ここから本文です

報道のその先にある真実 『真実の10メートル手前』 (米澤穂信 著)

本の話WEB 7/15(金) 12:00配信

 新聞記者を辞めた女性フリージャーナリストの太刀洗万智が、ネパールで遭遇した事件を描いた『王とサーカス』が、前年の『満願』に続き、昨年末のミステリランキングを席巻。余韻も冷めやらぬなかで発売された、太刀洗シリーズ2作目の短篇集である。

「もともと表題作の『真実の10メートル手前』は、『王とサーカス』の導入部分として書いた、主人公の太刀洗の記者時代の話でした。『王とサーカス』は、彼女にとって特別な体験でしたが、その前に、彼女が普段、記者としてどういう仕事をしているのかを描きたかったのです。しかし、いざ書いてみると、どうも木に竹を接いだようになってしまうので、これを、外すことになったのですが、そのまま短篇小説にして短篇集が組めるので、間を空けず出すことになりました」

 冒頭の表題作は、ベンチャー企業の美人広報の失踪事件を、まだ新聞記者だった頃の太刀洗が追う話だ。広報の女性が妹へ酔って掛けた電話の内容から、太刀洗は意外な真実を見つける。このように、今回の短篇集では、事件関係者が残したある情報に触れた太刀洗が、報道などで構築された“事実”に違和感を抱き、取材し、その裏にある“真実”に辿りつくという展開がメインとなる。その過程が、謎解きの魅力と見事に融合しているのだ。

「書いた時期はバラバラですが、時系列とともに、彼女が仕事のやり方を覚えていく様子を出せたらと思い、物語を配置しました。『王とサーカス』や表題作は、彼女が駆け出しの頃の仕事なので、多分に仕事のやり方にも未熟なところがありますね」

 フリーになった太刀洗のスタンスが明確になるのが「名を刻む死」だ。“願わくは、名を刻む死を遂げたい”と一文を残し、孤独死した老人を発見し逡巡する中学生。事件から20日後、太刀洗は彼の元を訪れるのだが……。

「いち早く世の中に知ってもらうことは大切ですが、テレビや新聞の速報性とは違う角度で、より掘り下げていくのが彼女の仕事。そして、彼女の見つけた真実により、傷つく人もいれば、救われる人も出てきます」

 また、「正義漢」と「ナイフを失われた思い出の中に」では、既刊『さよなら妖精』の懐かしい登場人物を思い出して、ファンも、思わず顔がほころぶことだろう。

「実はシリーズを通して意識したことはないのですが、この話を書きたいと思った時に、彼女なら、こなせるのではと役割を割り振るような感じでしょうか……。また彼女に登板してもらう機会も、もちろんあると思いますね」

米澤穂信(よねざわほのぶ)

1978年岐阜県生まれ。2014年『満願』で山本周五郎賞受賞。同作と翌15年『王とサーカス』で、国内ミステリランキング史上初の2年連続3冠達成。

聞き手:「オール讀物」編集部

最終更新:7/15(金) 12:00

本の話WEB

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。