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鮮やかに反転する6つの世界 『ポイズンドーター・ホーリーマザー』 (湊かなえ 著)

本の話WEB 7/15(金) 12:00配信

「今回の短篇集は年に1回刊行される小説誌のために書いてきたものだったので、読後感のことや連作にすることを意識するのではなく、その時に書きたいものを伸び伸びと書いたものです。短篇ですから無駄な文章は省いて、山場や反転をどのように作っていくか……どの原稿を書いていても楽しかったですね」

 著者の湊かなえさんは、デビュー作『告白』で本屋大賞を受賞して以降、映像化された作品も数多く、心を揺さぶる長編を紡ぐ作家のイメージが強いだろう。しかし、本書は〈姉と妹〉〈ライバル〉〈男と女〉〈母と娘〉といった人間関係を、鮮やかに反転させ、まさかの結末へと導く極上のミステリーが6作収録された短篇集だ。

「短篇というのは、長編にできるひとつのプロットを、短い中に全力でぶつけて書くもの。特にミステリーであれば、それぞれ違うトリックが入っているわけだから、すごく贅沢なんじゃないかと思います」

 実際、表題作となっている「ポイズンドーター」「ホーリーマザー」は、最近話題となっている〈毒親〉を扱い、これを長編にすることも十分に可能だったという。

「毒親を取り上げたのは、みんなこの言葉に乗っかりすぎているように感じていたからです。ひとつ言葉が出来るとそこに所属先ができたように安心して、専門書や新書もどんどん出てくる。その中で些細なことでも次々にエピソードとして挙げることが、逆に本当に救済が必要な人の姿を隠してしまっているような気がします。話の核の部分をしっかり見せるためにも、対になっている2篇はちょうどいい長さでした。最近は毒親というものを語る芸能人の方もよく見かけますが、虐げたとされる親のほうの反論というのは聞いたことがありません。確かに娘は辛かったのかもしれないけれど、親にも親の言い分があるはず。それぞれの立場から、それぞれの視点での物語をきちんと書きたいと思いました」

 読書を通じて自分に見えていない視点で物事を見ることによって、自らを縛るものから解放される契機にもなるのではないか――実際、「他人を羨んだり、妬んだり、実の親をどうしても嫌悪する自分が嫌でしたが、この本を読んでそういう感情を持つ方が普通なんだと楽になりました」という読者の声も届けられたそうだ。

「自分に重なるエピソードが、どこかに必ずある1冊でしょうね。最初から決めていたわけではないのですが、人間関係や考えていることの裏側を見つめられた手応えを感じています」

湊かなえ(みなとかなえ)

1973年広島県生まれ。2007年「聖職者」で小説推理新人賞。08年『告白』でデビューし、翌年本屋大賞受賞。16年『ユートピア』で山本周五郎賞。

聞き手:「オール讀物」編集部

最終更新:7/15(金) 12:00

本の話WEB

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