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サイバーエージェント、「AbemaTV」で攻めまくる“メガベンチャー”の意外な堅実経営

HARBOR BUSINESS Online 7/20(水) 16:20配信

「ネットとテレビの融合」とは、筆者がまだ中学生になりたての頃、フジテレビを買収しようとして世間を騒がせたホリエモンのスローガンだ。

⇒【資料】サイバーエージェントの売上高

 あれから10余年、高成長を続けるネットと、いまだに「メディアの王様」の地位を占めるテレビは互いにしのぎを削り合っている。その様子は拙著『進め!! 東大ブラック企業探偵団』でも詳しく扱ってきた。

 そんな拙著の出版直後の今年4月に本格的なサービスを開始したのが、「AbemaTV」だ。サイバーエージェントとテレビ朝日が合同で出資、運営しているこの事業は24時間無料で番組を配信する、世界でも例を見ないネットTVである。

 サイバーエージェントの藤田晋社長はこれまで、芸能人向けブログサービス「アメーバブログ」を手がけるなど強くマスメディアを意識してきたが、いよいよ本命たる「テレビ」に挑戦しているといえる。

 公開から3か月あまりで、早くも500万DLを突破し、快調な同サービスを運営するサイバーエージェントとはどんな会社なのか? 数字を読み解き、競合のIT企業やテレビ企業と比較することでその実態を把握したい。

◆強気の姿勢も……パッとしない新規事業

 サイバーエージェントと聞いて、読者はどういう会社をイメージするか。真っ先に浮かぶであろうサービス、もっとも親しまれている「アメーバブログ(アメブロ)」だろう。また最近では、AKB48や三代目J Soul Brothersとトークできるアプリ「755」や、定額制音楽配信サービス「AWA」などが注目を集めた。

 社員にはいわゆる「キラキラ女子」や、カッコいい社員が多く、「21世紀を代表する会社を創る」という壮大なビジョンのもと、若くから子会社の社長を任され、新規事業にチャレンジできるなどの企業文化があるとされている。

 しかし実際は「サイバー」「エージェント」という名前が示す通り、創業以来のインターネット広告代理店事業が依然として、売上の柱であることに変わりはない。

 これに次いで大きいのがゲーム事業で、利益自体は広告事業より大きい。「アメブロ」「AWA」「755」「AbemaTV」など、積極的なCM広告やPRで、同社が全面に押し出しているAmeba事業が占める割合は売上、利益ともにごくわずかだ。

 これは、ともに時価総額4000億円前後と、ほぼ同規模の会社であるDeNAのセグメント別売上、利益に類似している。

 DeNAも、「マンガボックス」や「Showroom」、その他キュレーションメディアなど積極的に新規事業を展開する“攻め”の社風をウリにしているが、依然として圧倒的に売上を立て利益を生み出しているのはソーシャルゲームだ。本業でしっかり現金を稼いで新規事業に投資しているというわけである。

◆他社比較で判明!サイバーの特異な経営構造

 次に損益計算書(PL)を見て、原価の構造を把握しよう。

 有力ネット企業同士で比較すると、なんといってもmixiの特異性が際立つ。売上原価を示す青色の部分がほとんどないのがお分かりだろうか。設備投資などを必要としないIT企業の真骨頂である。逆にサイバーはIT企業の中では売上原価の割合が非常に高い。

 参考までにサイバーエージェントが参入する大手テレビ局の数値も入れてみたが、まだまだ乗り越えるべき壁は大きいことがわかる。

 原価の中身はほとんど、媒体費だ。広告事業を行っているため、メディアに配分する費用がかさむのである。ゲームや新規事業一本でやれば原価はおさえられ、利益率が高い構造にできることには違いない。

 現に、ゲーム事業のみの営業利益率は20%を超える。しかし、ゲームは浮き沈みが激しい。「パズドラ」を手がけるガンホーが一時任天堂の時価総額を抜いたことがあったが、’16年7月現在では10分の1以下になっていることからも、それが窺い知れる。

 やはり高い利益率は望めなくとも、サイバーエージェントは同社のルーツである「広告代理店」業と、切っても切り離せないのだろう。

◆意外とケチ!? 他社より少ない保有現金、投資額

 次に貸借対照表(BS)からサイバーの財務状態を見ていこう。全体的には良好で、借入金は10億円にも満たない。’13年度にFX事業から撤退して以降、財務の安定性を示す指標である自己資本比率も改善した。

 保有する現預金はおよそ300億円。しかし、実はこの額はIT企業の中ではそう多い方ではない。

 例えばDeNAはほぼ同規模の時価総額の会社でありながら倍近い現金を持っている。近年凋落が著しいと言われるグリーもそれ以上現金を持っているし、mixiに至っては保有現金が1200億円にも達する。ソーシャルゲーム一本足でやっている企業ほど、手元に残る現金は多いということだろう。

 キャッシュフロー計算書(CF)を見てみると、本業で稼いで入ってきたお金を示す「営業キャッシュフロー」に関しては、mixi以外のネット企業からは遅れを取っていない。

 しかし、投資している額を示す「投資キャッシュフロー」(マイナスの値が大きければ大きいほどたくさん投資をしている)をみると、DeNAの半分程度しかない。積極的な新規事業投資を謳っているが、実際に使っているお金は実はそう多くないということだろう。

 ただ、連結している子会社の数でみると、サイバーエージェントの小会社数はDeNAを凌ぎ、それ以外の3社を圧倒している。子会社をたくさん創り、社員に経営を経験させるというのは口だけのスローガンではなく、実態が伴っているようだ。

 投資額や保有現金の絶対的な少なさから、おそらく少額でたくさんの会社を創って結果が出なければ潰し、また新しいのを創らせる……というサイクルをたくさん回していると思われる。サイバーエージェントの手がけるサービスは3年以内に早期終了するものも多い。

 結論として、サイバーエージェントはIT企業のなかでは、売上原価が構造的に高く、圧倒的に儲けるのは難しい、保有現金もそう多くないため、大胆な戦略を取るのは難しい。その代わり多角化で安定しているという、イケイケな会社のイメージとは裏腹の堅実経営を行っているといえる。

<文/大熊将八>

おおくましょうはち○瀧本哲史ゼミに属する現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者

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最終更新:8/25(木) 18:16

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