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札幌から1時間半、田んぼの中にある 招福楼出身、これぞ日本料理の名店

CREA WEB 7/8(金) 12:01配信

vol.11 夕張郡栗山町(北海道)
里山が迫る田んぼの中にぽつねんと建つ一軒家

 前回に続いて、北海道の食をご紹介したい。

 その店は夕張郡栗山町にある。栗山町とは、札幌の西方、約30キロ離れた町である。

 札幌から電車で1時間、車で1時間半かかる町で、しかも電車もバスも1時間に一本以下という不便な場所なので、札幌駅からバスで向かい、帰りは電車で帰るか、レンタカーを借りて出かけるしかない。しかも駅の近くではなく、里山が迫る田んぼの中にぽつねんと建つ一軒家である。

 店の名は「味道広路(あじどころ)」という。正直に言って、店名が野暮ったい。初めて訪れた時は、店名を聞いて不安になったほどである。

 ところが、全国でも有数の、時の食材を生かした見事な日本料理を出す。先日も京都の有名割烹の料理人をお連れしたが、舌を巻かれていた。

 ご主人は、滋賀県八日市の名料亭「招福楼」の出身。東京上野にあった支店の料理長まで務められたが、地元に帰って割烹を始められた。

 なにより素晴らしいのは、京料理の技術を生かしながら、マネをせず、地元の食材と真摯に向き合って、いっさいケレン味がない料理を出し続けていることだろう。わざわざこの地まで多くの食通が訪れているところも、それが理由である。

 6月にいただいた5,000円のコースは以下の通りである。

「アンコウの煮こごり」「すぐりメロン(間引きした小さいメロン)と甘草の花の煮物」「原木椎茸とシジミの和え物」「凍り豆腐とウニの煮椀」「支笏湖のチップ(ヒメマス)と苫小牧のオヒョウのお造り」「クレソン、赤がれいと根曲がり竹と秋田蕗の煮物」「ジャガイモとツブ貝の和え物」「黒ソイの煮物の芹と茄子添え」「胡麻鯖すし」「じゅんさいのデザート」。

 どうです。地味でしょう。

 最近の割烹に出かけて出会う食材はウニと鯖くらいじゃないですか。しかし地味ながらも、しみじみと美味しい。

旬を生かし、心を持ってもてなす

 特に素晴らしかったのは、「凍り豆腐とウニの煮椀」である。

 凍み豆腐とウニという、抱き合いそうもない二つの食材が、なにごともなかったかのように、自然に寄り添い、互いの持ち味を共鳴させている。

 ウニは決して出過ぎずに、豆腐の持つ優しい甘味と静かに馴染み、互いが互いを敬愛しあっている。

 最近の日本料理では、うすい豆の豆腐の上にウニが「どうだ」といって、乗せられていることが多い。

 確かには美しく、見栄えはいいが、食べてみればウニの味が勝ちすぎて豆腐の持ち味が消え、かつ豆腐とウニの味が合っていない。

 しかしこの料理は、適妙なウニの加熱と、ウニを豆腐の下に置くことによって、凍み豆腐とウニが見事に抱擁して、見事な美味しさを生み出している。

 ウニがてれんと舌に甘え、豆腐が湯葉のようにとろんと崩れて甘く、ウニと溶け合う。
そこへ青柚子が香って、味を締め、季節を漂わす。

 時折思う、日本料理はどこへ向かうのかという不安を払拭してくれる、これが「日本料理」ではないだろうか。

 日本中で京料理が出される中、地の食材を見つめ、高級な食材も安価な食材も同等に扱い、生かす。

 この一皿こそ、「旬を生かし、心を持ってもてなす」という日本料理の心が集約された料理だった。

味道広路(あじどころ)
野に山に、川や海、水、太陽の陽射し、すべての自然の恵みを尊重し、四季折々の新鮮な素材を、作りたての味、色、香り、食感を皆様に楽しんで頂きたいと思います。 先人の知恵と郷土の温もりを大事にしつつ、素朴さと、僕の個性を融合して、お料理をつくり、心よりおもてなし致します。(ホームページより)

所在地 北海道夕張郡栗山町字湯地40-35
電話番号 0123-73-6677
営業時間 昼 12:00~14:30、夜 17:30~21:00
料金 昼 3,000円~(夜のメニューも承ります)、夜 5,000円~10,000円位 ※別途消費税、サービス料10%
定休日 火曜、第2水曜
アクセス 札幌からバス(高速くりやま号)又はJRで栗山駅(室蘭本線)に到着。 栗山駅よりタクシーで5分、徒歩20分。 車の場合は道央自動車道、江別東インターから20分、岩見沢インターから20分
URL http://ajidocoro.com/
※未就学のお子様は不可、クレジットカード利用不可

マッキー牧元(まっきー・まきもと)
1955年東京出身。立教大学卒。(株)味の手帖 取締役編集顧問 タベアルキスト。立ち食いそばから割烹、フレンチからエスニック、スイーツから居酒屋まで、全国を飲み食べ歩く。「味の手帖」 「銀座百点」「料理王国」「東京カレンダー」「食楽」他で連載のほか、料理開発なども行う。著書に『東京 食のお作法』(文藝春秋)、『間違いだらけの鍋奉行』(講談社)、『ポテサラ酒場』(監修/辰巳出版)ほか。

マッキー牧元

最終更新:7/8(金) 12:01

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