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メイ新首相のお手並み拝見 EU離脱・英国の未来像 その4

Japan In-depth 7/15(金) 12:01配信

英国の新首相が決まった。

直前まで、テリーザ・メイ内相と「女性対決」を演じていたレッドサムエネルギー副大臣が撤退し、無投票で保守党党首選を制したもので、マーガレット・サッチャー以来、26年ぶりに女性の首相が誕生することとなる。

英国では、今も立憲君主制が守られているため、エリザベス2世女王による指名による就任となるわけだが、現地時間の13日に、その手続きも終えた。

就任演説では、EUからの離脱問題よりも「社会的弱者に手を差し伸べる」といった所信表明に力が入れられたが、一方では、前回紹介したボリス・ジョンソン元ロンドン市長を外相に起用する人事を発表し、離脱に向けての決意を内外に示している。

いずれにせよ、新首相決定の報を受けるや、国民投票によってEUからの離脱が決まって以降、急落した株式相場や英ポンドも値を戻している。誰の目にも、英国の政治的混乱が思ったほど長期化しない、との観測が広まった結果であることは明かだろう。

残留派であったメイ首相が、EUからの離脱交渉の矢面に立つわけで、きわめて困難な政局運営を余儀なくされるが、本人は、「国民は離脱をはっきりと選択した」と明言し、交渉を長引かせて最終的には残留もしくは再加盟になるのでは、という観測を一蹴した。再度の国民投票も、あり得ないと断言している。

もともと彼女は、保守党主流派に属し、党幹事長、そしてキャメロン政権での内相という立場上、残留派に名を連ねてはいたが、実のところはトルコの加盟などEUの拡大には否定的な見方をしており、心情的には離脱派に近かったと見られていた。

ただ、国会議員の多数派は今も残留派、もしくは離脱派に与したことを後悔している人たちなので、EUから離脱するための法整備を目指しても、法案がすんなり通るとは考えにくい。財界からのプレッシャーもきつく、今後の政局は「進むも地獄、退くも地獄」そのものとなるであろう。

ならば解散総選挙は、と思われた向きもあろうが、そうは行かない。

日本と違って英国は、首相の解散権に厳重な制限が設けられているのだ。2011年任期固定議会法というのがそれで、それまでは首相が解散を決められた(これも厳密には、首相が国王に上奏し、国王が解散を命じる)のだが、この国王大権が削除され、議会の解散は、内閣不信任案が可決するか、議員の3分の2が解散に賛成した場合に限られるのだ。

2010年の総選挙で、労働党が敗れて野に下ったわけだが、勝利した保守党も単独過半数を確保できず、世に言うハング・パーラメント(hung parliament)の状況であった。そこで、自由民主党を取り込んで連立政権となったわけだが、この過程で、任期一杯の5年間は解散しない、との密約がまず交わされ、それを具現化すべく法案が成立したものと、衆目が一致している。

とどのつまり、現在もっとも理解しやすいシナリオは、こうだ。メイ新首相は、国民投票の結果を尊重するという大義名分のもと、EUとの離脱交渉に望むが、同時に、離脱の通告は「年内は行わない」と明言している。

2017年のある時期に、離脱を通告した場合、リスボン条約の規定により、その日から2年以内に新たな条件について交渉がまとまらなければ、自動的に加盟国たる権利が失われる。

そうであれば、「一定の人的移動の自由(具体的には移民の受け容れ)と引き換えに、EUの単一市場へのアクセス権を得る」という交渉を続けるうちに、2019年を迎える。ここで、ひとまず離脱となり、国民投票の結果を尊重するという公約は果たされる。

すると自動的に、2020年の総選挙は、「本当に離脱してよかったのか。再加盟の余地はないのか」というのが最大の争点になるであろう。再度の国民投票などしなくても、これなら同じ事ではないか。

もちろんこれは、EUとの交渉が、万事英国の思惑に沿って進められる、という前提で描かれているシナリオで、そうは問屋が卸さない、と見る向きも多い。しかしながら、EUもまた、経済的・政策的な行き詰まりに直面し、変化を余儀なくされるとの前提に立てば、あながち荒唐無稽とも言えないと私は思う。

風見鶏よろしく残留派についたり離脱派についたりした挙げ句、英国を奈落の底に突き落とした戦犯となるか、英国議会政治史上最大の難局を乗り切り、マーガレット・サッチャーをもしのぐ女傑として歴史に名をとどめるか。メイ新首相の、明日はどっちだ。

林信吾(作家・ジャーナリスト)

最終更新:7/15(金) 12:01

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