ここから本文です

LINEとクックパッドに見る、国産ITサービスが海外戦略に失敗するワケ

HARBOR BUSINESS Online 7/22(金) 9:10配信

 LINEがとうとう上場した。事前の公募価格に基づく予想では、時価総額は5000億円程度と見込まれていたが、蓋を開けてみれば初日の終値換算で9100億円と、予想を上回る結果となった。

⇒【資料】クックパッド”のれん”の内訳

 しかし、LINEは一昨年に上場申請した際、時価総額2兆円規模もありうると言われていた。それが半減以下に落ち込んだ背景には、ここ2年の同社の世界展開における苦戦がある。

◆世界、アジアのシェア競争に出遅れたLNE

 LINEは日本、台湾、タイの3か国でトップシェアを誇り、タイでは独自にTV配信まで手がけるほど普及している。しかし、それ以外の国ではアメリカ発でFacebookが買収したWhatsAppか、中国のテンセントが手がけるWechatが首位。インドネシアでなんとかトップ争いに加われている程度なのだ。

 約1年前、’15年4月に森川亮氏の後を受けて社長に就任した出澤剛氏は「我々は世界にチャレンジするチケットを手にいれた」と語っていた。しかし、今回の上場会見では、一転、「世界での陣取り合戦は終わった」と述べ、前述した4か国のシェアを確保し、ポータルとして事業を多角化していく構想を語った。

 世界を獲ることを諦める替わりに、タクシー配車や音楽定額配信、ライブ配信、漫画などすでに手がけている事業のマネタイズと更なる多角化、M&Aを加速させていくということだ。

 そもそも、IT企業であるLINEは、メーカーなどと違ってそこまで固定費がかからない。国内でメッセージングサービスだけを運営するのであれば、わざわざ複雑な手続きを踏み、情報公開を義務付けられてまで上場して資金調達する意義は薄い。

 そんな条件下で、LINEが上場する目的は大きく分けて2つしかない。

 多くのIT企業が上場する目的、その1つは海外進出で、もう1つは事業投資による多角化だ。LINEはこれまで両方をやろうとしていたが、今後は後者に集中していくのだろう。

◆海外進出か多角化か

 この流れを見て、筆者が思い出したのが、今年1~3月、現社長の解任を巡って投資家を中心に世間を騒がせたクックパッドだ。

 創業者でありながら取締役に退いていた佐野陽光氏が、自身が’12年に禅譲した穐田誉輝氏を大株主の権限を使って解任。佐野氏に近い岩田林平氏に首をすげ替えたようとした、この騒動は不健全な企業統治の一例として国内外から問題視された。

 だが、そもそも佐野氏と穐田氏の対立が生まれた根幹的な原因は、経営方針の違いにある。

 創業者の佐野氏は「食」の領域に強いこだわりを持っており、それは「クックパッド」という社名や会社のロゴからも見て取れる。企業理念も「毎日の料理を楽しみにすることで、心からの笑顔を増やす」だ。

 クックパッドは創業以来のレシピサービスで国内圧倒的トップのシェアを獲得しており、今度、佐野氏はそれを世界に展開しようと考えた。(その時点ですでに穐田氏が代表に代わってはいたが、)アメリカ、スペイン、インドネシアと海外現地企業を次々と買収していったのだ。

 その結果、海外ユーザー数は2000万人を超すまでに至ったが、英語圏では伸び悩み、昨期はアメリカ子会社の経営不振で2億7000万円の減損を計上してしまう。

 海外子会社買収時の”のれん”は合計すると、30億円以上に達する。企業会計における”のれん”とは、買収の際につくプレミアムのことで、簡単に言えば買収した会社が思ったように成長しなかった場合に減損として計上され大きく利益を押し下げる存在だ。

◆クックパッドお家騒動の根源

 現在のクックパッドは売上高が147億円、営業利益は65億円で営業利益率40%という日本有数の高利益率の企業で、現預金も売上高とほぼ等しい140億円も有する盤石の経営体質だが、前述した多額ののれんの減損は、それを揺るがしかねないリスクになる。

 過去、絶頂期のグリーも現地企業の買収によりアメリカに進出したが、のちに180億円超の減損損失を計上。同社が上場後初の赤字を出すきっかけとなったことは記憶に新しいだろう。

 さて、’12年に佐野氏から代表の座を譲り受けて以降、海外買収に着手するかたわら国内での事業多角化を迅速に進めたのが、穐田氏だ。

 個人レッスン予約サービスの「コーチ・ユナイテッド」や習い事のプラットフォーム「サイタ」などの生活インフラ全般の関連事業を買いあさり、昨年は約29億円を投じて「みんなのウェディング」を買収した。なんだか、ベネッセやリクルートがやっていそうなサービスばかりで、もはや「料理を楽しみにすること」とは無関係だ。

 今のところレシピ事業が売上に占める割合が圧倒的に高いままだが、佐野氏はレシピサービスに集中して海外進出に力を入れるべきだとして、穐田氏の路線に真っ向から反発。両者の溝は埋まらず解任劇に発展した。

 結果として、市場が支持したのは、創業者ではなく、穐田氏の方だった。現に、株価は、穐田氏の社長就任以降およそ10倍になり、お家騒動が表面化した際は、一時ストップ安になるほど急落した。佐野氏が取締役に復帰し、騒動が収まって以降も、株価は以前の半額ほどだ。

◆IT分野での世界進出の難しさ

 自動車や家電を始めとする製造業では古くから海外展開を成功させてきた日本企業だが、ITサービスは現地と日本の文化の違いなどが普及のネックとなったり、現地のプレーヤーに勝てなかったりするケース。もしくは、買収しても子会社のマネジメントがうまくいかなかったり、アメリカ、中国の大資本に競争で負けたり、と様々な理由から、成功例がほぼない。

 拙著『進め!! 東大ブラック企業探偵団』では、グローバル化とIT化という変化の波に適応して、衰退する国内を脱して世界に打って出て、チャンスを掴んだ会社のみが生き残ると書いた。しかし、そもそも日系ITベンチャーのグローバル化はどこもうまくいっておらず、市場からも評価されていないのだ。

 最近では非上場のまま、ベンチャーキャピタルからのみの資金調達で海外進出に取り組んでいる企業もある。ニュースまとめサービスを手がけるスマートニュースと、フリマサービスのメルカリだ。2社とも、’14年からアメリカ進出を開始した。

 ただ、好調な国内のダウンロード数増加とは対照的に、’16年7月16日現在のアメリカのAppStoreランキングのトップ50にどちらも入っておらず(ちなみに1位は”Pokemon Go”である)、今後どこまで踏ん張れるか注目といった具合である。

◆大株主としてクックパッドの世界進出を諦めない佐野氏

 LINEは出澤社長の「陣取り合戦は終わった」という言葉のとおり、世界制覇をめぐる競争からは降りることとなった。市場はその堅実性を評価し、株価の下落は避けられるだろう。それは上場企業としては正しい姿勢だが、一時は国産発のアプリで世界を獲ると言っていた企業だと考えると、その冷静な転身ぶりには少し寂しさを感じる。

 一方、上場企業にも関わらず会社を振り回し、少数株主の利益を損ねたとして批判された佐野氏は、中高時代を過ごしたアメリカ・ロサンゼルスに昨年度より再び住所を移した。その地でも自社のレシピサービスが流行ることを夢見て佐野氏は取締役、大株主としての権利を行使し続けるだろう。

 果たして佐野氏の執念が実り、クックパッドが日本発の世界制覇するIT企業になる日は来るのだろうか? 日本のIT企業が世界を席巻する姿を見てみたい気もしないでもない。

<文/大熊将八>

おおくましょうはち○瀧本哲史ゼミに属する現役東大生にして、東大・京大でベストセラーの企業分析小説『進め!! 東大ブラック企業探偵団』(講談社刊)著者

ハーバー・ビジネス・オンライン

最終更新:7/22(金) 12:22

HARBOR BUSINESS Online

TEDカンファレンスのプレゼンテーション動画

北朝鮮からの脱出
北朝鮮での幼少時代、『ここは地球上最高の国』と信じていたイ・ヒョンソだったが、90年代の大飢饉に接してその考えに疑問を抱き始める。14歳で脱北、その後中国で素性を隠しながらの生活が始まる。 これは、必死で毎日を生き延びてきた彼女の悲惨な日々とその先に見えた希望の物語。そして、北朝鮮から遠く離れても、なお常に危険に脅かされ続ける同朋達への力強いメッセージが込められている。