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西鉄の黄金期の博多を舞台に描く新聞記者とヤクザの奇妙で心温まる友情 『ライオンズ、1958。』 (平岡陽明 著)

本の話WEB 7/14(木) 12:00配信

 2013年にオール讀物新人賞を受賞した平岡陽明さんの初長編は、1950年代の博多とプロ野球界を描いた物語だ。なぜ平岡さんは、この時代のプロ野球に着目したのだろうか。

「雑誌編集者をしていたとき、各界の無頼派を集めた『日本無頼派列伝』という特集を担当したことがあるんです。西鉄ライオンズの黄金期を支えた豊田泰光さんに話を伺いましたが、飲む、打つ、買うのエピソードばかり。話はめっぽう面白いのに、過激すぎてほとんど記事にできない(笑)。そのときの内容がずっと頭に残っていました。思い返せば、僕は子どもの頃から野球が大好き。人生の折々に野球が関わっています。少年野球はもちろんのこと、高校では野球部に熱中しすぎて留年したし、就職活動では、巨人の番記者になりたくて報知新聞を受験しました。かつて、野球は国技でした。男たちは例外なくご贔屓のチームに熱狂し、自己投影した。そんな野球への郷愁が、この小説の根っこにはあるのかもしれません」

 平岡さんが描いた西鉄ライオンズは、1956年から1958年にかけ、3年連続日本一となり黄金期を築いた。このチームの特徴は、観客と選手の距離の“近さ”だったという。

「西鉄ライオンズのホームだった平和台球場は、すごく小さいんです。ファールグラウンドが狭くて、話しかけたら簡単に選手に声が届くほど。練習のときにおばちゃんがおにぎりを持って来て、レフトの関口選手に渡していたくらいですから(笑)。この小説の主人公のひとり、大下弘は当時の大スター。それなのに自宅を子どもたちに開放し、大下の家で宿題をやる子もいたといいます。また大下は少年野球チームを率いて、一緒にプレーもしていた。野球少年にとっては夢のような環境ですよね。当時人口50万の片田舎だからこそ、地元の人にとっても大下、稲尾、豊田、仰木といったスター選手が身近だった。街ぐるみで球界の盟主・巨人を倒した。西鉄の黄金時代は、九州の黄金時代でもあったんです」

 物語は、西鉄が初めて日本シリーズを制した1956年の冬から始まる。新聞記者とヤクザの奇妙な友情を軸に、当時博多を熱狂させていた西鉄ライオンズ、そしてそこに暮らす人々の生活を、生き生きと描く。

「1950年代を描くことは、僕にとって歴史小説を書くようなものです。歴史小説がいいのは、現代では失われてしまった感情を自然な形で提示できるところ。新聞記者とヤクザの友情なんて、現代が舞台だったら嘘くさくなるでしょう。でも昭和30年代であれば、大人の男同士の暑苦しい友情も、ある種のリアリティあるファンタジーとして読者は楽しんでくれるんじゃないかなと。時代が進むにつれて人がどこかに置き忘れた感情を、フィクションでなら取り戻すことができる。それが小説のいいところだし、僕自身、人間が持っているあらゆる感情を味わってみたいという欲もあるんです。その意味で、1950年代の博多を舞台に物語が書けたのはいい経験になりました。まだ人間に土の匂いがしていた時代の物語を味わって頂けたら幸いです」

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『ライオンズ、1958。』 角川春樹事務所 本体1600円+税

平岡陽明(ひらおかようめい)

1977年、神奈川県生まれ。慶応義塾大学文学部卒業。フリーライター、フリー編集者。「松田さんの181日」で第93回オール讀物新人賞受賞。

聞き手:「別冊文藝春秋」編集部

最終更新:7/14(木) 12:00

本の話WEB

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