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志茂田景樹という生き方:「一貫して僕は僕。普通じゃないと言うのが偏見」

ローリングストーン日本版 7/9(土) 18:00配信

連載 煙たい男たち|Case28 志茂田景樹

一貫して僕は僕なんで、それを普通じゃないと言うのが偏見なんですよ



独特のファッションで現れた志茂田景樹は、麻布十番にある事務所から飯倉の交差点近くの撮影場所まで歩いてきたらしい。むしろそれぐらいの距離を歩くのは朝飯前で、時間がある時は事務所から自宅のある武蔵境まで約20キロを歩くこともあるのだという。

現在76歳だが、健康だし、煙草も酒もやめていない。撮影が始まると美味しそうに煙草を吸う。聞けば、高2の頃から吸っているらしい。「煙草を吸ってから背が伸びだして、大学3年生まで伸び続けて179cmになったんです。大学の時、井の頭公園で中学3の時にクラスで一番背が高かった171cmのヤツに声をかけられたんですけど、自分より低いところにいるから誰だかわからなかったことがありましたね」と、ユーモラスなエピソードを教えてくれた。煙草を始めた当時、志茂田が通っていた都立国立高校は旧制中学の名門で、厳しい学校だった。それでも人気のない体育館や近所の桑畑で一服していた。仲間の何人かは学校に見つかり、停学を喰らったそうだが、なぜか志茂田は平気だったという。その理由を尋ねると「うちは父親が厳しくて、僕のお姉ちゃんをしょっちゅう叱ってて。お姉ちゃんは立川の市役所に勤めていたんですが、モダンな人でね、赤いハイヒールを履いてたんだけど、親父はそれが許せなかったみたいで、ハイヒールを投げ捨てていましたから。そんな様子を見ていたから、どうやったら怒られないのか、要領を得ていたのかもしれませんね」と、煙草を燻しながら人懐っこい笑顔で答えてくれた。

そんな話を聞いて疑問に思うのが、志茂田の服装。赤いハイヒールがダメで、タイツ・ファッションを厳格な父親が許すはずがない。だが、「それに関しては全然大丈夫でしたね」と飄々と教えてくれた。

志茂田独特のタイツ・スタイル

志茂田の不思議なファッションを筆者が最初に見たのは、90年代初頭に彼が『笑っていいとも!』にレギュラー出演していた時だった。紹介時、肩書きには〈直木賞作家〉とあった。当時、筆者は大学生だったが、ブラウン管の中のタイツ姿で不思議なヘアのキテレツなおじさんが直木賞作家なはずがないと思った。目の前にいる志茂田に告げると、あっさりとこう言われた。「一貫して僕は僕なんで、それを普通じゃないと言うのが偏見なんですよ。僕を変だって言う人のほうが変なんです」と。穏やかな口調のまま、彼は続けた。「だってずっとこの格好を貫いてきて、今は普通に皆こういう格好をしてるでしょ? この間も若いヤツが『志茂田さんは今の若い人のファッションをマネしてるんですよね?』って言ってきたんだけど、『僕はずっと前からこれですよ』と言ってやりました」と笑っている。

確かに今にして思えば、志茂田独特のタイツ・スタイルは何ら珍しいものではない。とはいえ、やはり80年代にはかなり風変りだった。一体、どんなふうにあのスタイルは始まったのか。

大学時代はファッション誌を愛読して流行を追っていたが、人マネが嫌で、自分らしい格好を模索し始めた。身長179cm、細身で手足の長い志茂田はガールフレンドが付けているブレスレットを「似合うから」と勧められて付けるようになった。直接のきっかけは、80年代後半、ニューヨークにデザインの修行に行っていた友人がお土産にセクシーな笑顔のマリリン・モンローが上から下までプリントされたタイツを2足買ってきてくれたことだった。最初は『これは男じゃ履けないな』と思っていたが、大学卒業後、幾つか仕事を転々とした後、作家としてキャリアをスタートしていた志茂田は、当時、執筆のため、白金の(シェラトン)都ホテルに缶詰になっていた。その時、貰ったまま放置していたマリリン・モンローのタイツにふと目が行った。そのタイツを履き、鏡の前に立ってみたら、『カッコいいじゃない!』と思った。時は5月。陽気もよく、志茂田はタイツ姿で外出をする。ところが・・・通りを歩きだすと、すれ違う人、すれ違う人、皆、ゲッ!!と驚いた顔をする。「特に中年男性は、なんだコイツ?って顔をする。今も昔も中年以上の男性は、自分の価値観からはみ出したものを理解しようとする頭がなくてダメですね。子どもと女性のほうが柔軟」と当時を振り返り語った。さらに歩いていると・・・3人組の男性とすれ違う。40代半ばで3人とも同じ会社のバッヂを付けていた。「仮名で言うと、M物産のバッヂでしたね。40代というと課長くらいでしょ。なので見た目は紳士だし、僕を見てもなんだコイツ?っていう顔はしない。でも、すれ違った後、立ち止まって絶対にこっちを見てるぞ、と思い5~6歩進んで振り返ったら、案の定、立ち止まって僕を指さしていましたね。文字通り『後ろ指』を指された。流石に恥ずかしくなってホテルに戻って着替えようと思ったんですけど、かなり歩いてきちゃったので、進むも地獄、戻るも地獄で、こうなりゃ進んでやろうと思って目的地の銀座まで歩いて行きました」。銀座で仕事をする予定だったが、仕事はせず、夜まで待ち、夜の銀座に飲みに出た。だが夜の銀座でもそのファッションは大変な騒ぎになったという。

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最終更新:7/9(土) 18:00

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