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江戸を作った技術者たちの奮闘 『家康、江戸を建てる』 (門井慶喜 著)

本の話WEB 7/15(金) 12:00配信

 近年は豊富な知識を下地にした歴史小説に傾注している門井慶喜さんが、今回題材に選んだのは“江戸の街”だ。

「お釈迦さまが生まれてすぐ天上天下唯我独尊と言ったとか、三島由紀夫が『仮面の告白』で自分が生まれたときの光景をおぼえていると言ったりとか、偉い人の生まれたときのエピソードって有名ですよね。それと同じように、東京ってどう生まれたんだろうという興味から、江戸のジェネシス(創世記)を書こうと思いました。とはいえ、石や川は主人公にはならないし、徳川家康を主人公にした小説もこれまでに何千冊とある。そこで私は、むしろ家康を一種のプロデューサーと捉えて、その部下である街づくりのエキスパートを主人公にしようと思いました」

 各章では、年齢や性格も様々な技術者たちが活躍する。「流れを変える」では臆病者とあなどられていた役人・伊奈忠次が湿地対策のための利根川の川曲げを取り仕切り、「金貨(きん)を延べる」では野心たっぷりの若者である橋本庄三郎が貨幣鋳造をなしとげる。そして「石垣を積む」では江戸城の石垣のための石を巡って“見えすき吾平”と呼ばれた石切(採石業者)の生涯が淡い悲哀とともに描かれる。

「嫌な上司の部下になったらどう対応すればいいのだろうとか、ビジネス書のように読む方もいるようです(笑)。テレビ番組の『ブラタモリ』のように街歩きに役立ててもらったり、『プロジェクトX』のように課題を解決する過程を楽しんだり、色々な読み方ができると感想をいただいています」

 そして、最後の一章「天守を起こす」では、二代将軍秀忠が父・家康から白壁の天守閣の造営を命じられ、その意図を計りかねて悩む。大坂城を見ても分かる通り、当時は黒うるしを塗った黒い壁が一般的だったからだ。本書のラスト、秀忠が出した答えと家康とのやり取りを通じて、家康が江戸に託した思いが明らかになる場面は読者の胸を打つ。

「駿河や遠江、三河など豊かな東海五か国と、広大な湿地でしかない関東との交換を秀吉から命じられたとき、家康は悩みながらも、江戸の街づくりを決断した。秀吉に大坂城が建てられたんだから俺もやってやるというライバル心もあっただろうし、その一方で、自分の寿命に対する焦りもあったと思います。でも、家康が作った江戸は大発展して、いまの東京になりました。過去の話じゃないんです。私は歴史小説を書いてはいますが、テーマはいつも火が出るほど現代的なつもりです」

 歴史との現代的格闘は、今後も続きそうだ。

門井慶喜(かどいよしのぶ)

1971年群馬県生まれ。2003年「キッドナッパーズ」でオール讀物推理小説新人賞受賞。16年『マジカル・ヒストリー・ツアー』で推協賞評論部門受賞。

聞き手:「オール讀物」編集部

最終更新:7/15(金) 12:00

本の話WEB