とさせる謎が謎を呼ぶ展開が特徴的だったが、おそらく本作で何よりも皆を惹きつけたのが、天使のような無垢な美しさを持ったひとりの少年の存在である。それが当時、小学生になるかならないかくらいの神木隆之助。物語の核となる誘拐事件の結末は口が裂けても明かせないが、しかし作り手たちがこの頃から、神木隆之介の俳優としての特異点を見抜いていたことだけは確かだ。

 かくも隣り合う時間帯どうしでニアミスしながら始まった長瀬と神木の15年史だが、それからちょうど1年後に放送されたドラマ『ムコ殿』では同じひとつの屋根の下で共演を果たしている。大家族のムコ養子となった人気ミュージシャンを長瀬が演じ、神木はその幼い甥という役どころ。単なる共演を超えて、親子のような、年の離れた兄弟のような、そんな不思議な間柄を演じたふたりに、他にはない特別な絆が芽生えたであろうことは想像に難くない。

 その後の神木は誰もがハッとする神童のような輝きを持ちながらも、決して表面的な個性にとどまらず、そのベールを剥ぎ取ったところにまた別の側面が隠れているような複層的な深みすら表現できる才能となっていく。

 『るろうに剣心』や『SPEC』のようなある種の非情さを秘めた役どころでも、『桐島、部活やめるってよ』や『バクマン。』のようななりふり構わずひとつの道に完全にのめり込む青年を演じるにしても、決して見たことあるようなキャラに落とし込むのではなく、神木にしか表現しえない何かに昇華させる。そしてなおかつ、仮に自分の演じる役柄が強烈な毒素を放ったとしても、それを自らの力で絶妙な具合に中和することができる。彼の演技にはそんな不思議な作用が働いているような気がしてならない。

 そうやって進化し続ける彼は、2011年の「11人もいる!」で宮藤作品に初出演。今回の『TOO YOUNG TO DIE!』ではこれまでの印象をガラリと変え、共演者全員が太鼓判を押すほどの「チャラくて、ウザい」キャラを全力投球で演じているのも楽しい限りだ。

■地獄の果てで、ぶつかり合うふたり

 各々の道を歩んで、何の因果かこの“地獄”に流れついた長瀬と神木。『TOO YOUNG TO DIE!』の記者会見では長瀬が神木に関して触れた「こんなにたくましくなって…」という言葉も印象的だった。撮影当時の神木の年齢は、ちょうど長瀬にとって『池袋ウエストゲートパーク』や『ムコ殿』に主演した頃の自分の年齢とほぼ同じ。きっと胸のうちに様々な熱い思いが去来したはずだ。

 撮影現場では神木の方から「あそこの芝居はどんな感じにしますか?」と相談に来ることもあったとか。ふたりして「久しぶりの共演作が、こんなにぶつかり合える作品でよかったね」(プレス資料より)と語り合ったエピソードも、なんだかストーリーとは別次元のところで彼らにしか体感しえない感慨が刻まれていたことをうかがわせる。これはふたりの15年の集大成であると同時に、次の15年へ向かうスタートラインでもあるのだろう。

 両者ともに俳優としてのタイプは全く違うが、それぞれの世代を代表するカリスマ性を持ったふたりであることは疑いようがない。そんな彼らが映画の中では互いに影響を及ぼしあい、やがてひとつのメロディを口ずさみながら心をひとつに重ね合わせる。長瀬が持つ、底からこみあげるような情熱を神木が受け継ぐ時、観客はきっと役者どうしの化学変化を超えた濃厚な何かを受け止め、大いに胸震わせるに違いない。『TOO YOUNG TO DIE!』はそんな映画なのだ。

牛津厚信

最終更新:7/6(水) 18:35

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