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一見の価値あり 高速道路で出会った個性派トイレ

エイ出版社 7/13(水) 17:00配信

高速道路のトイレをめぐる旅

高速道路のトイレは、一体いつからキレイになったんだろう。

子どもの頃、SAやPAのトイレは、もっと暗くて怖かった。トイレットペーパーがない、なんていうのは序の口で、長い行列の末にやっとたどり着いた個室のドアがずれていてなかなか閉まらなかったり、床がびしょびしょでスボンの裾が濡れて半泣き、なんてこともあった。夜の手洗い場で、腐食した鏡に切れかけの蛍光管がチカチカ映り、侘びしさがいっそう募った記憶もある。とにかく、『トイレはできる限り急いで用を済ませて出てくるところ』だった。

今、高速道路のトイレを使って、そんな思いをすることはない。明るくて清潔。これは当たり前で、さらに独自性がプラスαされていたりする。

静岡県に「おいしいハンバーグを出すファミリーレストランがある」というので、少し前に東名高速道路を使って行ってきたところなのだが、途中立ち寄ったEXPASA足柄のトイレは、温水便座があった(これが最近の普通なの?)。着替え用のスペースもあった。使用状況を示すライトもあった。これまであまり意識したことはなかったが、知らない間に高速道路のトイレにはドラスティックな変化があったらしいのだ。

さて、高速道路のトイレをめぐるそんな進化について語った本が『ニッポン見便録』だ。『東方見便録』でアジア各地のトイレを、『東京見便録』で東京のトイレをつぶさにレポートした斉藤政喜さんによる『トイレをめぐる旅・第三弾』だ。斉藤政喜さんといえば、シェルパ斉藤のペンネームでも知られる紀行作家。今回は、その斉藤さんが奥さまとともに、高速道路のトイレを実際に巡ってレポートしている。

訪れたトイレは、中央自動車道、東名高速道路、新東名高速道路より98ヶ所(上り下り含む)。特筆すべき充実のトイレ14ヶ所がイラストとともに描かれている。『江戸時代風』『中世のお城風』などなどの個性派が並ぶ中で、私が特に心を引かれたのが、富士川SA(下り)の女性用トイレ(イラスト上)。

私もそうなのだが、奥にある個室よりも手前にあるものの方を選びがちだ。それはもう、排泄をめぐる人間の心理に根ざしたものなのかもしれない。しかし、そうすると奥の個室は混雑時でも使用されていないというケースも発生してしまい、こうした事態を防ぐために、利用者を奥へ誘導するギミックを導入している。それが『魚のステッカー』だ。

奥が近く見える遠近法の効果を狙い、魚のステッカーが、手前に少なく奥に向けて多く貼られている。魚の群れに引き込まれて、つい奥に行きたくなってくるから不思議(“サバンナ効果”と呼ばれるものらしい)。

まあ、ここまでならば「なるほど。よく工夫されているんだな」で終わるのだが、NEXCO中日本の伊藤佑治氏(通称:サバンナ伊藤氏)は、その効果を実験するべく、奥さまと二人で利用者の少ない深夜にステッカーを貼りにきたのだそうで、思いがけずこぼれ出てきた夫婦協同作業のエピソードに心をとらえられた。公私を超えて、「いいトイレを作ろう!」とする意気込みを感じる。どんな仕事も、誰かの思いの上に成り立っているんだなぁと思わされたのだった(富士川SAに立ち寄ることがあったら、ぜひチェックしてみてほしい)。

ところで、この本は高校生の息子と一緒に読んでいたのだが、彼いわく「行ってみたいトイレが女性用ばかりだ」とのこと。このお魚ステッカートイレもそうだった。女性のほうが、トイレの滞留時間が長いので、デザインにも力が入るのかもしれない。言い換えれば、女性が長居したくなるようなトイレが増えているということでもある。女性を味方につけたほうが、世の中いろいろうまくいく、ということなんだろうなぁ。

これから夏休みにかけて、高速道路を使って遠出する機会も増えるだろう。トイレの個性にも目を向けてみると、一味違った楽しみ方もできるかもしれない。

百名 晶子

最終更新:7/13(水) 17:00

エイ出版社