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「軍隊がないとなんで幸せ?」『イッテQ!』イモトアヤコの疑問に答える

HARBOR BUSINESS Online 7/7(木) 9:10配信

 7月3日、『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ)でタレントのイモトアヤコさんが中米コスタリカを訪れた様子が放映された。イモトさんは、同国が「世界で最も幸せに暮らせる国ランキング」1位だと紹介し、その第一の理由を伝聞形で「軍隊(テロップでは常備軍)を廃止した国」と語る。

 続けて「軍隊がないとなんで幸せ?」と素朴な疑問を投げかけると、スタッフは「戦争にならないからじゃないの」と曖昧な答えを返した。

 イモトさんは「もし向こうから(攻めて)来たときに軍がないとアチャーってなっちゃう」と疑問を重ねる。結局、「自称反抗期のイモト、色んなことにつっかかる」で片づけられてしまった。これには視聴者もイモトさんも、もやっとしたままだ。そこで、それはどういうことなのかを解説したい。

◆「世界で最も幸せに暮らせる国」の判断基準とは

 まず、最初に紹介される「世界で最も幸せに暮らせる国」について。これは正確には、イギリスのニューエコノミクス基金(NEF)という研究所が毎年発表している“Happy Planet Index(HPI)”、日本語訳では「地球幸福度指数」という。

 コスタリカが1位である理由について、番組では「常備軍がないこと」に加え、「自然エネルギー先進国」であることの2つだと説明された。ここにひとつの誤解がある。

 HPIのウェブサイトには、ランキングを算出するための計算式と変数が書いてある。基本数式はいたって単純で、(経験的幸福度)×(平均余命)÷(エコロジカル・フットプリント)だ。「経験的幸福度」は世界的世論調査会社であるギャラップ社の調査を利用し、幸福度を0~10の間で評価してもらう。

 平均余命は国連開発計画(UNDP)の調査を、エコロジカル・フットプリントは世界自然保護基金(WWF)の調査をもとにする。あとは各国ごとに数字を代入すればランキングが出るというわけだ。

 つまり、常備軍がないことと、自然エネルギー先進国であることは、間接的には影響しているものの、同指数1位となった直接的な理由ではない。

◆「幸せ」は主観的なもの

 自然エネルギーの話の後、「エコがなぜ幸せに結びつくのか」とさらなる疑問を重ねるイモトさん。それは、HPIを算出する数式に使われる変数によって説明できる。

 経験的幸福度は「いい人生を送っていると自分で思えるか」。平均余命は「何年生きられるか」。エコロジカル・フットプリントは「それが次世代まで持続可能なものか」だ。「地球に優しい」の部分は、幸せだと思う人生が長く続くことが前提で、それがどれくらい先の世代まで享受可能かという部分なのだ(厳密には「主観的な幸せ」にも関係するのだが、ここではあえて極論にしておく)。

 イモトさんは番組中、「人それぞれの幸せがある」と力説する。その通りで、だからこそ主観的な幸せを調査した「経験的幸福度」が変数の1つになっている。これらの変数の説明が不足していれば、このような疑問を持つのも不思議ではない。

◆コスタリカの常識は日本の非常識!?

 コスタリカが隣国から攻めてこられたことは、軍隊廃止後何度もあった。そのプロセスは拙著『丸腰国家』やこれまでの記事で詳述しているのでここでは省くが、再軍備せずにそれらの軍事的危機を乗り越えたからこそ、彼らは多くの日本人とは違う結論を持っている。

 すなわち、「非武装こそ最大の防衛力だ」という確信だ。日本でそう考えている人がいないわけではないが、非常に少数派だろうし、多くのコスタリカ人ほど確信的でもないだろう。

 違う国には違う“常識”があるのは当たり前だ。それは世界中をロケで旅して回っているイモトさんにはよく分かることだろう。たまたま、ほとんどのコスタリカ人の軍隊に関する常識が、私たちの多くが持っているものとは違う、たったそれだけのことなのだ。だから、イモトさんの疑問も自然だし、それと違う常識がコスタリカにあることもまた自然だといえる。イモトさんは、その「常識の差異」に遭遇したにすぎない。

◆「軍隊がないこと」は幸せの最低条件

 はるばるコスタリカまで行った先で浮かんだ疑問なのだから、その場にいた普通のコスタリカ人たちに聞いてみれば面白い結果になっただろう。「軍隊がないことと幸せはどう関係するのか?」と彼らに尋ねてみると、多くの肯定的な答えが返ってくるのに驚いたかもしれない。

 幸せではないと感じるコスタリカ人は少なくない。だからといって、軍隊を持った方がいい思う人はまずいない。軍隊さえなければ幸せだとは考えないが、軍隊がないことが幸せの最低条件だとも考えている。平均的日本人からすると、コスタリカ人こそ“珍獣”かもしれない。

 この件に関するネットメディアの“記事”を見ると不正確なものが多く、「ウヨVSサヨ」といったいつもの構図に落とし込められたものも散見される。中にはコスタリカを「南米」と書いているものすらある。その程度の認識では、この“珍獣”たちの頭の中はとうてい理解できないだろう。

 イモトアヤコさん、これで少しはスッキリしたでしょうか? 次回はぜひ直接コスタリカ人に聞いてみてください。きっとたくさんの面白い、私たちの常識ともネット情報とも違う答えを聞くことができますよ。

取材・文/足立力也(コスタリカ研究者。著書に『丸腰国家~軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略~』など。コスタリカツアー(年1~2回、次回は8月23日出発)では企画から通訳、ガイドも務める。「伊勢谷友介 KAI presents EARTH RADIO」にゲスト出演時のコスタリカ解説がPodcastで配信中)

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:7/7(木) 15:29

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北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。