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80年代カルチャーを詰め込んだ『シング・ストリート』、個性溢れるファッションの魅力

リアルサウンド 7/20(水) 20:02配信

 現在公開中の映画『シング・ストリート』が、80年代カルチャーを活き活きと再現していることで、話題を集めている。本作は、『ONCE ダブリンの街角で』『はじまりのうた』のジョン・カーニー監督が新たに手がけた青春映画。1985年、歴史的な不況に突入したアイルランドのダブリンを舞台に、サエない日々を送っていた少年・コナーが一目惚れした女性を振り向かせるためにバンド活動をはじめる模様を描く。SNS上では「サイコーという言葉に尽きる」「傑作。何度でも観たい」「昔みて今でも大事に心にしまってある一本の映画をみたような幸福感」と、賞賛の声が相次いでいる。

 デュラン・デュラン、ザ・キュアー、ザ・クラッシュ、ザ・ジャム、ホール&オーツ、a-ha、スパンダー・バレエなど80年代ミュージックが使用されており、音楽を軸に物語が展開されていく。時代設定に基づいた素晴らしい音楽の数々に懐かしさ、あるいは新鮮さを覚える方も多いだろう。しかし、本作の見どころは音楽だけではない。80年代ファッションをふんだんに取り入れた“衣装”もまた面白いのだ。

 思春期特有の心の不安定さをファッションの変化でも表しており、フェルディア・ウォルシュ=ピーロ演じる主人公のコナーは忙しなくビジュアルが変化していく。また、各々のキャラクターを表現するかのようにバンドメンバー全員が、私服や衣装では違うテイストの洋服に身を包んでいる。一方で、学生ということで同じ制服を着ているシーンも多い。統一感のある制服とのコントラストが、それぞれの個性をより際立たせているのだ。

 統一された制服は、“みんな同じでなければならない”という規則の息苦しさを象徴しているようだ。コナーが茶色の革靴で学校に登校し、校長先生に「靴は黒。校則で決まっている」と注意される場面がある。学校での絶対的な権力者である校長は、画一化をはかろうとするのだ。それに抗うようにコナーはどんどんヘアスタイルが変化していき、時には化粧を施して登校することも。思春期ならではの反抗心が、視覚からもわかりやすく伝わってくる。

 ルーシー・ボイントン演じるヒロインのラフィナは、冒頭は化粧が濃いため、実年齢よりもだいぶ上に見え、キツイ印象を与える。だが、コナーと出会いミュージック・ビデオの撮影を重ねるうち徐々に化粧が薄くなり、若々しい“女の子”になっていく。ファッションは一貫してパンツが多く、1980年代、女性の社会進出が本格化した当時を、セクシーだがパワフルなラフィナの服装で表現している。

 ほかにも、ミュージック・ビデオを撮影するシーンの衣装とメイクは、80年代に流行したニューロマンティックファッションそのものだ。中世ヨーロッパのような衣装と派手な化粧が、当時流行していたUKロックバンドを彷彿とさせる。

 衣装デザイナーのティツィアーナ・コルヴィシエリは、「80年代はお金がなかったから、 新しい洋服を買うことはできなかったわ。たとえお金があって、最新流行の洋服を買いたいと思っても、 ダブリンでは手に入らなかった。若者は常にチャリティーのお店や古着屋に足を運び、時には現代風のファンキーな洋服に見せかけるために自分たちで作り替えたの。それに、70年代のお古もたくさんあったから、親や兄妹の洋服ダンスを漁ったりしてね。アイディアの宝庫だったことは確かね」と当時のライフスタイルを研究し、衣装に反映したことを明かしている。(引用:『シング・ストリート』公式サイト)

 少しずつ形は変わっていくものの、流行は何度も繰り返すため、80年代のファッションは現在も根強い人気を誇る。だからこそどこか懐かしくもあり最先端のようにも感じさせる本作の衣装は、観ているだけで心が踊る。さらに、小物やインテリアなどの細部にもこだわりを感じ、お洒落であると同時に、物語によりリアリティーと深みを与えている。いつの時代も音楽とファッションの関係性は強い。どちらも丁寧に描かれている『シング・ストリート』は、そんな80年代の空気を味わうのに打ってつけの一作といえよう。

戸塚安友奈

最終更新:7/20(水) 20:02

リアルサウンド