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タックス・ヘイブンの情報秘匿の殻を破ったパナマ文書

Meiji.net 7/19(火) 11:17配信

タックス・ヘイブンの情報秘匿の殻を破ったパナマ文書
下村 英紀(明治大学 専門職大学院 教授)

 今年(2016年)4月、タックス・ヘイブン(租税回避地)の企業情報や取引情報などが記載された機密文書がドイツの新聞社に流出したことが報道され、世界中が大騒ぎになりました。
 しかし、このパナマ文書に記載されているからといって、そのすべての企業が脱税などの違法行為を行っていると決めつけることはできないといいます。では、タックス・ヘイブンの問題点は何なのでしょうか。

◇タックス・ヘイブンは小国の苦肉の戦略

 そもそもタックス・ヘイブンとは何なのかというと、日本語では「租税回避地」などと訳されますが、必ずしも厳密な定義があるわけではありません。通常、税が非常に低率か、もしくはほとんどかからない国や地域のことを指します。
 よく知られているところでは、イギリス領のバージン諸島や、バミューダ、ケイマン諸島がありますが、アジアでは香港やシンガポールなどをいうこともあります。これらの国は小さな島国であったり、非常に小さな地域であったり、特別な産業もなく、経済を成り立たせていくのが困難なところです。
 そこで、会社設立や商取引に関する規制を少なくし、ビジネスが自由にできる環境を整えることで、世界中から富裕層や大企業を招き、会社登記の登録料など、税以外で収入を得ることを国策としているのです。
 ですから、そこに日本の企業が例えば子会社を設立したからといって、それだけで非難することはできません。

 実は、タックス・ヘイブンが怪しいものと見られがちなのは、単に税が低いということではなく、情報の機密性が高いことなのです。誰がそこに会社を設立したのか、所有者は誰なのか、その金融取引は誰の資金なのか、などといった情報がまったく公表されないのです。
 つまり、タックス・ヘイブンに資金が入ると、その後どうなったのかまったくわからなくなる、ブラックボックスのような構造になっています。これが、タックス・ヘイブンの本質的な問題であるといえます。

 実際、犯罪資金や表に出せない資金をマネーロンダリング(資金洗浄)する目的で、タックス・ヘイブンに通すことが世界中で問題となっています。ですから、ブラックボックスの中の情報を公表したという点で、パナマ文書が世界中の注目を集めているのです。
 しかし、決してタックス・ヘイブンはマネーロンダリングとして活用されているばかりではありません。会社が簡単に設立できたり、規制が少ない投資ファンドがあったりと、ビジネスがやりやすく大きな収益が見込めるために、タックス・ヘイブンを利用する個人や企業も多いのです。


◇税負担の不当回避を許さない

 タックス・ヘイブンの問題は、マネーロンダリングのような行為は論外であるとしても、タックス・ヘイブンに実体のないペーパーカンパニーを設立して取引を介在させることによって、また正当なビジネス活動であっても情報のブラックボックスを悪用して、税負担を不当に軽減・回避し、結果として課税を免れようとすることにあるのです。

 もちろん、当局も対策を立てています。それが、日本の場合、38年前の1978年にすでに導入されている「外国子会社合算税制」、いわゆる「タックス・ヘイブン対策税制」です。
 その内容は、日本では通常、税率が20%未満の国をタックス・ヘイブンとみなしていますが、そのような国に設立された実体のない子会社等の所得に相当する金額については、国内の親会社の所得とみなし、それを合算して課税する制度です。

 例えば、日本の親会社が税率0%のタックス・ヘイブンに設立した実体のないペーパーカンパニー子会社に、何百億円もの価値がある技術の特許権を現物出資し、この子会社がこの技術によるロイヤリティで利益を上げた場合、この子会社にはタックス・ヘイブンでは課税がなく、利益は丸々どの国からも課税されない所得となります。
 しかし、子会社の利益が親会社に合算されれば、日本の税率によって日本で課税することができるのです。こうした制度は日本だけでなく、世界各国で類似した制度が取り入れられています。

 しかし、税率が20%未満とはいえ、例えば香港には16パーセント、シンガポールには17パーセントの法人実効税率があります。
 日本の会社がこれらの国でビジネスから生じた所得については、これらの国で課税され、日本でも課税されると二重課税になってしまうため、これを解消するために、外国でかかった税を日本の税金から引く「外国税額控除」という制度があります。
 この制度を円滑に運用するために、税務当局間の納税者情報(銀行機密を含む)の交換を行う「租税条約」があります。

 例えば、日本の納税者が、日本と租税条約を結んでいるA国でビジネスをしている場合に、どういう会社とどのような事業取引や金融取引をしているか、どれくらい所得が発生しているかなど、日本からA国に照会すると、教えてもらえるのです。こうした条約を、2016年5月1日現在、日本は世界96ヵ国・地域と結んでいます。

 また、G20サミットで、各国税務当局間で非居住者の口座情報を自動的に交換する制度の合意がなされました。
 例えば、外国のB国に住んでいる人が日本の金融機関に口座をもっている場合、B国の〇〇という納税者番号をもっている〇〇さんが、日本の金融機関に口座をもち、口座の残高がどれくらいで、利子や配当をどれくらい受け取っているか、ということを日本の金融機関が国税庁を通じて、B国の税務当局に自動的に知らせるのです。

 この制度は2017年から開始されますが、今年(2016年)5月に仙台で行われたG7財務大臣・中央銀行総裁会議でも「“非居住者の金融口座情報の自動的交換”など、税の透明性を高める取組みの重要性を確認」という発表が麻生大臣からなされました。世界各国が協力して、租税回避に対処する姿勢が打ち出されているのです。

 上記の「タックス・ヘイブン対策税制」には、事業者からの申告がなければ適用が難しいという弱点がありました。タックス・ヘイブンの情報はブラックボックスになっているため、税務当局も追及できなかったからです。

 しかし、こうした情報交換が機能すれば、二重課税を回避するだけではなく、タックス・ヘイブンでの所得を申告していなかった事業者を明らかにし、「タックス・ヘイブン対策税制」を適用することが期待できるのです。

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最終更新:7/19(火) 11:17

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