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作家・阿部智里と女子高生・阿部智里。8年の時を経た最新作『玉依姫』 『玉依姫(たまよりひめ)』 (阿部智里 著)

本の話WEB 7/22(金) 12:00配信

「『山内』かぁ。もしかしたら、『山内』の物語とは、長い付き合いになるかもしれない」

 執筆中に閃くような予感を得たのは、今から、もう八年も前のことである。

 比較的早い段階で文筆業を志すようになった私の人生は、常に「どうやったら面白い物語が書けるのだろう」という、非常に楽しい悩みと共にあった。

 小学生の頃はハリー・ポッターに憧れて、西洋ファンタジーを書こうとした。だが、西洋をろくに知らないまま書けるはずもなく、途中で投げ出してしまった。

 中学生の頃はその反省を活かし、東洋ファンタジーを書こうとした。だが、出来上がった世界観は既存作品のまねに他ならず、東洋も私にとっては広大過ぎることを思い知った。

 高校生になり、日本人である自分は日本を舞台に書くのが良いだろう、という答えにようやく行き着いた。そして書かれた物語が、『玉依姫』である。

「もし、生贄にされた女の子が、自分を殺すかもしれない赤ん坊の神様を育てろと言われたらどうなるだろう?」

 そういう思いつきに、日本神話をからめた和風ファンタジーだ。書いている最中、神様の住まう異界を表現する用語が必要になり、出来た言葉が『山内』であった。

 山の中だから山内でいいや、という安直極まりない理由で出来た言葉だったのに、タイピングした途端、まるで宝石の鉱脈でも掘り当てたかのような気分になったのだ。

 思えばその時こそが、デビュー作以来、現在まで続く八咫烏シリーズが物語としての輪郭を顕わにした瞬間だった。

シリーズの正真正銘のエピソード0

 私にとって、執筆作業とは化石の発掘に似ている。無作為に埋もれているアイデアを雑念の中から掘り起こし、意味のあるものとただの石ころとに分別し、試行錯誤を繰り返しながら、作品という名の恐竜の形に組み上げる――。

 さしずめ、『山内』の語はオパール化したティラノサウルスの牙である。地表にちょこっと覗いているだけで、まだ地中に何が埋まっているかは分からないけれど、何だかすごいものを見つけてしまった気がする、と。その予感は見事に当たり、高校時代の『玉依姫』では脇役だった八咫烏達を主役として、いわばスピンオフの形で書いた『烏に単は似合わない』は、私のデビュー作となった。それに続く形で「八咫烏シリーズ」は展開し、シリーズ五作目という形で、『玉依姫』へと戻って来ることが叶ったのである。

 八年前の稚拙な作品のリライトは、苦痛の連続だった。しかし、高校版『玉依姫』には、今の自分にはない圧倒的な熱量があった。物語の主人公は女子高生なので、当時、女子高生だった私だからこその等身大の叫びには、学ばされる部分も多くあった。

 今回出版される『玉依姫』は完全な新作と言うよりも、作家・阿部智里と、高校生・阿部智里――二人の人物による合作、と言った方が正確かもしれない。物語と作者、ふたつの意味で時空を越え、正真正銘のエピソード0である『玉依姫』。

 かつての私ともども、読者の方に楽しんで頂ければと願っている。

文:阿部 智里

最終更新:7/22(金) 12:00

本の話WEB