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「離脱後のバラ色の未来」は嘘だった EU離脱・英国の未来その3

Japan In-depth 7/13(水) 7:02配信

EUからの離脱を決めた英国での国民投票が、またまた注目を集め始めている。

先の参議院議員選挙において、憲法改正に前向きな勢力が、ついに3分の2の議席を確保し、改憲の発議が可能となったからだ。議会において改正案が可決されたなら、次は国民投票でその是非を問うこととなる。

自民党の本当の狙いが9条改正にあることは明らかだが、消息筋によれば、安保法制が成立したことで、ただちに9条を改正せずとも自衛隊の海外派兵はすでに可能になっているから、当面は、大規模災害などを想定した緊急事態条項などの「加憲」を目指すという方針に、官邸は傾きつつあるらしい。まず、国民投票で憲法の条文を変えた、という既成事実が欲しいのだろう。

たしかに、「憲法改正を議論すること自体がよくない、というのは、責任ある政治家の態度ではない」と言われたならば、反論は難しいだろう。護憲派はますます追い込まれた。

私自身、日本国憲法を一字一句たりとも変えてはならない、という立場ではないのだが、今次の英国における国民投票が、非常に危険な先例となったことは指摘しておきたい。

多くの有権者が、「どうせ残留派が勝つだろう」と見越していたことはすでに述べたが、それ以上に、離脱派の主張がひどかった。

「EUから離脱すれば、週当たり3億5000万ポンドに達する拠出金が不要となるので、これをNHS(無償の医療サービス。全ての公立病院で適用される)に回せる」

「EU離脱と同時に移民の流入を英国政府の判断だけで規制できる」

まず前者について言えば、すでに述べた通り、全てがEUのために使われているわけではなく、直接投資やEUからの補助金という形での割り戻しを度外視した金額であった。

ちなみに、英ポンドは国民投票後に120円台にまで暴落したが、この「公約」がなされた当時は170円近かった。つまり、資金不足に悩むNHSに、毎週およそ600億円を供給できると、離脱派は訴えたのだ。当然ながら、これは空手形もいいところであった。

離脱派の旗振り役であった、英国独立党のナイジェル・ファラージ党首など、この公約についての質問には、「私は言った覚えがない」、「公約と受け取られたとすれば、それは離脱派の誤りであった」などと、もはやどこかの知事状態。その上、さっさと党首を辞任してしまった。勝ち逃げとは言うも愚かで、これこそ責任ある政治家の態度ではあるまい。

後者については、もう一人の旗振り役で、辞任したキャメロン首相の後継者候補と言われてきたボリス・ジョンソン元ロンドン市長が、選挙期間中は、「EUの自由市場へのアクセスは担保しつつ、移民の規制は実現する」などと、まるで魔法が使えるかのような政策をとなえていた。

しかし、二人三脚で保守党党首選を戦うことを期待していた、ゴーブ元司法相が、「彼(ジョンソン氏)にはリーダーシップも政権を担う準備もない」と突き放し、自ら党首選への立候補を表明したことで、戦わずして撤退してしまう。そのゴーブ氏も、下院議員による第一次投票で大敗と、まったくよいところがなかった。

最終的には、キャメロン首相の側近で、残留派であったテリーザ・メイ内相が、離脱派の論客だったアンドレア・レッドサム資源エネルギー副大臣との「女性対決」を制して、新首相になることが決まったが、この話は次回詳しく見る。

とどのつまり離脱派は、EUから離脱することで、どのような外交的・経済的デメリットが生じるのかさえ、まともに検証することもなく、「離脱後のバラ色の未来」を描いて見せたのである。前回、今次の国民投票に対する橋下徹・元大阪市長の見解に対して、私が一定の評価を与えつつも、「やはり離脱派の勝利は、悪質なポピュリズムであったと断じざるを得ない」と結論づけたのは、具体的にはこのことを指している。

離脱後のバラ色の未来は、嘘八百であった。これが選挙結果に反映されたものである以上、安易に信じ込んだ有権者が悪い、では済まされないと私は思うのである。

林信吾(作家・ジャーナリスト)

最終更新:7/13(水) 7:02

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