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慈善事業の形までも変える、IT起業家たちの自負と焦り

Forbes JAPAN 7/8(金) 8:30配信

「ノブレス・オブリージュ」。欧米では、富めるものが社会に富を還元するのは当たり前のことだ。だが、IT業界発の富豪たちが異なる次元の金額とロジックで世界を変えようとしている。

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「すべての親と同じように、君には、今日よりも良い世界で暮らしてほしいと僕らは思っている」

2015年12月2日、SNS「フェイスブック」のマーク・ザッカーバーグCEO(32)は、妻プリシラ・チャンとの間に生まれた長女マックスへの手紙のなかでそう記した。

16億人のユーザーを抱える世界最大のソーシャル・ネットワークを育て上げたザッカーバーグは、娘に「そうなるよう役目を果たすつもり」と約束し、慈善事業を目的にした有限責任会社「チャン・ザッカーバーグ・イニシアティブ」を設立。彼らが所有する「フェイスブック株の99%(時価450億ドル相当)を、生涯を通じて段階的に贈与していく」と宣言したのだ。

特徴的なのが、「有限責任会社(LLC)」という形態を選んだ点である。従来、慈善事業ではパブリック・チャリティや非営利の私立財団を立ち上げることが多かった。例えば、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長夫妻が設立した「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」がそれに当たる。このような慈善目的の非営利団体は非課税である一方で、毎年、基金の最低5%を寄付することが米連邦法で定められている。

その点、LLCにはそうした制約が少なく、より幅広い民間の社会貢献事業や慈善事業に投資できる。ザッカーバーグも、「投資から得た利益を使って、さらに(人類の可能性を追求し、万人の平等を促進する)ミッションを進めたい」と語っている。

同じように、オークションサイト「イーベイ」共同創業者のピエール・オミダイアは「オミダイアネットワーク」、スティーブ・ジョブズの妻、ローリーン・パウエル・ジョブズも教育や移民問題に特化したLLC「エマーソン・コレクティブ」を創設。やはり、フェイスブックの共同創業者のダスティン・モスコヴィッツも妻のカーリ・ツナと「グッド・ベンチャーズ」というLLCを立ち上げている。

モスコヴィッツも「人類はネットワークやテクノロジー、経済、社会などの面で良くなっており、それは続くはず」と楽観的に語り、「その進歩を加速するために、最大限のインパクトを与えうる効果的な寄付と投資がしたい」と創設の意図について明かしている。すでに、グッド・ベンチャーズでは教育や司法、移民の分野を中心に120以上の寄付をしているほか、人工知能の開発企業に投資している。
--{IT起業家たちの自負と焦り}--
イーベイやフェイスブックが生まれたテクノロジー業界は競争が激しく、効率が重視される。また、インターネットやスマートフォンの普及により、プロダクトやサービスは世界的に使われている。こうした合理性と楽観主義、そして壮大なビジョンを併せ持つシリコンバレー発の起業家たちは、慈善事業の形まで変えようとしているのだ。

なかでも、ソーシャル・ネットワークの発達は大きい。フェイスブックやツイッターといったサービスは、世界中の人をリアルタイムでつなぎ、世界の隅々から情報を汲み上げている。貧困や差別、環境問題などが写真や動画を通じて伝わることで、単に寄付をするだけでは対応しきれない、と一部のIT起業家たちは考えるようになった。

それに、彼らはビジネスで雇用や起業家のエコシステム(生態系)をつくる重要性も理解している。前出のオミダイアは、イーベイが自営業者を数多く生み出した経験を引き合いに「市場原理が社会を変革する大きな力になる」と語っている。

その一方で、焦りもある。ザッカーバーグも愛娘への手紙の中でそれを隠そうとはしない。

「僕はこれから何年もフェイスブックのCEOを続けることになる。でも、こうした問題は君や僕らが年をとってから取り掛かるのでは遅すぎるんだ」

妻のチャンも米専門誌「クロニクル・オブ・フィランソロピー」の取材に、「教育改革や疾病対策、堅固で平等な共同体づくりといった難題は、25年から50年、場合によっては100年以上の時間をかけて取り組まなくてはいけません」と答えている。

自分たちのサービスが短期間で世界を変えたという自負。そこから見えてきた、解決に時間を要する社会問題への焦り。こうした時間感覚が、新世代の慈善事業家たちを突き動かしている。

Forbes JAPAN 編集部

最終更新:7/8(金) 8:30

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